レイヤーさんの恋の引換

堂宮ツキ乃

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「ホントはさっちゃんたちが仕組んだことじゃないの?」

「違うわよ。死神は外にいたでしょ?」

「そうだけど…。都合よくみっつんの周りを操ったんじゃないかなって…」

「バカね。そんな周りくどい…というか不気味なことなんてしないわよ」

「そもそもできませんしね」

 3人は笑い、それが収まると重たい沈黙に包まれた。それを破り、紗良は寂しげなほほえみを浮かべた。

「最期なんでしょ? 今日が」

 運命も死神も驚いた顔をした。その表情を見て、紗良は目を伏せた。

「…なんとなく分かったよ。今まで2人同時にあたしの所に来ることなかったし」

「鋭いですね…。あなたの前では嘘をつけそうにない」

 死神がお手上げのポーズを取ると、紗良は苦笑いをして肩をすくめた。

 窓からの景色を眺め、ぼやくように話す。

「はは…。なんとなくだよ。────あたし、幸せだったよ。仕事にも友だちにも恵まれて、残りの時間を教えてもらえて、みっつんと直接話せて。それでも…。1回でいいから、誰かと結ばれてみたかったな…」

 紗良の瞳から涙がこぼれた。

 今まで泣きそうになることはあっても泣かなかった。

 それなのに恋のことで泣くなんて。

 運命が紗良のベッドの近くに膝をつき、紗良の左手を両手で包みこむ。

「こんな時に言うことじゃないかもしれないけと────あんたに時間を与えた件、実はあんたの恋愛成就と引き換えだったのよ。…ごめんなさい」

 いつも殊勝な運命がきまり悪そうにした。紗良はほほえんでゆっくりと首を振った。

「…大丈夫。死に際に恋人ができても相手を困らせるだけだし。最高のプレゼントをありがとう…って矛盾しているかな?」

 それには返事をせず、運命は曖昧にほほえんだ。

 静かにしている死神が紗良の頬にふれ、いつもの艶のある笑みを浮かべた。

「…紗良さん。人間としての人生、お疲れ様でした。そろそろ時間です」

 彼女は無言でうなずき、スマホを運命に差し出した。

「これさ、あたしが死んでしばらくしたら全部のアカウント消してほしいんだけど、頼んでいい?」

「いいわよ。あなたがそれでいいなら」

「いいよ。身の回りのことはちゃんと片付けたいから」

 紗良はスマホを渡す前にTwi〇terやアー〇イブに画像を上げ、運命に渡した。

 さっき光守が書いてくれたばかりのノートを抱きしめた。目を閉じると光守の歌声が聴こえてきた。走馬灯の代わりだろうか。

「…さよなら、紗良」

 運命に手を握られたまま、死神に頬に手を添えられたまま、紗良は意識とこの世との繋がりをなくした。



 その後、検査に来た看護師によって紗良が亡くなったことが発覚、母親の瀬名は病院からの電話を耳にした途端、携帯を落とした。

 紗良の病室の片付け中、光守自身が書いた本の間に遺書が挟まっているのを発見。

 内容を目にした瀬名は、人目もはばからず号泣した。

『母さんへ

 早く死ぬことになってごめんね。ロクに親孝行ができなかったことも…。あたしの持っている物でお金になる物は全て売って、生活の足しにしてください。それ以外は全て処分で。分けてあるからすぐわかると思う。

 最後に、女手1つであたしのことを育ててくれてありがとう。いいことばっかじゃなかったけど、やっぱり母さんの元に生まれて良かったよ。ありがとう』

 Twit〇erにはメモをスクショしたものが投稿された。

 その遺書はどこか切なく、たくさんのレイヤーやカメラマンがリツイートしたりお気に入りに登録したが、しばらくしてアカウントが消えたことでさらに話題になった。

『レイヤー仲間、カメラさんへ

 詳しいことは話せませんが、本日あたしはこの世との縁が切れることになりました。

 今までありがとうございました。中には2、3回しか会ってない人もいるけど…。それでも、あたしのレイヤー人生を語る上で皆さんの存在は欠かせません。

 特に舞、琴、雅、川端さん、伊予さん。1番長い付き合いになったね。皆に会えてホントに良かった。もし会えなかったらあたしはぼっちレイヤーで、さっさと引退してたかもしれない。

 一緒にイベントに行ったりご飯食べに行ったり遊びに行ったり。これまで皆みたいな友だちはいなかったから、初めて青春を味わった気がします。

 どうかあたしが死んでも気にせずコスプレを続けてください。天国からでも地獄の底からでも、皆のことを見守ってます。

P.S.   川端さん、伊予さん。あたしにとって最後のイベントで写真を撮って下さってありがとう。なのにデータを確認できなくてごめんなさい。あたし、お2人が撮る写真が好きです』

 柴山紗良、享年21歳。

 彼女は眠りながら亡くなった。

 光守からの歌詞を胸に抱きながら────



 紗良のスマホをいじっている運命は、Twi〇terやアー〇イブでの反響が尋常じゃないことに素直に驚いていた。そこはさすが小説を書いてきた人間だ、と思う。

 紗良が亡くなった直後にTwit〇erを見たら伊予からDMが来ていた。データ遅れてごめん、送ります、というもの。

 ちょうど入れ違いだった。もう少し早ければ。

 その後、伊予からまたDMが来ている。遺書ツイートのことをどういうこと? と聞きに来ている。

 DMは読むだけにし、データがあるというURLをタップした。

 水色のウィッグをかぶり、淡い色合いのワンピースを着て儚い表情をしている紗良。

 これは…? と思い、小説サイトを開く。

(ホントはちゃんとモデルがいるんじゃない…?)

 運命は仕方なさげに笑いながらデータを保存し、自分のスマホへ移した。
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