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追加の仕事、残業中のオフィスで(1)
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紘人さんと色々な話をした。お互いの生活リズムに慣れるために、まずは週末だけの半同棲生活からスタートすること。その際、泊まる部屋は原則として交互に変えて、近くにあるスーパーや飲食店、交通の便などを確かめる期間とすること。食費など生活費は共有のお財布を作って、きちんと精算すること。とはいえ、仕事や他の都合で難しい場合は遠慮なく言うこと。
「同じ会社に行くんだから、一緒に住めたらずっと一緒にいられるのに……」
彼の部屋にお泊りした土日はあっという間に終わってしまい、月曜の労働の気配が近づく。ベッドでゴロゴロして、いちゃいちゃして、くたびれて、ご飯を食べて寝て起きて……怠惰な土日は思い出すのが憚られるような乱れた生活だった。
名残惜しそうな顔をする紘人さんは、私を駅まで送ってくれた。また、会社でね。と最後まで手を握っていて、その手を離すのは心苦しかった。
****************
月曜、出社すれば紘人さんの姿が目に飛び込んでくる。昨日、あんなに抱きしめ合ったのに、今すぐにでも飛びつきたい衝動に駆られたが、何食わぬ顔で自席に向かい、パソコンを立ち上げた。
彼からの業務依頼メールが入っている。目を通せば、大した分量でないことがわかり、まずはそれから取り掛かることにした。他の仕事の優先順位が低いわけではないが、一番モチベーション高く取り組めるものでエンジンをかけようと考えたからだ。
しかし、それを邪魔するかのように上司に声を掛けられる。上司が私を呼びつけるのは、決まって仕事を振るときか仕事にダメ出しをするときかだ。名前を呼ばれただけで人の気持ちを暗くできる上司にため息を零しそうになるのを堪え、上司の席に向かう。
「悪いんだけどさぁ、これもよろしく。来週までに上に報告しろって言われてるから、なるはやで」
「え……これを、今週中ってことですか?」
「うん、まあ、よろしく。他はほら、既婚者ばっかりで残業できないからさ、うちのチーム」
国の機関が出しているレポートを要約し、弊社として取り組むべきタスクとそのメリット・デメリットの洗い出し……時間がかかること間違いなしの仕事を丸投げされた。既婚者でお子さんがいる方の残業が難しいのはわかるけれど、それで独身者の負担を増やすのはおかしいはずなのに。週末のお泊り時間を確保するには、平日どれだけ働けばよいのだろうと、頭を抱えたくなった。
「課長、お言葉ですが聞こえてしまったので……藤井さん、俺のサポートもお願いしていますし、ちょっと業務量過多かと……私、藤井さんのサポートのおかげでやや余力がありますし、これを手伝っても?」
「おお、柚木が手伝ってくれるなら安心だな。うん、二人でうまいことやっといてくれ」
すっと私の背後に立った紘人さんが、救いの手を差し伸べてくれた。きっと、私が課長に呼ばれたあたりから、こちらの様子を見ていてくれたのだろう。紘人さんの申し出に涙が出そうなくらい嬉しくなった。
「じゃあ、さっき送った依頼メールの優先度は下げていいから、まずこっちからやろうか。要約そのものにも時間がかかるけど、手分けがしにくい作業だから……要約はお願い。水曜の昼目標で。そうしたら水曜中にその要約を読むから、木金で課題とプロコンの洗い出し……どう? 要約を作りながら課題を思いついたら、適当でいいからメモ残しておいて。それも要約と一緒にもらえるとありがたい。俺が要約読んでる間に他の作業を―――」
するすると仕事を指示してくれる紘人さんがかっこいい。課長も、満足そうに頷きながら紘人さんを見ている。水曜までという締め切りは甘いものではないが、紘人さんが待てるギリギリまで時間をくれていることが伝わった。できれば、なるべく早くに要約を渡し、彼の負担を減らしたい。
「で、無理はしないこと。体調第一で、月曜の朝からしんどいけど頑張りましょう」
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「課長は、もう少し仕事の振り方とか振る相手……お願いしますね。独身者も既婚者も一日は等しく24時間でして、我々がどれほど急いで処理しても終わらない量を渡されたら困りますので」
にっこりと、爽やかな笑みと嫌味を残して、紘人さんが自席に戻ろうとするのに慌ててついていく。課長は、もごもごと何か言おうとして、何も言わずに紘人さんから目を逸らしていた。
『ごめん、言っちゃった』
『謝らないでください。スッキリしました』
『うん、最近俺らとか、独身者の使い方荒すぎて流石にね。ほんとに、無理はしないでね。俺、体力には自信あるから』
