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初デート(1)
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お昼も近くなった11時、目を覚ますと紘人さんはまだ寝ていた。長い睫毛が微かに揺れて、すやすやと寝息を立てている姿をまじまじと見つめる。付き合っているんだなぁ、と今更ながら、何度目かにこみあげてくる実感に自然と頬が緩んだ。
今日は、お昼ごはんをどこかで食べた後、秋服を探しに行くことになっている。時間も場所も決めておらず、紘人さんが起きるのをゆっくり待つことにした。
「ぁ……ゆ、な……」
太陽の光に眩しそうに一度を瞑った紘人さんが、ベッドの中で私を思い切り抱きしめてくる。大型犬に甘えられているような心地で、セットされていない柔らかい髪を撫でてあげた。
「やばい、これ幸せ……」
「そんなに噛みしめなくても、これからいくらでもできますよ」
「ぅ……ん……手、すき……」
いちいち大げさな紘人さんの背中を摩る。少し寝ぼけているのだろうか。言葉が途切れることが多く、中々会話が続かない。
紘人さんがしっかりと目を覚ましたのは、それから30分後だった。紘人さんが好きだというから、ずっと彼の頭を撫でていた。彼はそれに気が付き、ばつの悪そうな顔をして「おはよう」と言った。
「なんか、恥ずかしいな」
「この間は紘人さんが私の寝顔ずっと見てましたよね。同じですよ」
「うん。こんな風に寝かしつけてもらうの、子供のとき以来だよ」
のんびりと外に出る支度をしていると、徐々にお腹が空きだす。二人で家を出て、手を繋いで歩きだす。まだ日の明るいうちに、こうして出かけるのは初めてだ。初めてのデートに胸が高鳴った。
「なんかわくわくするね。由奈のワンピース、可愛い」
「紘人さんの私服もかっこいいです。紘人さん、スタイルいいから何を着ても似合うんでしょうね」
「そんなことないよ。服見るの、楽しみだね」
栄えている街の中心部に電車で出て、適当なカフェを見つけて入る。紘人さんはすぐに頼むメニューを決めた様子で、マフィンのセットとハンバーガーのセットで悩む私を楽しそうに眺めていた。
「おいしかったらまた来よう。それに、俺こっちのハンバーガー頼むから一口交換しよう」
「じゃあ、マフィンの方で」
お互いに一口ずつ交換する約束をする。定番の展開に、少女漫画を読んでいるような気恥ずかしさがこみ上げた。料理が届いてすぐに、紘人さんは一口ハンバーガーを切って渡してくれた。私がおいしそうにご飯を食べるところが見たい、それが見られるならいくらでも交換しようよ、と微笑んでいる。
「おいしいし、お値段もありがたい設定だし、いいお店だね。由奈は新しいお店をどんどん開拓したいタイプ? それとも気に入ったお店をリピートするタイプ?」
「私はリピートが多いですね。たまには冒険したいと思いつつも、前に食べたアレをまた食べたいなって思っちゃって」
「わかる。俺もそっち派。じゃあ、ここはきっとまたすぐ来られるね」
“これから”の未来を話せるのはとても幸せなことだった。紘人さんが大きく口を開けてハンバーガーを食べるのを眺めながら、小さく切ったマフィンを口に運ぶ。あっという間に彼のお皿が空になりそうで、少しスピードを上げた。
「急がなくていいよ。ゆっくり食べな」
「甘やかしすぎですって……さっきから……また好きになっちゃいます」
「なんだそれ、何も問題ないよ? いくらでも好きになって?」
それを見抜き、セットのコーヒーを飲んでペースを落としてくれる。どこまでもできた彼氏とあまあまな会話を交わす。周りに人がいなくてよかった。
お会計を終えてお店を出ると、2時を過ぎていた。近場のショッピングモールへ向かい、彼がよく服を買うというショップを訪れる。少しかっちりとした服のテイストは紘人さんによく似合いそうで、今着ているものもこのショップのものらしい。
「紘人さん、これどうですか?」
「うーん、好きだけど、好きだからこそ似たようなの持ってるんだよね……」
「なるほど、あるあるですね」
「そもそも秋って短くて、気に入った服を長く着られないのが悔しいよね」
紘人さんはトップスとアウターを探して、店内をあちこち移動した。目につく服は、どれもこれも彼に似合いそうで、一緒に服を選ぶのはとても楽しい。
「この辛子色のセーターはダメですか? 秋冬行けそうな気がします」
