たとえこの恋が世界を滅ぼしても1

堂宮ツキ乃

文字の大きさ
41 / 43
9章

しおりを挟む
「今日って何日目なの?」

「3日目」

「もう!?」

「うん。君、2日くらい寝てたから。もう今日の夕暮れまでに君を返さなくちゃね」

 誘われて入ったお茶屋で、陽の当たる席でだんごを2人で食べていた。

「そうか…」

「寝ている間にめっちゃ時間進んでラッキーって感じ?」

「半分は」

「あはは」

 朝来は夜叉の正直な答えにカラカラと笑った。その手には三色団子。夜叉がよく知っているものよりは、色あざやかさはない。

「ねぇ。これからどうするの? だんご食べてはいバイバイってワケじゃないんでしょ?」

「うん、それはもちろん。この後は別の時代に行くよ」

「さらに!? なんでまず江戸時代に来たの…」

「せっかくだから君が生まれた時代を見せたいなって。余計かもだけど」

「そう…だったんだ」

 意外な気遣いに、だんごを食べる手が止まった。

 男らしさが加わった端正な顔立ちに引かれたが、不意ににんまりとした顔で見つめられた。

「どう、こういうの。ドキッとした? ポイント跳ね上がった?」

「はあぁぁ? バカじゃないの? 今ので大してないポイントが下がったわ」

「それは残念」

 ちろっと舌を小さく見せた顔は、素顔の雰囲気が出ている。



 だんごを食べ、お茶を飲む彼女の姿が、懐かしい顔と重なって朝来は目を細めた。

────味気ないわね…。これでどうかしら。

────…君は一体何をしてるんだい?

 彼女・・とこうして店に来た時、彼女がぼやいておもむろに懐から出したのは赤い小瓶。蓋をひねり、大福の上にふりかけ始めた。出てきたのは赤い粉末。

────これはとうがらしの粉よ。中国のある地域に行った時に勧められてね。山椒もいいって言われたけど、彩りが加わるから私はとうがらし派。

────だからってお菓子にかけるか? 君の味覚バカなんだろ。

────バカとは失礼ね。私はただ、辛いものが好きなだけよ。

 そう言って真っ赤になった大福を頬張る彼女は満面の笑みになった。

 一度だけ朝来もとうがらしをかけてもらったことがあるが、とても食べられるものではなかった。やっぱり彼女は味覚バカだと確信した。

「…君は────偏食?」

「そんなことないと思うけど…。和馬がバランス考えてご飯作ってくれるし」

「そっか。普通そうだよね」

「まぁ…あえて言うなら卵かけご飯はめちゃくちゃ好き。毎日食べれるくらい好き」

 きれいな顔からは意外な好みに、やはり"彼女・・"と重なる。

(君はただの子孫だよな…。生まれ変わって、まためぐり会えたなんてロマンチックな展開はないよね)

 だんごを一口頬張って彼女を見ると、朝来のことは気にせずすでに3本食べ終えていた。

「卵かけご飯か。予想外だね。君みたいな最近の女の子はパンケーキが好きそうだけど」

「うーん。まぁ周りには多いけど、私は好きじゃないな。パサパサしてて苦手」

「へー。生クリームダバダバに乗ってるのとかあるじゃない。あぁいうのは?」

「生クリームがダメ。受け付けない」

 夜叉は首を振って湯のみに手を伸ばした。

「和馬が作ってくれるホットケーキは好きだよ。ふわふわしてて軽くて食べやすいから。ちょっと水分あるし」

「君の弟はご飯もスイーツも得意なんだ。良いところへ行けたね」

「そうね。両親も…おじいもおばあも良くしてくれたから。私は昔から恵まれてるよ」

 夜叉はうんうんとうなずいた。

 欲の無い娘。朝来は彼女を見て思った。

 江戸時代で親子3人、平和に生き続けたかったとか、純粋な戯人族と同じように永遠に生きたいとも言わない。

「ねぇねぇ。舞花や父さんに会うことってできるかな…?」

 遠慮がちに聞いてきた内容は、彼女からの初めてのお願いだったが、立場上彼女の父親に会わせることはできない。朝来が曖昧な笑みと共に首を振ると、そうだよねと夜叉は寂しげな表情で足元を見た。

「変なこと言ってごめん」

「いや…いいんだ」

 明確な理由は言えなかった。彼女のしゅんとした様子が心に痛かった。

「でも、代わりと言えるかどうか分かんないけど。後でもう一軒茶屋を回ろうか。だんごだけじゃ物足りないだろ?」

「言われてみれば確かに…。ご飯食べたいなー」

 急に食い意地を張る彼女に笑みが浮かんだ。食欲旺盛らしい。この時代で食べられそうな物は…と、指折り考え始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...