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展望台で、終わりと始まり(2)☆
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「あれ、紘人?」
「なに、知り合い?」
「うん、元彼」
後ろから、聞いたことのない女性の声と、その連れ合いと思われる男性の声が聞こえた。私の紘人さんのことかと思い、思わず振り返る。繋いでいた彼の手に、一瞬で力が籠められた。
「あ、やっぱり紘人だー。それ、新しい彼女?」
「……紘人、さん?」
「ねえ、紘人の彼女さん? 紘人さぁ、重くない? 一緒にいて疲れるなら早めに別れたほうがいいよぉ。すぐ結婚とか言ってくるし。それともまだ言われてない? もしかして遊び相手?」
「おいおい、もしかしてこいつか? 重くて、別れたって言ってたの」
「そうそう。それ。ちょっと遊んでただけなのにさぁ、婚約破棄だって言われて、慰謝料とかマジでだるかったぁ」
今までに紘人さんから聞いていた話と、点と点が繋がって線になった。この女が、紘人さんを傷つけて、苦しめていたのかと、お腹の底から怒りが沸き上がってくる。思い思いの話をして楽しそうに過ごすカップルでざわつく展望台の一角で、ここだけ空気が凍り付く。
「……紘人さんと、前にお付き合いされていたようですが、私にとっては、紘人さんは重くないですし、今日も楽しくデートしているところなので、邪魔しないでもらえます? わざわざ、こんなに人の多いところで、紘人さんに昔のこと思い出させるの、止めてください」
大事な紘人さんを傷つけられるのが許せなかった。足も手も震えているのに、言葉が止まらない。彼の元カノを睨みつけた。紘人さんは私の手をより一層強く握る。
「あなたが紘人さんを裏切って、傷つけて……やっと今幸せな気持ちでいられるのに、どうしてわざわざ邪魔をするんですか? 私の、私の大事な紘人さんに二度と関わらないで。私もあなたの顔なんて、二度と見たくない。浮気して、紘人さんの心をぐちゃぐちゃにして……それを悪いとも思っていないってこと、今の言葉だけでよくわかりました。そんな人に、紘人さんの時間を一秒だって使ってほしくない。ねえ、紘人さん、もういいです。夜景は今度見ましょう? どいてもらうより、私たちが移動した方が早いです。紘人さん、ね?」
強張る紘人さんの手を引いた。しかし、彼はその場から動こうとしなかった。
「彼女の、言う通りだよ。結婚するのが嫌で、浮気して慰謝料まで払ってわざわざ別れた男に声を掛ける必要もないだろう? 人の幸せな気持ちを踏みにじるのが好きなのは今も昔も変わらないんだね。俺のほかに、傷つけられる人がいないことを祈るよ。本当に、もう二度と話しかけないでくれ」
紘人さんの手も声も震えていた。悲しかったことを思い出しているのがわかる。それでも、言葉を選びながら、強い口調で言い切った。
「なにそれ、あたしが悪者みたいじゃん。浮気くらいよくない? 一回遊んでただけじゃん。真面目ぶって、バカみたい。紘人のことなんて、好きでもなんでもなかったのに、好きって言ってきたのそっちだし、結婚する気もなかったのにプロポーズしてきて、意味わかんなかったのに。親にも怒られて、マジ最悪だったのに」
「最悪なのは、あなたでしょ? 好きでもないのに紘人さんに愛されて、別れるタイミングなんていくらでもあるはずなのに付き合い続けることを選んだのも、プロポーズを断らずに婚約したのも、あなたじゃない。紘人さんはあなたのこと大切にしていたのに、あなたは……あなたは、誠意の欠片もなくて、話を聞けば聞くほど許せない。あなたみたいな人と紘人さんが結婚しなくてよかった」
「……うざ。全然可愛くないのに、こんなのと付き合って、紘人、女見る目ないね」
「彼女の悪口は止めろ。お前みたいに人の幸せをめちゃくちゃにする女なんかと比べるのも失礼なくらい、素敵な女性だよ……お前、いい加減にしろよ。こんなところで、慰謝料を払うことになった時点で、お前が悪者だって確定してるんだよ」
