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一緒にお仕事、予定外の飲み会(1)
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「柚木さん、お願いします」
「はいはい、よろしくね」
月曜日、仕事の状況確認のために30分すり合わせの時間を設けてもらった。土日は浮かれて何の作業も手に付かなかったが、会社に来ると嫌でも気持ちが切り替わる。
「……そう、それで、ここはまだ方針が決まっていないから、できるだけ早く現状分析を終わらせて方針固める会議を開きたいところ。部長が現状分析しろってうるさいから、そこに時間をかけるのがよさそうと思ってる」
「なるほど……ではお手伝いするとしたらその情報集めか分析のところでしょうか?」
「そうだね、そこ手伝ってもらえると助かる。生の声集めるのがよさそうだから、アンケートやろうかと思って。その叩き台、作ってみてもらってもいい?」
「かしこまりました。今日中でいいですか?」
「うん、十分。よろしくね……なんか、金曜とギャップがありすぎて、変な感覚」
「それは、ちょっとわかります。まあ仕事は仕事なので、頑張りますね」
頼もしいね、と資料を渡される。優秀な先輩に戦力として認めてもらえるのは純粋に嬉しいし、力になりたいな、と思う。資料を読み込み、柚木さんが何をアンケートで聞きだしたいのかを考える。
アンケートの原案を作り上げ、柚木さんのメールで送る。すぐに『早くて助かる。確認します』と返事が来た。
「藤井さん、ちょっと」
それから間もなくして柚木さんに声を掛けられる。振り向くと、私が送ったアンケートの原案を印刷し、メモを付けてくれたようだった。
「これ、ほとんど原案を採用させてもらった。すごいね。キャッチアップが早くて助かるよ。一部細かい文言を統一したくて修正入れさせてもらったから、ここだけ修正して課長に確認依頼出しておいてもらえる?」
「柚木さんが想定していたものと離れていなくてよかったです。ご指摘ありがとうございます。その通りにししておきますね」
柚木さんのお眼鏡に適う仕事ができてよかったと胸をなでおろす。柚木さんに手渡された紙にはいくつか付箋が付いていて、修正の指示が丁寧に書き込まれている。ああ、柚木さんはこういう字を書くんだ、と丁寧な人柄が想像できる整った文字をじっと見つめた。
(あれ、これ……)
『藤井さんがこれ片づけてくれたから、今日も早く帰れそうなんだけど、夜どう?』
どくんと心臓が跳ねた。『藤井さん』と彼の字で書かれた自分の名前を、指でなぞる。好きな人が書いてくれた自分の名前は、なんだかとても愛おしいものに思える。
本当は仕事が溜まっていて、金曜日の約束に向けて仕事を片付けるつもりであったが、柚木さんのお誘いは断りたくない。今抱えている仕事の総量と、明日以降に確保できる作業時間を天秤にかける。朝早くから作業すれば、カバーできる、と判断する。
『19時までの会議終わり次第でよければ! 柚木さんと飲めるの、最高の月曜ですね』
汚い字と思われたくないと、できる限り丁寧に付箋にメッセージを書く。柚木さん、と名前を書くのは緊張した。
修正指示を全て反映し、課長に送る手前で席を立つ。もちろん、彼が持ってきてくれた紙を持ってだ。そこに自分が書いた付箋もつけて、柚木さんのところへ向かう。
「柚木さん、失礼します。一点、ご指示の中で確認したいことがありまして―――」
「ああ、ごめん。ここね、これはここと同じようにしてくれればいいから」
本当は確認したいことなんて一つもない。不明点を指さすフリをしながら、先程の付箋を指さす。柚木さんは私が何をしに来たのかをわかっていたような様子で、その付箋を紙から剥がし、適当な会話を続けてくれた。
「じゃ、引き続きよろしく」
「はい」
社内恋愛、悪くないなと思ってしまう私はやっぱりチョロい。
私が自席に戻ると、柚木さんからチャットが来た。
『会議終わり次第で、お互い仕事で難しくなったら連絡するってことで。社員用玄関のあたりにいるつもり』
