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3章
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授業は毎年同じような内容。それゆえ、長く同じ学年を留年している精霊は、嫌でも授業内容が頭の中へ染み込んでいく。
きっと凪がそうだろう────ぶっきらぼうな委員長のことを思い出しながら、麓は黒板の内容をノートへ書き写す。
扇の授業スタイルは"ゆっくりと分かりやすく"で、1問1問の解説に手を抜かない。生徒が問題を解く時は、必ず全員の手元を見ながら回った。
「どう? 麓さん。初めての授業は」
いつの間にか扇が近くにいて、頭上から声が降ってきた。
「すごく分かりやすいです。私でも解けました」
「お、やるじゃん。さすがは賢い山の精霊」
「いえ…まだ最初の方だからだと思います」
ふと、扇が麓に覆いかぶさるように片手を机に突いた。
「そんなとこも偉い! はい、正解ね」
彼は麓のノートに赤ペンでシュッと丸をつけた。
正解にたどり着いたら褒める。これも扇にとって欠かせないことだ。
ついでにこっそりと頭をなでたのは彼女だけ。
「…この調子でがんばれ」
扇は彼女の耳元で小さくささやいてから、他の生徒の所へ向かった。
心臓が鼓動を打ち始める。赤くなった顔を見られないよう、麓はまだ問題を解いている振りをしてうつむいた。
2限目は国語。この授業も見知った顔が担当だ。
「国語担当の霞です。ちなみに君たちの担任とは同僚です。よろしく」
眼鏡の奥の目を細めて微笑む霞。その姿にうっとりと酔いしれる女子が多数。
「最高過ぎる! 今年はイケメン教師が2人も授業にくるなんて…」
「今年はツイてるわ」
そのようにささやき合う女子の声も聞こえた。
ツイてるのは…麓がこのクラスにいるからだ。
────おめーの安全を考えて扇と霞には教科担当になるように、理事長に頼んでおく。
────そんなことできるんですか?
────あたりめーだろ。俺を誰だと思ってんだ? 風紀委員長にして天神地祇のトップだぞ。使えるモンは使わねェと。
凪の権利主張は職権乱用みたいなものだと、後から蒼が説明を添えていた。正統な理由だコラ、と凪が言い返していたけど。
「ではさっそく教科書を開いて下さい」
あいさつは手短に、霞はもう授業を始めた。麓も慌てて教科書をパラパラとめくる。
初めの授業は短い詩を読むだけ。
「私が読むので聞いていて下さい────」
霞はいつもの美声で朗読を始め、その声が子守唄に聞こえてくるのは麓だけではない。
うとうととしてきてまぶたが重くなり、沈んでいく者が出てきた。
見た目だけでなく、持ち前の美声で堕とすことも可能なのが霞。
ただただ感心するばかり。教科書から目をはなしてチラリと霞のことを見ると、彼は優しい表情で読み上げている。
ちょうどキリのいいところになり、霞は読むのをやめて顔を上げた。
麓と目が合うと色っぽい笑みを浮かべる。唇を半開きにして。
今、顔を上げているのは霞と麓だけ。その笑顔は麓だけに向けられていることになる。
(…!)
思わず見とれかけたが、麓は視線を落とした。それ以上見つめられるとどうにかなってしまいそうで。
対する霞は、恥じらいがちに教科書に視線を移した麓のことを、愛おしそうに見つめていた。
きっと凪がそうだろう────ぶっきらぼうな委員長のことを思い出しながら、麓は黒板の内容をノートへ書き写す。
扇の授業スタイルは"ゆっくりと分かりやすく"で、1問1問の解説に手を抜かない。生徒が問題を解く時は、必ず全員の手元を見ながら回った。
「どう? 麓さん。初めての授業は」
いつの間にか扇が近くにいて、頭上から声が降ってきた。
「すごく分かりやすいです。私でも解けました」
「お、やるじゃん。さすがは賢い山の精霊」
「いえ…まだ最初の方だからだと思います」
ふと、扇が麓に覆いかぶさるように片手を机に突いた。
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彼は麓のノートに赤ペンでシュッと丸をつけた。
正解にたどり着いたら褒める。これも扇にとって欠かせないことだ。
ついでにこっそりと頭をなでたのは彼女だけ。
「…この調子でがんばれ」
扇は彼女の耳元で小さくささやいてから、他の生徒の所へ向かった。
心臓が鼓動を打ち始める。赤くなった顔を見られないよう、麓はまだ問題を解いている振りをしてうつむいた。
2限目は国語。この授業も見知った顔が担当だ。
「国語担当の霞です。ちなみに君たちの担任とは同僚です。よろしく」
眼鏡の奥の目を細めて微笑む霞。その姿にうっとりと酔いしれる女子が多数。
「最高過ぎる! 今年はイケメン教師が2人も授業にくるなんて…」
「今年はツイてるわ」
そのようにささやき合う女子の声も聞こえた。
ツイてるのは…麓がこのクラスにいるからだ。
────おめーの安全を考えて扇と霞には教科担当になるように、理事長に頼んでおく。
────そんなことできるんですか?
────あたりめーだろ。俺を誰だと思ってんだ? 風紀委員長にして天神地祇のトップだぞ。使えるモンは使わねェと。
凪の権利主張は職権乱用みたいなものだと、後から蒼が説明を添えていた。正統な理由だコラ、と凪が言い返していたけど。
「ではさっそく教科書を開いて下さい」
あいさつは手短に、霞はもう授業を始めた。麓も慌てて教科書をパラパラとめくる。
初めの授業は短い詩を読むだけ。
「私が読むので聞いていて下さい────」
霞はいつもの美声で朗読を始め、その声が子守唄に聞こえてくるのは麓だけではない。
うとうととしてきてまぶたが重くなり、沈んでいく者が出てきた。
見た目だけでなく、持ち前の美声で堕とすことも可能なのが霞。
ただただ感心するばかり。教科書から目をはなしてチラリと霞のことを見ると、彼は優しい表情で読み上げている。
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今、顔を上げているのは霞と麓だけ。その笑顔は麓だけに向けられていることになる。
(…!)
思わず見とれかけたが、麓は視線を落とした。それ以上見つめられるとどうにかなってしまいそうで。
対する霞は、恥じらいがちに教科書に視線を移した麓のことを、愛おしそうに見つめていた。
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