上 下
33 / 41

展望台で、終わりと始まり(2)☆

しおりを挟む
「あれ、紘人?」
「なに、知り合い?」
「うん、元彼」

 後ろから、聞いたことのない女性の声と、その連れ合いと思われる男性の声が聞こえた。私の紘人さんのことかと思い、思わず振り返る。繋いでいた彼の手に、一瞬で力が籠められた。

「あ、やっぱり紘人だー。それ、新しい彼女?」
「……紘人、さん?」
「ねえ、紘人の彼女さん? 紘人さぁ、重くない? 一緒にいて疲れるなら早めに別れたほうがいいよぉ。すぐ結婚とか言ってくるし。それともまだ言われてない? もしかして遊び相手?」
「おいおい、もしかしてこいつか? 重くて、別れたって言ってたの」
「そうそう。それ。ちょっと遊んでただけなのにさぁ、婚約破棄だって言われて、慰謝料とかマジでだるかったぁ」

 今までに紘人さんから聞いていた話と、点と点が繋がって線になった。この女が、紘人さんを傷つけて、苦しめていたのかと、お腹の底から怒りが沸き上がってくる。思い思いの話をして楽しそうに過ごすカップルでざわつく展望台の一角で、ここだけ空気が凍り付く。

「……紘人さんと、前にお付き合いされていたようですが、私にとっては、紘人さんは重くないですし、今日も楽しくデートしているところなので、邪魔しないでもらえます? わざわざ、こんなに人の多いところで、紘人さんに昔のこと思い出させるの、止めてください」

 大事な紘人さんを傷つけられるのが許せなかった。足も手も震えているのに、言葉が止まらない。彼の元カノを睨みつけた。紘人さんは私の手をより一層強く握る。

「あなたが紘人さんを裏切って、傷つけて……やっと今幸せな気持ちでいられるのに、どうしてわざわざ邪魔をするんですか? 私の、私の大事な紘人さんに二度と関わらないで。私もあなたの顔なんて、二度と見たくない。浮気して、紘人さんの心をぐちゃぐちゃにして……それを悪いとも思っていないってこと、今の言葉だけでよくわかりました。そんな人に、紘人さんの時間を一秒だって使ってほしくない。ねえ、紘人さん、もういいです。夜景は今度見ましょう? どいてもらうより、私たちが移動した方が早いです。紘人さん、ね?」

 強張る紘人さんの手を引いた。しかし、彼はその場から動こうとしなかった。

「彼女の、言う通りだよ。結婚するのが嫌で、浮気して慰謝料まで払ってわざわざ別れた男に声を掛ける必要もないだろう? 人の幸せな気持ちを踏みにじるのが好きなのは今も昔も変わらないんだね。俺のほかに、傷つけられる人がいないことを祈るよ。本当に、もう二度と話しかけないでくれ」

 紘人さんの手も声も震えていた。悲しかったことを思い出しているのがわかる。それでも、言葉を選びながら、強い口調で言い切った。

「なにそれ、あたしが悪者みたいじゃん。浮気くらいよくない? 一回遊んでただけじゃん。真面目ぶって、バカみたい。紘人のことなんて、好きでもなんでもなかったのに、好きって言ってきたのそっちだし、結婚する気もなかったのにプロポーズしてきて、意味わかんなかったのに。親にも怒られて、マジ最悪だったのに」
「最悪なのは、あなたでしょ? 好きでもないのに紘人さんに愛されて、別れるタイミングなんていくらでもあるはずなのに付き合い続けることを選んだのも、プロポーズを断らずに婚約したのも、あなたじゃない。紘人さんはあなたのこと大切にしていたのに、あなたは……あなたは、誠意の欠片もなくて、話を聞けば聞くほど許せない。あなたみたいな人と紘人さんが結婚しなくてよかった」
「……うざ。全然可愛くないのに、こんなのと付き合って、紘人、女見る目ないね」
「彼女の悪口は止めろ。お前みたいに人の幸せをめちゃくちゃにする女なんかと比べるのも失礼なくらい、素敵な女性だよ……お前、いい加減にしろよ。こんなところで、慰謝料を払うことになった時点で、お前が悪者だって確定してるんだよ」
「うざい。二人とも、まじでうざい。ね、行こ。絡まなきゃよかった」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】十六歳の誕生日、許嫁のハイスペお兄さんを私から解放します。

