Eternal Dear2

堂宮ツキ乃

文字の大きさ
上 下
18 / 22
6章

しおりを挟む
 誰もが眠たくなる、午後の授業。

 その日の五限目はさらに眠気を誘われる授業だった。

「本日は年に一度の義務、精霊の伝承話を朗読します」

 さわやな笑顔で告げた霞は、古ぼけた本をペラペラとめくっていく。

 それは各学園に一冊ある、"天"の学者による手書きの本────『精霊紀せいれいき』。

 各学年が年に一度、国語の授業で教師によって朗読される。

 もちろん麓は初めて。だがこの学園に長くいる者にとっては、耳にたこができるほど聞き飽きている。

 すでに睡魔に襲われている者がいるから、しばらくしたら霞の美声で眠り込んでしまうだろう。

「それでは読んでいきます────」



 およそ三千年前、この国の都として栄えていた場所に突如として地震や辻風などの自然災害が相次ぎました。

 立て続けて起こる天災に人間たちは戸惑うばかり。華やかだった都はみるみるうちに荒れ果てていきました。

 しかし精霊たちには原因が分かっていました。

 我らが長、アマテラス様を敵視する愚神────禍神まがかみと呼ばれる神のしわざだと。

 彼は平和なだけの世界を嫌っていました。刺激に満ちた世界を望んでいたのです。

 禍神が自らその悪事をやめる姿を望んでいたアマテラス様は、もうそれ以上黙っていることはできませんでした。

 彼女だけが持つ、優しい者には温かく感じるが悪に染まった者には火あぶりされている感覚に陥る光輪で禍神を昇天させました。

 次に生まれ変わるときは今と正反対であることを願って。

 禍神は昇天した後、生まれ変わりました。

 "天"の1人、雪の精霊として。

 清廉潔白な外見で目立った行動はなかった彼でしたが、ある日突然、髪を黒く染めました。さらに瞳には赤褐色のカラコン。

 それから彼は精霊狩りを始めました。

 これが天災地変の先駆けです。

 これまでに「地震」「雷」「梅雨」の精霊たちの結晶が奪われました。

 彼らはいずれも"天"の精霊の中でトップクラスのチカラを持つ者ばかり。 

 これを黙って見過ごしていられなかったのはアマテラス様、同じ"天"の精霊や彼らに近しい精霊たちでした。

 一時期は結晶を巡って戦争が起きましたが、禍神が所在地を変えたために停戦状態になってます────



 帰りのHRの後。

 光と帰ろうとしてバッグに教科書やノートを入れていた麓に、ある女子が話しかけた。

「ねぇ、麓さん」

「…立花さん。どうかしましたか?」

 凪にこういう女には気を付けろ、と釘を刺されたので麓の警戒心が強くなる。振り向きつつも、声は抑え気味だ。

 対する立花の声は恋する乙女で、瞳は輝いている。この時点で嫌な予感しかない。

「この前のこと、どうだったかしら?」

「あぁ…凪さんに宣伝、ですよね。えっと────"まぁ覚えてやる。俺のことだからすぐ忘れるかもしんねェけど"だそうです。なので期待しない方がいいですよ」

 本音は隠して、凪らしい他の言葉を考えた。我ながら彼が言いそうな気がする。意外と凪語が自分の中で定着しているらしい。

「私のためだけにお言葉を下さるなんて…はぁ…」

 立花は完全に信じこんだようだ。ほんのり赤く染めた頬に手を当てて、(麓が偽造した)凪の言葉にうっとりと酔いしれている。

 若干宗教じみてて怖いが、都合がいい。

「ということなので私はこれで失礼しますね」

「待って!」

 今度は何…。宣伝してほしいというだけでも重いのに。これ以上何か頼まれるのはうんざりだ。

 しかし立花は麓の気持ちに気付かず、輝きを一層増した瞳で胸の前で手を組んだ。

「もうすぐクラスマッチがあるじゃない。その時に…」

 うわ、また面倒事が…今回は断ろう。宣伝しただけで充分なハズだ。麓は心の中でそう決めて立花の言葉を待った。

「私と凪様を引き合わせてほしいの!」

 瞳の色、勢い、組んだ両手。それらをトータルして、麓はがっくりとうなだれた。

「はい…」

 その場の状況と麓の性分、全てが合わさって引き受けてしまった。

 頼まれたことは断れない性格が、後に災いを引き起こしてしまうことを知らずに。



「────んで、俺がその立花っちゅー女に会えってか」

「本当にすみません。断れませんでした…」

