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5章
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夜叉の彼氏は朝来で間違いないと断定している和馬たちは、彼女が誰とも帰ろうとしない日によく集まった。
この日も夜叉は和馬に晩御飯はいらない、帰りは遅くなると思うと言って先に帰ってしまった。
授業後の教室はその日の授業が終わったという開放感からか、人が段々と少なくなってる割には騒がしい。これから部活がある者はさっさと出ていったが、特に用事が無い者はグダグダと駄弁っている。
集まりの中心である和馬は今日一日ずっと真っ青な顔をしていた。その理由を知っている昴はギターケースをそばに置いてニヤニヤしていた。
「大丈夫かよ和馬。ちゃんと話せそうなの?」
言葉は心配しているがニンマリとした表情は楽しんでいるようにしか見えない。そんな彼に言い返す余裕が無い程、和馬はじっとして重々しく口を開いた。
「今朝…さくらが朝帰りをしたんだ…」
「あさがっ…むぐぐ」
素っ頓狂な声を上げた彦瀬を瑞恵が押さえつける。隣でやまめは目を輝かせ、小さなノートにメモを取り始めた。
瑞恵は顔を赤くすると咳払いをした。そして非常に言いづらそうに、しかし興味を抑えきれない様子で声をひそめた。
「それってまさかやーちゃんが…したってこと?」
「し…何を!!」
「だからセ…」
「バッカ! ここで言うんじゃない!」
和馬は恥ずかしそうに"女の子なのに…破廉恥~!"と泣きながら顔を手で覆った。これではどちらが女で男だか分からない。瑞恵の興味津々な様子と和馬が泣き出すのを見て昴は爆笑した。
「なんだよ和馬! やーちゃんに先越されたのがそんなに悔しいのか!」
「ちっがーう! そんなんじゃないもん!」
顔から出るもの全てを流しながら、和馬は盛大な鼻声で机に頭を打ち付け始めた。
「なんでだよ…なんで話してくれないんだよ…」
「何々。和馬はシスコンなの?」
「そうじゃない!」
「やーちゃんにだっていろいろあるんだよ。それに恋愛のことは家族に言いづらいんじゃない? …まぁ、その点で言うと友だちの私たちにくらい話してくれてもいいんじゃないかな~とは思ったけど…」
やまめはメモを取るのをやめて目を伏せた。恋だの愛だのを書き慣れているはずの彼女は、ある時からこういう話題になると時々遠い目をするようになった。もしかしてやまめにも実は恋愛に関して誰にも言えない悩みを抱えたことがあるのでは…と思ったが、それはすぐに吹き飛ばされた。
「まっ! そろそろ私も出るとこ出ようかな!」
「えぇ…?」
突然満面の笑みで親指を突き立てたやまめに戸惑う和馬だが、次の瞬間に椅子から吹っ飛びそうになる。
「今度、やーちゃんのデートを尾行けるわ!」
「や、え、ちょっと…はぁぁぁぁ!?」
「もうこれしかないでしょ。最終手段使っていいでしょ」
「いやいや…そんなことまでして知らなくていいよ…」
「和馬のためじゃないよ? 私のネタ集め…あっ、面白そうだから…えっと、影内君が本当にやーちゃんにふさわしい相手か見極めるため!」
「おいおい自分のためじゃんかよ!」
やまめが目から光線が出そうなほど輝かせて勢いよく椅子から立ち上がった。その拍子に椅子が倒れて転がる。
完全に私情を挟んだ理由に和馬は頭を抱えた。やまめの心配をするだけ損だった。彼女はそういう人間なのだ。
「やってること週刊記者じゃね…」
「面白そう! 彦瀬もストーカーしたい!」
「私もやーちゃんの女の顔見たいから着いてこっと」
「え…彦ちゃん…みーちゃん?」
止めるどころかノリノリの2人はやまめと固い握手を交わしている。完全に決まってしまった。
「ちょっと君たち…」
「面白そうだけど俺は新曲の練習があるからパスね。皆頑張って」
「「「おー!!」」」