体力に自信があるのは……週末に身をもって知らされた。チャーハンを食べ終わった後も、夜も、朝も……隙あらば抱いてこようとする紘人さんに、「もう無理」と諦めてもらったのはたった数時間前のことだ。紘人さんは、渋々といった表情で、なら来週……と萎れていた。
「同じ会社に行くんだから、一緒に住めたらずっと一緒にいられるのに……」
彼の部屋にお泊りした土日はあっという間に終わってしまい、月曜の労働の気配が近づく。ベッドでゴロゴロして、いちゃいちゃして、くたびれて、ご飯を食べて寝て起きて……怠惰な土日は思い出すのが憚られるような乱れた生活だった。
名残惜しそうな顔をする紘人さんは、私を駅まで送ってくれた。また、会社でね。と最後まで手を握っていて、その手を離すのは心苦しかった。
****************
月曜、出社すれば紘人さんの姿が目に飛び込んでくる。昨日、あんなに抱きしめ合ったのに、今すぐにでも飛びつきたい衝動に駆られたが、何食わぬ顔で自席に向かい、パソコンを立ち上げた。
彼からの業務依頼メールが入っている。目を通せば、大した分量でないことがわかり、まずはそれから取り掛かることにした。他の仕事の優先順位が低いわけではないが、一番モチベーション高く取り組めるものでエンジンをかけようと考えたからだ。
しかし、それを邪魔するかのように上司に声を掛けられる。上司が私を呼びつけるのは、決まって仕事を振るときか仕事にダメ出しをするときかだ。名前を呼ばれただけで人の気持ちを暗くできる上司にため息を零しそうになるのを堪え、上司の席に向かう。
「悪いんだけどさぁ、これもよろしく。来週までに上に報告しろって言われてるから、なるはやで」
「え……これを、今週中ってことですか?」
「うん、まあ、よろしく。他はほら、既婚者ばっかりで残業できないからさ、うちのチーム」
国の機関が出しているレポートを要約し、弊社として取り組むべきタスクとそのメリット・デメリットの洗い出し……時間がかかること間違いなしの仕事を丸投げされた。既婚者でお子さんがいる方の残業が難しいのはわかるけれど、それで独身者の負担を増やすのはおかしいはずなのに。週末のお泊り時間を確保するには、平日どれだけ働けばよいのだろうと、頭を抱えたくなった。
「課長、お言葉ですが聞こえてしまったので……藤井さん、俺のサポートもお願いしていますし、ちょっと業務量過多かと……私、藤井さんのサポートのおかげでやや余力がありますし、これを手伝っても?」
「おお、柚木が手伝ってくれるなら安心だな。うん、二人でうまいことやっといてくれ」
すっと私の背後に立った紘人さんが、救いの手を差し伸べてくれた。きっと、私が課長に呼ばれたあたりから、こちらの様子を見ていてくれたのだろう。紘人さんの申し出に涙が出そうなくらい嬉しくなった。
「じゃあ、さっき送った依頼メールの優先度は下げていいから、まずこっちからやろうか。要約そのものにも時間がかかるけど、手分けがしにくい作業だから……要約はお願い。水曜の昼目標で。そうしたら水曜中にその要約を読むから、木金で課題とプロコンの洗い出し……どう? 要約を作りながら課題を思いついたら、適当でいいからメモ残しておいて。それも要約と一緒にもらえるとありがたい。俺が要約読んでる間に他の作業を―――」
するすると仕事を指示してくれる紘人さんがかっこいい。課長も、満足そうに頷きながら紘人さんを見ている。水曜までという締め切りは甘いものではないが、紘人さんが待てるギリギリまで時間をくれていることが伝わった。できれば、なるべく早くに要約を渡し、彼の負担を減らしたい。
「で、無理はしないこと。体調第一で、月曜の朝からしんどいけど頑張りましょう」
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「課長は、もう少し仕事の振り方とか振る相手……お願いしますね。独身者も既婚者も一日は等しく24時間でして、我々がどれほど急いで処理しても終わらない量を渡されたら困りますので」
にっこりと、爽やかな笑みと嫌味を残して、紘人さんが自席に戻ろうとするのに慌ててついていく。課長は、もごもごと何か言おうとして、何も言わずに紘人さんから目を逸らしていた。
『ごめん、言っちゃった』
『謝らないでください。スッキリしました』
『うん、最近俺らとか、独身者の使い方荒すぎて流石にね。ほんとに、無理はしないでね。俺、体力には自信あるから』
体力に自信があるのは……週末に身をもって知らされた。チャーハンを食べ終わった後も、夜も、朝も……隙あらば抱いてこようとする紘人さんに、「もう無理」と諦めてもらったのはたった数時間前のことだ。紘人さんは、渋々といった表情で、なら来週……と萎れていた。
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