 その日の夜。時代錯誤な和装をした男女2人が、花弁が散った桜の木の下にいた。

 月に照らされた凪に、麓は夕方のことを謝っていた。

「しょうがねェ、おめーじゃ勝てなかったんだろ?」

「おっしゃる通りです…」

 麓がうつむいているのに対し、凪は考え事をしているのか月を見上げている。しばらくしてからつぶやくように言った。

「クラスマッチの最後に、優勝したクラスと教師チームの試合がある。そん時に俺に連絡しろ」

「えっ、会うんですか?」

 彼は仕方なさげに肩をすくめた。

「そうするしかねェだろ。相手が相手なんだからよ」

「…ごめんなさい」

「ガキが気ィ遣うな。俺は俺でその女を適当にあしらう」

「そうですか。でも!ガキってなんですかガキって」

「言ったまんまの意味~。300くらい歳違うんだぜ?」

 余裕の笑みを浮かべて横目で麓のことを見下ろす凪にムッとして、麓は上目遣いで彼をにらんだ。

 彼は鼻で笑って背を向けた。

「そろそろ戻るぞ。風が出てきた」

 寮に向かって歩くその背中は麓のことをガキ呼ばわりするだけあって広い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Eternal Dear1

堂宮ツキ乃
恋愛
この世に存在するという精霊が、人の姿で彼らだけの学園に通っていたら? 主人公の女精霊、麓(ろく)のイケメンとの学園生活。 ──── 高校時代に書いた乙女小説(って言っていいのか謎)です。かなり長いです。他サイトからお引越ししました。 テーマは精霊。やっと気付いたけどある意味擬人化。 イケメンに飢えていたんだろな…だってタイプの男性あんなに出演させて← いつか乙女ゲームのブランドに入るのが密かな野望。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

ざまぁでちゅね〜ムカつく婚約者をぶっ倒す私は、そんなに悪役令嬢でしょうか?〜

ぬこまる
恋愛
王立魔法学園の全校集会で、パシュレミオン公爵家長子ナルシェから婚約破棄されたメルル。さらに悪役令嬢だといじられ懺悔させられることに‼︎  そして教会の捨て子窓口にいた赤ちゃんを抱っこしたら、なんと神のお告げが……。 『あなたに前世の記憶と加護を与えました。神の赤ちゃんを育ててください』 こうして無双魔力と乙女ゲームオタクだった前世の記憶を手に入れたメルルは、国を乱す悪者たちをこらしめていく! するとバカ公爵ナルシェが復縁を求めてくるから、さあ大変!? そして彼女は、とんでもないことを口にした──ざまぁでちゅね 悪役令嬢が最強おかあさんに!? バブみを感じる最高に尊い恋愛ファンタジー! 登場人物 メルル・アクティオス(17) 光の神ポースの加護をもつ“ざまぁ“大好きな男爵令嬢。 神の赤ちゃんを抱っこしたら、無双の魔力と乙女ゲームオタクだった前世の記憶を手に入れる。 イヴ(推定生後八か月) 創造神ルギアの赤ちゃん。ある理由で、メルルが育てることに。 アルト(18) 魔道具開発をするメルルの先輩。ぐるぐるメガネの平民男子だが本当は!? クリス・アクティオス(18) メルルの兄。土の神オロスの加護をもち、学園で一番強い。 ティオ・エポナール(18) 風の神アモネスの加護をもつエポナ公爵家の長子。全校生徒から大人気の生徒会長。 ジアス(15) 獣人族の少年で、猫耳のモフモフ。奴隷商人に捕まっていたが、メルルに助けられる。 ナルシェ・パシュレミオン(17) パシュレミオン公爵家の長子。メルルを婚約破棄していじめる同級生。剣術が得意。 モニカ(16) メルルの婚約者ナルシェをたぶらかし、婚約破棄させた新入生。水の神の加護をもち、絵を描く芸術家。 イリース(17) メルルの親友。ふつうに可愛いお嬢様。 パイザック(25) 極悪非道の奴隷商人。闇の神スキアの加護をもち、魔族との繋がりがありそう──? アクティオス男爵家の人々 ポロン(36) メルルの父。魔道具開発の経営者で、鉱山を所有している影の実力者。 テミス(32) メルルの母。優しくて可愛い。驚くと失神してしまう。 アルソス(56) 先代から伯爵家に仕えているベテラン執事。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

処理中です...