ちょうど私宛に電話がかかってきてしまい、『いいね』だけで返事を済ませる。会議が終わり次第すぐに帰れるように、気合を入れて残りの仕事に向かった
「はいはい、よろしくね」
月曜日、仕事の状況確認のために30分すり合わせの時間を設けてもらった。土日は浮かれて何の作業も手に付かなかったが、会社に来ると嫌でも気持ちが切り替わる。
「……そう、それで、ここはまだ方針が決まっていないから、できるだけ早く現状分析を終わらせて方針固める会議を開きたいところ。部長が現状分析しろってうるさいから、そこに時間をかけるのがよさそうと思ってる」
「なるほど……ではお手伝いするとしたらその情報集めか分析のところでしょうか?」
「そうだね、そこ手伝ってもらえると助かる。生の声集めるのがよさそうだから、アンケートやろうかと思って。その叩き台、作ってみてもらってもいい?」
「かしこまりました。今日中でいいですか?」
「うん、十分。よろしくね……なんか、金曜とギャップがありすぎて、変な感覚」
「それは、ちょっとわかります。まあ仕事は仕事なので、頑張りますね」
頼もしいね、と資料を渡される。優秀な先輩に戦力として認めてもらえるのは純粋に嬉しいし、力になりたいな、と思う。資料を読み込み、柚木さんが何をアンケートで聞きだしたいのかを考える。
アンケートの原案を作り上げ、柚木さんのメールで送る。すぐに『早くて助かる。確認します』と返事が来た。
「藤井さん、ちょっと」
それから間もなくして柚木さんに声を掛けられる。振り向くと、私が送ったアンケートの原案を印刷し、メモを付けてくれたようだった。
「これ、ほとんど原案を採用させてもらった。すごいね。キャッチアップが早くて助かるよ。一部細かい文言を統一したくて修正入れさせてもらったから、ここだけ修正して課長に確認依頼出しておいてもらえる?」
「柚木さんが想定していたものと離れていなくてよかったです。ご指摘ありがとうございます。その通りにししておきますね」
柚木さんのお眼鏡に適う仕事ができてよかったと胸をなでおろす。柚木さんに手渡された紙にはいくつか付箋が付いていて、修正の指示が丁寧に書き込まれている。ああ、柚木さんはこういう字を書くんだ、と丁寧な人柄が想像できる整った文字をじっと見つめた。
(あれ、これ……)
『藤井さんがこれ片づけてくれたから、今日も早く帰れそうなんだけど、夜どう?』
どくんと心臓が跳ねた。『藤井さん』と彼の字で書かれた自分の名前を、指でなぞる。好きな人が書いてくれた自分の名前は、なんだかとても愛おしいものに思える。
本当は仕事が溜まっていて、金曜日の約束に向けて仕事を片付けるつもりであったが、柚木さんのお誘いは断りたくない。今抱えている仕事の総量と、明日以降に確保できる作業時間を天秤にかける。朝早くから作業すれば、カバーできる、と判断する。
『19時までの会議終わり次第でよければ! 柚木さんと飲めるの、最高の月曜ですね』
汚い字と思われたくないと、できる限り丁寧に付箋にメッセージを書く。柚木さん、と名前を書くのは緊張した。
修正指示を全て反映し、課長に送る手前で席を立つ。もちろん、彼が持ってきてくれた紙を持ってだ。そこに自分が書いた付箋もつけて、柚木さんのところへ向かう。
「柚木さん、失礼します。一点、ご指示の中で確認したいことがありまして―――」
「ああ、ごめん。ここね、これはここと同じようにしてくれればいいから」
本当は確認したいことなんて一つもない。不明点を指さすフリをしながら、先程の付箋を指さす。柚木さんは私が何をしに来たのかをわかっていたような様子で、その付箋を紙から剥がし、適当な会話を続けてくれた。
「じゃ、引き続きよろしく」
「はい」
社内恋愛、悪くないなと思ってしまう私はやっぱりチョロい。
私が自席に戻ると、柚木さんからチャットが来た。
『会議終わり次第で、お互い仕事で難しくなったら連絡するってことで。社員用玄関のあたりにいるつもり』
ちょうど私宛に電話がかかってきてしまい、『いいね』だけで返事を済ませる。会議が終わり次第すぐに帰れるように、気合を入れて残りの仕事に向かった
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