どうやらこの場で異論を唱えているのは和馬だけらしい。昴は"お前も頑張れ"とだけ声をかけ、ギターケースを背負うと教室を出て行ってしまった。女子3人はもう聞く耳を持つ様子はない。
「やーちゃんの次のデートっていつだろうね…」
「正直平日に後を尾行けるのは大変だよね…帰り遅くなっちゃいそうだし」
「やっぱり土日の方がいいな。土日だとシフトの時間長いからサボるために」
「彦瀬はバイトサボりたいだけじゃん…」
「でへへ」
照れ笑いをした彦瀬は誰の物か知らない机の上で伸びている。
「和馬ー。やーちゃんのデートの日っていつか分かるー?」
「分かるわけないだろ…」
「どうしよ…探りいれる?」
「やーちゃんのことだからそう簡単に教えてくんないでしょ。ってか逆に警戒されそう」
結局いい作戦は思いつかなかったのか彼女たちは全然関係ない話を始めた。次から次へと話題が変わるのはさすがお喋り好きな女子と言ったところだ。
面白がってとんでもない方向に突っ走った彼女たちを見ていたら、逆に和馬は冷静になってきた。
「もう俺は帰るよ!」
「「「はいはい、バイバーイ」」」
3人は一様に手を振って和馬のことを見送った。
その様子をたまたま見ていた智はため息をつき、教室から出ていこうとする和馬を追いかけようとしたが首を振ってやめた。
「やーちゃん、先輩のことを誰にも話してないんだね」
「…みたいだな」
横に並ぶ日奈子は小さな声でくすくすと笑った。
「もういっそ俺から話した方がいいか…?」
「やめときなよ、きっとうまくいったらやーちゃんは自分から話すんじゃないかな」
「それもそうか…」
「それに面白そうじゃない?」
「え…日奈子…?」
智は先ほどまで上品に笑っていた恋人が急にいたずらっぽい笑みになって楽しそうにしている。
意外といい性格してるんだよな…と彼は、さほど困ってない顔で前髪をかき上げた。
夜叉が最近、友人にも明かさずに出かけている相手を2人は知っている。うまく行ってるなら野暮なことはしない方がいいかと、智はその場を去ることにした。
この日も夜叉は和馬に晩御飯はいらない、帰りは遅くなると思うと言って先に帰ってしまった。
授業後の教室はその日の授業が終わったという開放感からか、人が段々と少なくなってる割には騒がしい。これから部活がある者はさっさと出ていったが、特に用事が無い者はグダグダと駄弁っている。
集まりの中心である和馬は今日一日ずっと真っ青な顔をしていた。その理由を知っている昴はギターケースをそばに置いてニヤニヤしていた。
「大丈夫かよ和馬。ちゃんと話せそうなの?」
言葉は心配しているがニンマリとした表情は楽しんでいるようにしか見えない。そんな彼に言い返す余裕が無い程、和馬はじっとして重々しく口を開いた。
「今朝…さくらが朝帰りをしたんだ…」
「あさがっ…むぐぐ」
素っ頓狂な声を上げた彦瀬を瑞恵が押さえつける。隣でやまめは目を輝かせ、小さなノートにメモを取り始めた。
瑞恵は顔を赤くすると咳払いをした。そして非常に言いづらそうに、しかし興味を抑えきれない様子で声をひそめた。
「それってまさかやーちゃんが…したってこと?」
「し…何を!!」
「だからセ…」
「バッカ! ここで言うんじゃない!」
和馬は恥ずかしそうに"女の子なのに…破廉恥~!"と泣きながら顔を手で覆った。これではどちらが女で男だか分からない。瑞恵の興味津々な様子と和馬が泣き出すのを見て昴は爆笑した。
「なんだよ和馬! やーちゃんに先越されたのがそんなに悔しいのか!」
「ちっがーう! そんなんじゃないもん!」
顔から出るもの全てを流しながら、和馬は盛大な鼻声で机に頭を打ち付け始めた。
「なんでだよ…なんで話してくれないんだよ…」
「何々。和馬はシスコンなの?」
「そうじゃない!」
