たとえこの恋が世界を滅ぼしても1

堂宮ツキ乃

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3章

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 背中で息をし、後ずさりして背中を合わせる夜叉と結城。彼女たちの周りには死屍累々と不良たちが横たわっている。誰もがうめき声を発して起き上がろとするが、それはかなわず再び地面に伏す。

「案外片付いちゃうモンなんだね…」

 かすり傷1つもない夜叉。制服に汚れもない。結城の方は細かいかすり傷を負い、制服もところどころほつれている。

「桜木さん…。あんたやっぱりやるね」

「守護神様に褒められるとは…。なんて日だ!」

「暴れた直後にはしゃげるあんたはホントに只者じゃないね」

 2人はほほえみあって構えていたのを解き、今度こそ敷地内に踏み入り、校庭を突っ切って行こうとした。

「なっ…!?」

「誰あれ…」

 部室棟から、1人の男子生徒が飛び降り、目にも止まぬ勢いと速さで走り向かってきた。

「陸上部か何か…?」

「か…げうち、さん…」

「かげうち?」

 夜叉が、樫原がうめきにも似た声で呼んだ名前を繰り返したら、横で風を感じた────それは結城が殴られて吹っ飛ぶ衝撃波だった。

「うぐっ…」

「織原さん!?」

 これはさっき、夜叉が和馬を殴り飛ばした勢いと同じだった。結城は不良の屍たちの前に横たわり、腹部を抑えて震えている。片手をついて立ち上がろうとしたが、先程体力を消耗し、痛みを加えられたせいでその場でうずくまった。声らしい声を発することができず、荒い息をしている。

「織原さん!」

「さわらない方がいいよ、肋骨を折ってやったから。ヘタしたら臓器に突き刺さって死ぬよ」

 夜叉が駆け寄ろうとしたら、肩をつかまれて振り向かされ、拳が飛び出してきたので背後へ跳んだ。

「さすがだね…その反射神経」

「あんた誰?」

 まるで自分を知ってるかのような口ぶり。夜叉は地面にしゃがんで手をつき、突然現れた人物を見上げた。

 長めのストレートの髪、シャープめの猫目、規定通り着た制服。

「僕は影内朝来」

「かげうちあさき…」

 口の中で繰り返すと、今度は蹴りがとんできた。夜叉はその姿勢のまま再び背後へ跳び、繰り出される蹴りから逃げた。

(反撃しなきゃ…)

 今度は高く飛び上がって空中で一回転し、かかと落としを決めようとしたが、もうそこには朝来はいない。夜叉は足を引っ込めてしゃがみこんで着地しようとしたところを、朝来に横抱きされた。

「はぁっ!?」

「裏切り者の子孫…」

「裏切り者────んっ!?」

 夜叉は彼がつぶやいた言葉をオウム返ししかけたが、それは途中で遮られた。

 朝来の唇で自分の唇をふさがれていた。

「んんっ…」

 抵抗して唇も体も離れようとしたが、男の力に勝てない。細身でそんなに身長が高くない男相手なのに。

 最後に唇を思い切りかまれ、にじみ出た血を小さな舌でなめられて離された。そっと着地されるが、今まで感じたことのない感触に顔は真っ赤になり、怒声を浴びせるどころか涙が出てきて口元を押さえつけた。濡れた感触に手を離して見ると、少しだけだが血で赤く染まっていた。

「どうしたの? 初めてだった? 怖かったの?」

「やだっ…」

「戯人族のお姫様。今日のことは絶対に忘れられないよ。一族の力も、母親の力も借りることはできない」

「主は…何者でありんすか…。なぜ朱雀様や夜叉、わっちの存在を知っておるのかえ?」

 花の香りと共に舞花が現れた。夜叉を抱きしめ、朝来のことを睨みつけた。煙管が震えている。

「夜叉…。ごめんなんし…。いつもの魔法の煙管が使えなくなりんした…」

「それは僕が、あんたの存在も力も押さえつけていたからね。今なら使えるからやってみなよ」

「生意気な…」

 いつもの彼女と打って変わって怒りを全面に押し出している。夜叉はふれられない母親にすがるように身を寄せた。彼女は彼女でさっきまでの強気をなくしている。

 舞花は煙管を軽く振り、桜吹雪を起こした。これは夜叉も見たことがない。それは渦を巻いて朝来に向かっていく。

「こんな演出…」

 朝来は薄く笑い、桜吹雪が近くまできたところで手を渦に向かって伸ばし、目を見開いた。その瞬間に渦は止まり、桜の花弁は漆黒に染まって空中で灰となって消えた。

 親子2人、消えてしまった花に硬直した。

 この男はただの高校生の見た目で一体何をどこまで知っているのか、そして何者なのか。

「もう終わり? じゃああんたの娘は僕がもらっていくよ」

「やめなんし!!」

 朝来が手を伸ばして足を踏み出すと同時に、舞花が金切り声に近い叫びをあげた。近くにいる夜叉が驚いて彼女のことをまじまじと見るくらい。

「────手を出すな、忌々しき存在め」

 今度は誰だ。まだ瞳が濡れたままの夜叉は声がしたと思われる方へ振り向いた。

 アーチ型の校門の上。そこには────会ったことはないが見たことがある人物。

 なぜだか今は頼もしく思えてしまった。

「おっと…。一族のお迎えか」

「口を慎め。さっさと失せろ」

 Tw○tterで話題になった夜叉のそっくりさん。やっぱり派手で短い和服を着ており、腕を組んで直立していたが彼らの近くへ飛び降りた。

「あ…。ドッペルゲンガー…?」

「話は後で。とりあえず今は一緒に来てもらえませんか」

 そっくりさんは2人には表情を和らげ、手を取った。

 やがて光に包まれ、夜叉は最後に見た朝来の意味ありげな笑みが妙に脳裏に焼き付いた。
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