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 無言を肯定と捉えられたのか、身動きできず固まっている私の手を引いて、柚木さんは寝室へと向かった。触れてほしいと思っていた手に触れられる悦びを期待して、身体中が火照りだす。
 その時にふと、引っかかっていた元カノさんのことを思い出した。雰囲気を壊してしまうかもしれないと恐れつつ、ベッドに並んで腰かけたタイミングで話を切り出す。

「あの……、長くお付き合いした相手がいるって噂を聞いたことがあって、あれって、本当なんですか……?」
「ああ、その話、藤井さんも聞いたことあったんだ……もうあんまり思い出したくもないけど、5年か6年か付き合った彼女と結婚しようかって両家顔合わせをやった数日後、二人で同棲していた家に帰ったら他の男連れ込んで……お楽しみ中だったんだよね……」

 噂は、全て事実だったらしい。遠い目をして、辛そうに話す柚木さんを抱きしめて、さっきしてもらったように頭を撫で返した。

「ごめんなさい、思い出させて」
「ううん、ワケアリ物件って思われて当然の経歴だからね。俺は一途に想っていたし、浮気発覚以降は全く未練なく、信じていた相手に裏切られる辛さを味わいたくなくてしばらく恋愛とは距離を置いていました……というのが俺のここ5年の話。ちなみにこの部屋は当時借りていた部屋とは違う部屋だから、女の子を連れ込んだのは藤井さんが初めて……安心した? ほかに不安なことがあったら、今のうちに確認して?」
「……不安なこと、ない、です」
「……そっか。よかった」
「私、浮気、絶対しません」
「うん、ありがと」
 
 柚木さんが私に体重をかけてくるがままに、ベッドに押し倒される。電気が眩しくて顔を顰めると、それに気づいて部屋を暗くしてくれた。私の顔にかかった髪を柚木さんが手で払って、少しずつ彼の顔が近づいてくる。

「ん……」

 一瞬、唇が触れ合って、すぐに離れていく。もっと、と思って視線でねだれば、「わかってる」と呟いて、噛みつくようなキスをされた。熱い舌で唇をこじ開けられ、そのまま私の舌と絡まり合う。息継ぎもできないくらい荒々しいキスに、彼の二の腕を掴んで耐える。

「ん、ぁ……ッ、ゆ、のき、さん……!」
「紘人って呼んで……由奈」
「あ、ぁあ、ん、ぅう……ひろ、と、さん……!」
「かわいい、由奈、かわいいよ」

 名前を呼ばれて、胸が苦しくなる。かわいい、と繰り返しながら何度も何度も、角度を変えてキスをされる。名前を呼び合って、心が通じた喜びを改めて実感する。柚木さん―――紘人さんの瞳はどんどんとギラギラしてきて、会社では見られない男の人の表情に、求められている悦びに身体が震える。
 少しの隙間からでも舌が捻じ込まれる。唾液が口の端から零れても、キスは止まらない。歯列を、舌の側面を、ざらざらとした舌で擦られるたび、甘ったるい声が零れるのを止められない。
 薄く目を開けば、目を閉じてキスに没頭する紘人さんの顔が見える。睫毛がふるふると揺れ、眉間に皴が寄せられている。私に夢中になってくれていることが嬉しくて、彼の舌に応えるように、私も彼の舌を舐めてみた。

「由奈……」

 紘人さんが離れていく。二人の唇の間を、銀の糸がつぅっと結んでいた。ぷつり、とそれが切れるのと同時に、するりと彼の手が私のお腹に触れる。お腹を撫でまわした手は下へ向かい、スカートの上からお尻や太ももを撫でてきて、腰が揺れた。

「紘人さん……」

 手を取られて身体を起こす。脱げる?と促され、スカートやブラウスをえいやと脱ぎ捨てた。紘人さんも同じように服を脱いで、ベッドの横に畳まれもしない服が二人分積まれている。

「下着は、俺が脱がせていいの?」

 二人とも下着だけになって、もう一度ベッドの上で向かい合う。紘人さんの身体がきれいで、目が離せない。

「見るっていうのは……見られてもいいって、ことだよね。由奈も、見せて……」

 ブラのホックが外されて、ふるりと胸が露わになり、恥ずかしさに顔を背けた。紘人さんの手が、それを優しく包み込んで、一度、二度、壊れ物を扱うように揉まれる。

「ふっ、ぅう、んぅっ……」
「声、我慢しないで……」

 彼の指が胸に沈み込むたび、先端が尖っていくのを感じる。いつそこに触れられてしまうのだろうかと、期待と羞恥に生理的な涙が浮かぶ。

「ぁっ、や、ぁああっ!」

 紘人さんの指先が頂に触れた。こりこりと押し潰され、指先で摘ままれ、じくじくとお腹の奥が疼きだす。紘人さんが勢いよく顔を近づけてきて、予告もなしにそこを咥えてきた。
 熱い吐息が肌に届くだけで鳥肌が立つほど気持ちいいのに、敏感な頂を柔らかな舌で捏ねられれば身体が跳ねるのを止められない。舐められていない方の胸は、手で弄られていた。爪の先でカリカリと引っ掻かれ、鋭い刺激にじわりとショーツが濡れた気がする。ぷにぷにと乳輪を舐られ、じゅるじゅると音を立てて先端を吸われ、ぽろぽろと涙が零れる。

「やッ、ぁあっ、ぁああっ……」

 身を捩って逃げてしまいそうになる私を、紘人さんは身体全体を使ってベッドに縫い留める。彼の熱い手がお腹を滑って、ショーツに指をかけられた。全部、全部曝け出してしまうのだと、頭の奥がじんじんと痺れるようで、息を止めて覚悟を決める。

「由奈、腰上げて……」
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