「ああ、いいね。この色は持ってないし、会社にも着ていけそうだし」
「会社に着ていったら、かっこよさにみんなが気づいちゃう……」
「ないない、由奈だけだって、そんな風に言ってくれるの」
今日は、お昼ごはんをどこかで食べた後、秋服を探しに行くことになっている。時間も場所も決めておらず、紘人さんが起きるのをゆっくり待つことにした。
「ぁ……ゆ、な……」
太陽の光に眩しそうに一度を瞑った紘人さんが、ベッドの中で私を思い切り抱きしめてくる。大型犬に甘えられているような心地で、セットされていない柔らかい髪を撫でてあげた。
「やばい、これ幸せ……」
「そんなに噛みしめなくても、これからいくらでもできますよ」
「ぅ……ん……手、すき……」
いちいち大げさな紘人さんの背中を摩る。少し寝ぼけているのだろうか。言葉が途切れることが多く、中々会話が続かない。
紘人さんがしっかりと目を覚ましたのは、それから30分後だった。紘人さんが好きだというから、ずっと彼の頭を撫でていた。彼はそれに気が付き、ばつの悪そうな顔をして「おはよう」と言った。
「なんか、恥ずかしいな」
「この間は紘人さんが私の寝顔ずっと見てましたよね。同じですよ」
「うん。こんな風に寝かしつけてもらうの、子供のとき以来だよ」
のんびりと外に出る支度をしていると、徐々にお腹が空きだす。二人で家を出て、手を繋いで歩きだす。まだ日の明るいうちに、こうして出かけるのは初めてだ。初めてのデートに胸が高鳴った。
「なんかわくわくするね。由奈のワンピース、可愛い」
「紘人さんの私服もかっこいいです。紘人さん、スタイルいいから何を着ても似合うんでしょうね」
「そんなことないよ。服見るの、楽しみだね」
栄えている街の中心部に電車で出て、適当なカフェを見つけて入る。紘人さんはすぐに頼むメニューを決めた様子で、マフィンのセットとハンバーガーのセットで悩む私を楽しそうに眺めていた。
「おいしかったらまた来よう。それに、俺こっちのハンバーガー頼むから一口交換しよう」
「じゃあ、マフィンの方で」
お互いに一口ずつ交換する約束をする。定番の展開に、少女漫画を読んでいるような気恥ずかしさがこみ上げた。料理が届いてすぐに、紘人さんは一口ハンバーガーを切って渡してくれた。私がおいしそうにご飯を食べるところが見たい、それが見られるならいくらでも交換しようよ、と微笑んでいる。
「おいしいし、お値段もありがたい設定だし、いいお店だね。由奈は新しいお店をどんどん開拓したいタイプ? それとも気に入ったお店をリピートするタイプ?」
「私はリピートが多いですね。たまには冒険したいと思いつつも、前に食べたアレをまた食べたいなって思っちゃって」
「わかる。俺もそっち派。じゃあ、ここはきっとまたすぐ来られるね」
“これから”の未来を話せるのはとても幸せなことだった。紘人さんが大きく口を開けてハンバーガーを食べるのを眺めながら、小さく切ったマフィンを口に運ぶ。あっという間に彼のお皿が空になりそうで、少しスピードを上げた。
「急がなくていいよ。ゆっくり食べな」
「甘やかしすぎですって……さっきから……また好きになっちゃいます」
「なんだそれ、何も問題ないよ? いくらでも好きになって?」
それを見抜き、セットのコーヒーを飲んでペースを落としてくれる。どこまでもできた彼氏とあまあまな会話を交わす。周りに人がいなくてよかった。
お会計を終えてお店を出ると、2時を過ぎていた。近場のショッピングモールへ向かい、彼がよく服を買うというショップを訪れる。少しかっちりとした服のテイストは紘人さんによく似合いそうで、今着ているものもこのショップのものらしい。
「紘人さん、これどうですか?」
「うーん、好きだけど、好きだからこそ似たようなの持ってるんだよね……」
「なるほど、あるあるですね」
「そもそも秋って短くて、気に入った服を長く着られないのが悔しいよね」
紘人さんはトップスとアウターを探して、店内をあちこち移動した。目につく服は、どれもこれも彼に似合いそうで、一緒に服を選ぶのはとても楽しい。
「この辛子色のセーターはダメですか? 秋冬行けそうな気がします」
「ああ、いいね。この色は持ってないし、会社にも着ていけそうだし」
「会社に着ていったら、かっこよさにみんなが気づいちゃう……」
「ないない、由奈だけだって、そんな風に言ってくれるの」
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