「うざい。二人とも、まじでうざい。ね、行こ。絡まなきゃよかった」
「なに、知り合い?」
「うん、元彼」
後ろから、聞いたことのない女性の声と、その連れ合いと思われる男性の声が聞こえた。私の紘人さんのことかと思い、思わず振り返る。繋いでいた彼の手に、一瞬で力が籠められた。
「あ、やっぱり紘人だー。それ、新しい彼女?」
「……紘人、さん?」
「ねえ、紘人の彼女さん? 紘人さぁ、重くない? 一緒にいて疲れるなら早めに別れたほうがいいよぉ。すぐ結婚とか言ってくるし。それともまだ言われてない? もしかして遊び相手?」
「おいおい、もしかしてこいつか? 重くて、別れたって言ってたの」
「そうそう。それ。ちょっと遊んでただけなのにさぁ、婚約破棄だって言われて、慰謝料とかマジでだるかったぁ」
今までに紘人さんから聞いていた話と、点と点が繋がって線になった。この女が、紘人さんを傷つけて、苦しめていたのかと、お腹の底から怒りが沸き上がってくる。思い思いの話をして楽しそうに過ごすカップルでざわつく展望台の一角で、ここだけ空気が凍り付く。
「……紘人さんと、前にお付き合いされていたようですが、私にとっては、紘人さんは重くないですし、今日も楽しくデートしているところなので、邪魔しないでもらえます? わざわざ、こんなに人の多いところで、紘人さんに昔のこと思い出させるの、止めてください」
大事な紘人さんを傷つけられるのが許せなかった。足も手も震えているのに、言葉が止まらない。彼の元カノを睨みつけた。紘人さんは私の手をより一層強く握る。
「あなたが紘人さんを裏切って、傷つけて……やっと今幸せな気持ちでいられるのに、どうしてわざわざ邪魔をするんですか? 私の、私の大事な紘人さんに二度と関わらないで。私もあなたの顔なんて、二度と見たくない。浮気して、紘人さんの心をぐちゃぐちゃにして……それを悪いとも思っていないってこと、今の言葉だけでよくわかりました。そんな人に、紘人さんの時間を一秒だって使ってほしくない。ねえ、紘人さん、もういいです。夜景は今度見ましょう? どいてもらうより、私たちが移動した方が早いです。紘人さん、ね?」
強張る紘人さんの手を引いた。しかし、彼はその場から動こうとしなかった。
「彼女の、言う通りだよ。結婚するのが嫌で、浮気して慰謝料まで払ってわざわざ別れた男に声を掛ける必要もないだろう? 人の幸せな気持ちを踏みにじるのが好きなのは今も昔も変わらないんだね。俺のほかに、傷つけられる人がいないことを祈るよ。本当に、もう二度と話しかけないでくれ」
紘人さんの手も声も震えていた。悲しかったことを思い出しているのがわかる。それでも、言葉を選びながら、強い口調で言い切った。
「なにそれ、あたしが悪者みたいじゃん。浮気くらいよくない? 一回遊んでただけじゃん。真面目ぶって、バカみたい。紘人のことなんて、好きでもなんでもなかったのに、好きって言ってきたのそっちだし、結婚する気もなかったのにプロポーズしてきて、意味わかんなかったのに。親にも怒られて、マジ最悪だったのに」
「最悪なのは、あなたでしょ? 好きでもないのに紘人さんに愛されて、別れるタイミングなんていくらでもあるはずなのに付き合い続けることを選んだのも、プロポーズを断らずに婚約したのも、あなたじゃない。紘人さんはあなたのこと大切にしていたのに、あなたは……あなたは、誠意の欠片もなくて、話を聞けば聞くほど許せない。あなたみたいな人と紘人さんが結婚しなくてよかった」
「……うざ。全然可愛くないのに、こんなのと付き合って、紘人、女見る目ないね」
「彼女の悪口は止めろ。お前みたいに人の幸せをめちゃくちゃにする女なんかと比べるのも失礼なくらい、素敵な女性だよ……お前、いい加減にしろよ。こんなところで、慰謝料を払うことになった時点で、お前が悪者だって確定してるんだよ」
「うざい。二人とも、まじでうざい。ね、行こ。絡まなきゃよかった」
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