どん丸
恋愛
菖蒲(あやめ)にはイケメンで優しくて、将来を確約されている年上のかっこいい許嫁がいる。一方菖蒲は特別なことは何もないごく普通の高校生。許嫁に恋をしてしまった菖蒲は、許嫁の為に、十六歳の誕生日に彼を自分から解放することを決める。 婚約破棄ならぬ許嫁解消。 外面爽やか内面激重お兄さんのヤンデレっぷりを知らないヒロインが地雷原の上をタップダンスする話です。 ※成人男性が未成年女性を無理矢理手込めにします。 R18はマーク付きのみ。

【R18】男嫌いと噂の美人秘書はエリート副社長に一夜から始まる恋に落とされる。

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
真田(さなだ)ホールディングスで専務秘書を務めている香坂 杏珠(こうさか あんじゅ)は凛とした美人で26歳。社内外問わずモテるものの、男に冷たく当たることから『男性嫌いではないか』と噂されている。 しかし、実際は違う。杏珠は自分の理想を妥協することが出来ず、結果的に彼氏いない歴=年齢を貫いている、いわば拗らせ女なのだ。 そんな杏珠はある日社長から副社長として本社に来てもらう甥っ子の専属秘書になってほしいと打診された。 渋々といった風に了承した杏珠。 そして、出逢った男性――丞(たすく)は、まさかまさかで杏珠の好みぴったりの『筋肉男子』だった。 挙句、気が付いたら二人でベッドにいて……。 しかも、過去についてしまった『とある嘘』が原因で、杏珠は危機に陥る。 後継者と名高いエリート副社長×凛とした美人秘書(拗らせ女)の身体から始まる現代ラブ。 ▼掲載先→エブリスタ、ベリーズカフェ、アルファポリス(性描写多め版)

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

イケメン仏様上司の夜はすごいんです 〜甘い同棲生活〜

ななこ
恋愛
須藤敦美27歳。彼氏にフラれたその日、帰って目撃したのは自分のアパートが火事になっている現場だった。なんて最悪な日なんだ、と呆然と燃えるアパートを見つめていた。幸い今日は金曜日で明日は休み。しかし今日泊まれるホテルを探す気力がなかなか起きず、近くの公園のブランコでぼんやりと星を眺めていた。その時、裸にコートというヤバすぎる変態と遭遇。逃げなければ、と敦美は走り出したが、変態に追いかけられトイレに連れ込まれそうになるが、たまたま通りがかった会社の上司に助けられる。恐怖からの解放感と安心感で号泣した敦美に、上司の中村智紀は困り果て、「とりあえずうちに来るか」と誘う。中村の家に上がった敦美はなおも泣き続け、不満や愚痴をぶちまける。そしてやっと落ち着いた敦美は、ずっと黙って話を聞いてくれた中村にお礼を言って宿泊先を探しに行こうとするが、中村に「ずっとお前の事が好きだった」と突如告白される。仕事の出来るイケメン上司に恋心は抱いていなかったが、憧れてはいた敦美は中村と付き合うことに。そして宿に困っている敦美に中村は「しばらくうちいれば?」と提案され、あれよあれよという間に同棲することになってしまった。すると「本当に俺の事を好きにさせるから、覚悟して」と言われ、もうすでにドキドキし始める。こんなんじゃ心臓持たないよ、というドキドキの同棲生活が今始まる!

【R18】二度抱かれる(短編集)

白波瀬 綾音
恋愛
ワンナイトは好きじゃないよ お好きなセフレを見つけてください ※表紙にAI生成画像を使っています

【R18・完結】蜜溺愛婚 ~冷徹御曹司は努力家妻を溺愛せずにはいられない〜

花室 芽苳
恋愛
契約結婚しませんか?貴方は確かにそう言ったのに。気付けば貴方の冷たい瞳に炎が宿ってー?ねえ、これは大人の恋なんですか? どこにいても誰といても冷静沈着。 二階堂 柚瑠木《にかいどう ゆるぎ》は二階堂財閥の御曹司 そんな彼が契約結婚の相手として選んだのは 十条コーポレーションのお嬢様 十条 月菜《じゅうじょう つきな》 真面目で努力家の月菜は、そんな柚瑠木の申し出を受ける。 「契約結婚でも、私は柚瑠木さんの妻として頑張ります!」 「余計な事はしなくていい、貴女はお飾りの妻に過ぎないんですから」 しかし、挫けず頑張る月菜の姿に柚瑠木は徐々に心を動かされて――――? 冷徹御曹司 二階堂 柚瑠木 185㎝ 33歳 努力家妻  十条 月菜   150㎝ 24歳

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...