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1章

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「どう思う? この話…」

 宿題も終わらせて後は寝るだけ、という時間。夜叉は自室のベッドの上でクッションを抱え、あぐらをかいていた。傍らにはベッドの端に腰掛ける舞花。(味わえているのかは謎な)煙管をくわえ、黙って夜叉の話を聞いていた。

 授業後に結城に会いに行くと、そのクラスの連中に妙に注目された。よくよく見たら、昼休みの時に教室の前で不審な動きをしていた黒髪の男女2人がいた。特に話しかけなかったが。

 場所を移そうと結城に連れられ、使われてない音楽室で改めて礼を言われた。

「ちょっと待って。私ホントに覚えがないんだけど…。夜なんて外に出ないし」

 結城が言うには、彼女は夜にコンビニへおでんを買いに行ったらしく、その帰りに他校の不良に襲われたらしい。

「なんだろ…今時ツッパリ? 織原さんのカッコもだいぶ今っぽくはないけど」

「80年代リスペクトで手芸部に作ってもらったんだ」

「まさかのオーダーメイド…。よく作ってもらえたね」

「あぁ。演劇部の舞台衣装もよく頼まれるらしい。私のファンだといってデザインからやってくれたんだ」

 それを聞いてなんだか安心した。結城のことをただただ恐れるのではなく、ファンになる人もいるんだと。さすがは大きい学校。本当に様々な人がいる。

「あんたのは演劇部みたいな服だったじゃないか。和服を派手に着たような」

「もうワケ分かんない…。いいや、私はどうやって現れたの?」

「無防備でどうしようか…と思った時に、あんたが突然空から降りてきて目の前に着地したんだ。あっという間に他校の連中をボコしてくれてな。何も言うことなく、高く跳びはねながらどこかに行ったじゃないか」

 派手な和服? 空から降りてきた? 跳びはねる?

 夜叉はため息をついてクッションに顔を半分埋めた。

「織原さん、夢見てたんじゃないの? 夜の出来事だっていうし…」

「確かにわっちもずっと気になっておりんした…。夜叉が夜に出歩かないのはわっちが知っておりんす」

「でしょ? あと人間業じゃないことをやってのけたその人物も気になるしね…。私に似ているのかな?」

「その可能性はありんす。…それよりもぬしが心配でありんす。夜叉がボコボコにしたという不良が襲いに来やしないかと…」

「そんな怖いこと言わないでよ~…」

 夜叉はベッドの上で横になってクッションに顔を突っ伏した。

 自分がやったことではないのに報復されるのはごめんだ。

「もしもの時は舞花の魔法の煙管で守ってね?」

「もちろん…。いや、魔法ではありんせんが」

 舞花は煙管をくわえて煙を吐き出した。実質、彼女は幽霊なので煙のにおいはしない。

「とりあえず今日は寝よ…。そろそろ頭痛くなってきたかも…」

「早く寝なんし。明日も学校でござんしょう」

「そだね…おやすみ」

クッションに突っ伏したままの彼女を枕に頭を乗せ、毛布をかけた。もちろん魔法の・・・煙管で。



 次の日。寝たら結城に言われた奇妙なことはさほど気にならなくなっていた。

 夜叉はいつも通り眠たそうな表情で和馬と登校していた。

 ふぁーあ…とのんきにあくびをしていたら、後ろから駆ける足音が聴こえ、彦瀬と瑞恵が突っ込んできた。

「「やーちゃん!!」」

「さくら!?」

「おうふっ」

 夜叉はそのまま地面に突っ伏しそうになったが持ちこたえた。きっと舞花が支えてくれた────と、心の中でお礼を言った。

「おはよ、2人とも…めっちゃびっくりしたんだけど」

「こっちの方がびっくりしたよ!」

「え…もう何? もしかして私が生きてること? ほらね、言ったでしょ。織原さんは自分の学校の生徒に手を出さないって────」

「そういうことじゃないって!」

「ちょっと、彦ちゃんも原田はらださんもどうしたの?」

 和馬が2人を落ち着けようとしたが、聞く耳を持たず。瑞恵がシュババババッとスマホを操作して印籠のごとく、夜叉と和馬の目の前に突き出した。彦瀬は夜叉の腕に自らのを絡めて一緒に画面を見つめた。

 それはおそらくTw○tterの動画で。横向きにされたスマホをのぞきこむと、夜に撮影されたものらしく画質が荒い。街灯だけが頼りだ。

 夜叉と和馬は特に目を凝らしてさらに画面に近づいた。

「これの11秒くらいの所からなんだけど…」

「あ、今9秒」

 4人はだまったのだが、動画が11秒になったところで和馬が息を呑んだ。動画の撮影者が驚きの声を上げた。

『なんか飛んどる!』

『なになに』

『あれ! あそこ!』

『うわ何あれ!』

「これって高城こうじょうだよね…」

「そ。ちなみにウチの高校の近くらしいよ」

 高城というのはこの辺りの市名。新幹線はこだまなら停まる。

 学校の近くに木々に覆われた公園があり、街灯が多く設置されているため夜にも訪れる人がちらほらといる。整備された歩道ではスマホを片手に立ち止まっている人が、休日になると特に多くなる。

『なんだあれ…人?』

「…あっ」

 木々の上に何かが飛び出した。動画では距離があるが、この大きさだと動物ではないだろう。木の上を自在に跳ね、空中で一回転をした。

 動画は突然画面がブレブレになり、真っ暗になった。スマホを握って撮影者が走り出し、立ち止まってズームをした。相変わらず画質は悪く、街灯に近づいて少しマシになった…?という所だ。

『この辺にいたよな?』

『静かだな…』

 撮影者は周りをゆっくりと映し、同行者とだまって見渡しているようだ。

『…いた!』

『どこ…うわぁぁ!』

 さっきよりも派手な驚いた声はむしろ恐怖をにじませているようで。彦瀬がしがみつく力が強くなった。

 そして3人は腰を抜かしそうになる。かろうじて3人でくっついて耐えた。

 画面に突然、人が現れたのだ。3mほど距離はあるが、こんな夜に唐突だとそりゃ驚く。

「さくらにそっくりだ…」

 和馬が口を開けて動画と夜叉を見比べた。彦瀬もコクコクとうなずいている。

 一方の本人は固まっていた。まるで動画の中の人と見つめあっているように。

 動画の中の人────夜叉のそっくりさんは、不思議な和服の組み合わせと着こなし方をしていた。頭の上で2つのおだんごが作られ、残りは胸のあたりにかかっている。ハイサイブーツを履いており、太ももがチラリとのぞいていた。

「これ…やーちゃんじゃないの?」

「違う! 私はこんなカッコしないし、夜に出歩かない。第一…この人、胸ないじゃん」

 3人でそっくりさんと本人の胸を見比べて納得した。彦瀬はだらりと脱力して夜叉に抱きついた。

「よかったー…やーちゃん、どうしちゃったのかと思ったよ…」

「おっぱいで判明するって何…」

「んんんやーちゃんの胸様さすが! おっぱいわっしょい!」

「だからそういうことをデカい声で言うのやめなさいって…」

「いだだだだだ」

 夜叉に頬をつかまれて涙目の彦瀬を笑っている中、動画は続いており。そっくりさんは表情を変えることなく背を向け、とび跳ねていった。およそ人間業ではない跳躍力だった。
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