Eternal Dear1

堂宮ツキ乃

文字の大きさ
上 下
13 / 23
3章

しおりを挟む
 目を開けてぼんやりとした視界に飛びこんできたのは見慣れない天井の木目。

(あれ? 私…)

 思考回路が正常に働き出してから体を起こした麓。眠たい目をこすっていると、脳が徐々に覚醒していく。

(…そうだ。学園にいるんだった)

 麓はゴソゴソと毛布を片付けた。

 着替え終わってから窓を開け、外の空気を思い切り吸い込んだ。山の上と学園の空気はなんとなく味が違う気がした。

  すると、窓の桟に3羽のスズメが降り立った。

「おはよう」

 ごく自然に話しかけて微笑むと、1羽が麓の指に止まった。

『おはよう。初めて見る顔だね。どこから来たの?』

 スズメが語りかけてきた。口振りからして、ここによく訪れているのだと思われる。

「花巻山からだよ」

『えっ? じゃあ君が麓?』

「そうだけど…なんで知ってるの?」

『だって有名だよ? 君のことって。花巻山の"花"だって獣たちの間では呼ばれているよ。────そっかぁ、ここに来たのか。じゃっ、あの山は今は"巻山"だね』

「私が花? どういうこと?」

 獣相手で油断したのか、一人称が"私"になっていた。

 スズメの言った意味がわからない麓が首を傾げると、スズメは喉の奥で笑った。

『言った通りさ。きっとその内分かるよ』

 そう言い残し、3羽とも飛び立ってしまった。

 自分が"花"。

 どういうことなんだろう。スズメは麓に疑問を残した。



「おはようございます」

「おはようございます。麓様が1番ですわ」

 食堂のテーブルにはすでに、朝食の準備ができている。寮長はコーヒーを飲んでくつろいでいたらしい。

「ささ、朝食をどうぞ。朝の元気の源でございますから、しっかりとお召し上がり下さいませ」

「ありがとうございます」

 麓は昨日と同じ席に座り、手を合わせてから目玉焼きが乗ったトーストをかじった。卵は半熟でトローリとしていて濃厚だ。トーストもほどよく焼かれていて香ばしい。

「おっはよー! あ、ロクにゃんじゃん」

「早いな。昨日はよく眠れたか?」

 光と焔が寝巻きのままで食堂に姿を現した。 2人とも頭に寝ぐせがついている。

「早いね…。若者達よ…」

「頭痛ェ…」

 若干、顔色が悪いのは霞と扇。こめかみを抑えている。寮長は心配そうな表情になった。

「どうされたんです?お2人ともずいぶん調子が悪そうですが」

「晩に呑み過ぎたかも…」

「まぁいつの間に。仕方ありませんね、すぐにお味噌汁を用意致します」

「すまない寮長…」

 寮長は台所へ引っ込み、霞と扇は椅子に座り込んだ。いくらアルコールに酔わないとは言え、調子に乗って呑みまくるとひどい二日酔いに襲われる。

「早ェよおめーら…まだ眠いわ」

 最後に来たのは凪。二日酔いになった様子はなく、普通に席に着いて朝食に手を伸ばした。だが、霞と扇の様子にギョッとして手を引っ込みかけた。

「うっわ…朝からどんなテンションしてんだおめーら。怖ェぞ」 

「あはは…大丈夫。たぶん」

 2人の顔色が少しだけ良くなったように見えたのは麓の気のせいだろうか。

 とりあえずサラダを食べ始め、朝食に集中した。

「そういえば、始業式のことを話してなかったよな」

 凪が声をかけられ、麓はうなずいた。

「4月にあるから。それまでこの風紀委員寮にいな。学園が始まれば、一般の生徒寮に移動だ」

「そうですか…」

 まぁそれもそうだろうな、と思う。自分は風紀委員じゃないから。

 それでも少し寂しい。風紀委員は一緒にいて楽しい人がいる。

 光とか焔とか…委員じゃないけど寮長も。霞と扇は頼りになると思う。

 でもただ1人────青髪の男のことはよくわからない。

「んで、自分の故郷に帰ることができるのは長期休暇のみ。夏休みとか…今だな」

 もぐもぐとサラダを咀嚼している凪の黄金色の瞳は、話しかけている麓ではなく朝食に向けていた。

 初対面のあの時に、初めてぬくもりを教えてくれたのはまぎれもなくこの人だ。

 でも────心の距離が1番遠い気がする。

 会って日が短いのもあるだろうけど、他とは何かが違う。

 必要なことは全て話してくれる。歳上として言えるフォローも入れてくれる。

 それでも…なぜこんなに気になるんだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

ざまぁでちゅね〜ムカつく婚約者をぶっ倒す私は、そんなに悪役令嬢でしょうか?〜

ぬこまる
恋愛
王立魔法学園の全校集会で、パシュレミオン公爵家長子ナルシェから婚約破棄されたメルル。さらに悪役令嬢だといじられ懺悔させられることに‼︎  そして教会の捨て子窓口にいた赤ちゃんを抱っこしたら、なんと神のお告げが……。 『あなたに前世の記憶と加護を与えました。神の赤ちゃんを育ててください』 こうして無双魔力と乙女ゲームオタクだった前世の記憶を手に入れたメルルは、国を乱す悪者たちをこらしめていく! するとバカ公爵ナルシェが復縁を求めてくるから、さあ大変!? そして彼女は、とんでもないことを口にした──ざまぁでちゅね 悪役令嬢が最強おかあさんに!? バブみを感じる最高に尊い恋愛ファンタジー! 登場人物 メルル・アクティオス(17) 光の神ポースの加護をもつ“ざまぁ“大好きな男爵令嬢。 神の赤ちゃんを抱っこしたら、無双の魔力と乙女ゲームオタクだった前世の記憶を手に入れる。 イヴ(推定生後八か月) 創造神ルギアの赤ちゃん。ある理由で、メルルが育てることに。 アルト(18) 魔道具開発をするメルルの先輩。ぐるぐるメガネの平民男子だが本当は!? クリス・アクティオス(18) メルルの兄。土の神オロスの加護をもち、学園で一番強い。 ティオ・エポナール(18) 風の神アモネスの加護をもつエポナ公爵家の長子。全校生徒から大人気の生徒会長。 ジアス(15) 獣人族の少年で、猫耳のモフモフ。奴隷商人に捕まっていたが、メルルに助けられる。 ナルシェ・パシュレミオン(17) パシュレミオン公爵家の長子。メルルを婚約破棄していじめる同級生。剣術が得意。 モニカ(16) メルルの婚約者ナルシェをたぶらかし、婚約破棄させた新入生。水の神の加護をもち、絵を描く芸術家。 イリース(17) メルルの親友。ふつうに可愛いお嬢様。 パイザック(25) 極悪非道の奴隷商人。闇の神スキアの加護をもち、魔族との繋がりがありそう──? アクティオス男爵家の人々 ポロン(36) メルルの父。魔道具開発の経営者で、鉱山を所有している影の実力者。 テミス(32) メルルの母。優しくて可愛い。驚くと失神してしまう。 アルソス(56) 先代から伯爵家に仕えているベテラン執事。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

処理中です...