「やーちゃんにだっていろいろあるんだよ。それに恋愛のことは家族に言いづらいんじゃない? …まぁ、その点で言うと友だちの私たちにくらい話してくれてもいいんじゃないかな~とは思ったけど…」
やまめはメモを取るのをやめて目を伏せた。恋だの愛だのを書き慣れているはずの彼女は、ある時からこういう話題になると時々遠い目をするようになった。もしかしてやまめにも実は恋愛に関して誰にも言えない悩みを抱えたことがあるのでは…と思ったが、それはすぐに吹き飛ばされた。
「まっ! そろそろ私も出るとこ出ようかな!」
「えぇ…?」
突然満面の笑みで親指を突き立てたやまめに戸惑う和馬だが、次の瞬間に椅子から吹っ飛びそうになる。
「今度、やーちゃんのデートを尾行けるわ!」
「や、え、ちょっと…はぁぁぁぁ!?」
「もうこれしかないでしょ。最終手段使っていいでしょ」
「いやいや…そんなことまでして知らなくていいよ…」
「和馬のためじゃないよ? 私のネタ集め…あっ、面白そうだから…えっと、影内君が本当にやーちゃんにふさわしい相手か見極めるため!」
「おいおい自分のためじゃんかよ!」
やまめが目から光線が出そうなほど輝かせて勢いよく椅子から立ち上がった。その拍子に椅子が倒れて転がる。
完全に私情を挟んだ理由に和馬は頭を抱えた。やまめの心配をするだけ損だった。彼女はそういう人間なのだ。
「やってること週刊記者じゃね…」
「面白そう! 彦瀬もストーカーしたい!」
「私もやーちゃんの女の顔見たいから着いてこっと」
「え…彦ちゃん…みーちゃん?」
止めるどころかノリノリの2人はやまめと固い握手を交わしている。完全に決まってしまった。
「ちょっと君たち…」
「面白そうだけど俺は新曲の練習があるからパスね。皆頑張って」
「「「おー!!」」」
どうやらこの場で異論を唱えているのは和馬だけらしい。昴は"お前も頑張れ"とだけ声をかけ、ギターケースを背負うと教室を出て行ってしまった。女子3人はもう聞く耳を持つ様子はない。
「やーちゃんの次のデートっていつだろうね…」
「正直平日に後を尾行けるのは大変だよね…帰り遅くなっちゃいそうだし」
「やっぱり土日の方がいいな。土日だとシフトの時間長いからサボるために」
「彦瀬はバイトサボりたいだけじゃん…」
「でへへ」
照れ笑いをした彦瀬は誰の物か知らない机の上で伸びている。
「和馬ー。やーちゃんのデートの日っていつか分かるー?」
「分かるわけないだろ…」
「どうしよ…探りいれる?」
「やーちゃんのことだからそう簡単に教えてくんないでしょ。ってか逆に警戒されそう」
結局いい作戦は思いつかなかったのか彼女たちは全然関係ない話を始めた。次から次へと話題が変わるのはさすがお喋り好きな女子と言ったところだ。
面白がってとんでもない方向に突っ走った彼女たちを見ていたら、逆に和馬は冷静になってきた。
「もう俺は帰るよ!」
「「「はいはい、バイバーイ」」」
3人は一様に手を振って和馬のことを見送った。
その様子をたまたま見ていた智はため息をつき、教室から出ていこうとする和馬を追いかけようとしたが首を振ってやめた。
「やーちゃん、先輩のことを誰にも話してないんだね」
「…みたいだな」
横に並ぶ日奈子は小さな声でくすくすと笑った。
「もういっそ俺から話した方がいいか…?」
「やめときなよ、きっとうまくいったらやーちゃんは自分から話すんじゃないかな」
「それもそうか…」
「それに面白そうじゃない?」
「え…日奈子…?」
智は先ほどまで上品に笑っていた恋人が急にいたずらっぽい笑みになって楽しそうにしている。
意外といい性格してるんだよな…と彼は、さほど困ってない顔で前髪をかき上げた。
夜叉が最近、友人にも明かさずに出かけている相手を2人は知っている。うまく行ってるなら野暮なことはしない方がいいかと、智はその場を去ることにした。
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