13 / 17
13
しおりを挟む
「いろんなとこ旅して、会いたい人に会って、小説も書いて遺書も書いて…。とにかくやりたいこと全部やったんです。いつ死んでもいいように」
死神と運命の存在だけは伏せ、話せることは全て話した。
本当はずっと誰かにこうして話したかった。
それがまさか好きな芸能人になるとは思わなかったが、おそらく一期一会の相手だからこうしてすんなり話せているのかもしれない。
光守は部屋にある椅子をベッドの脇に引き寄せて座っていた。紗良の話を聞きながらうなずき、余計な口は一切挟まない。
彼女が口を閉じた時、光守はかすかにほほえんだ。
「…残された時間、めいっぱいに生きたんだね。シンデレラみたい」
「…?」
コンサートや雑誌の取材で一切聞いたことのないワード。紗良は耳を疑って光守を凝視した。
「あー…。大袈裟だし似合わないかな?」
光守が頭をかきながら紗良の様子をうかがうと、彼女は上目遣いで首を振った。
「似合わないけど…ちょっと嬉しい。みっつんらしくなくて笑えます」
「ホントに? 何言ってんだコイツってなってない?」
「…多少は」
「思ったんかい」
光守は苦笑いで紗良の頭を小突く。彼にとってはさりげない仕草でも彼女には心臓発作を起こしそうなレベルの行動だ。
「だってみっつんって…しっとり系の恋愛の曲はあんまり歌わないじゃないですか。"君に惹かれている"より"俺の色香にとち狂え"みたいな曲が多い」
「え!? あんまそんな意識してないけど…マジでか。作詞の方向性ちょっと変えよ…」
「いやあたしはそのままでいいです」
「紗良さん、おとなしそうで意外と恋愛面激しい?」
「いえ全く。そんな恋できなかったですね」
きっぱり言う紗良をよそに光守はあごに手をやり、しばらくして紗良からノートとボールペンを借りた。
「ちなみにこれは何のノート?」
「ん~落書き帳? 小説の登場人物のラフでも書こうかと」
「イラストレーターみたいだね。じゃ、ちょっと借ります」
光守はラフ画は見られたくないという紗良に気を遣って1番後ろのページを開き、ボールペンでサラサラと文字を書いていく。
「何書いてるんですか?」
「勝手ながら詩を贈らせてもらおうかと。紗良さんと話してたらシンデレラネタが思い浮かんで。来世で素敵な恋愛ができますようにと」
「…シンデレラって灰かぶりって意味なんですよ?」
「夢ないこと言わない!」
光守は紗良のふざけた口調に笑いつつ、鼻歌でメロディーをささやくように奏でながら手を動かした。
本人にとってはちょっとした鼻歌なんだろうが、紗良には何にも代えがたい価値がある。
おだやかでちょっとロマンスが感じられるメロディーにうとうとしつつ、死ぬ時は光守の曲を聴きながら逝きたいなんて考えた。
完成し、ノートを渡された。
「最期に本当にありがとうございます。いい冥土の土産になりました」
「いーえ。若いのによく難しい言葉知ってんね?」
紗良はこのノートは骨壷の中に一緒に入れてもらおうと遺書に書き足そうと決めた。
光守は立ち上がりながらコートを着なおし、最後に紗良の頭をなでた。
「余命が分かっている人になんて言ったらいいか分からないけど…。どうか後悔のない余生を」
「はい」
変に気遣われるよりいい。紗良は入院してから初めて、心からの笑顔を浮かべた。
「あたし、みっつんのファンになって良かったです。みっつんのコンサートとか舞台を楽しみに学校も仕事も頑張って…みっつんのこと知らずに生きる人生考えたらぞっとします」
「大袈裟だよ…でもありがとう。俺も、紗良さんの人生に花が添えられたこと知ることができて嬉しいよ。もしまた…生まれ変わったら、俺のファンになってくれたらいいな…って都合良すぎ?」
紗良は首を振ってノートを抱きしめた。
最後に握手を交わした。
この時だけは憧れの芸能人と友だちのような関係になれたと思いたい。
光守が紗良の部屋を去ってすぐ、入れ替わりのように死神と運命が部屋へ来た。
死神と運命の存在だけは伏せ、話せることは全て話した。
本当はずっと誰かにこうして話したかった。
それがまさか好きな芸能人になるとは思わなかったが、おそらく一期一会の相手だからこうしてすんなり話せているのかもしれない。
光守は部屋にある椅子をベッドの脇に引き寄せて座っていた。紗良の話を聞きながらうなずき、余計な口は一切挟まない。
彼女が口を閉じた時、光守はかすかにほほえんだ。
「…残された時間、めいっぱいに生きたんだね。シンデレラみたい」
「…?」
コンサートや雑誌の取材で一切聞いたことのないワード。紗良は耳を疑って光守を凝視した。
「あー…。大袈裟だし似合わないかな?」
光守が頭をかきながら紗良の様子をうかがうと、彼女は上目遣いで首を振った。
「似合わないけど…ちょっと嬉しい。みっつんらしくなくて笑えます」
「ホントに? 何言ってんだコイツってなってない?」
「…多少は」
「思ったんかい」
光守は苦笑いで紗良の頭を小突く。彼にとってはさりげない仕草でも彼女には心臓発作を起こしそうなレベルの行動だ。
「だってみっつんって…しっとり系の恋愛の曲はあんまり歌わないじゃないですか。"君に惹かれている"より"俺の色香にとち狂え"みたいな曲が多い」
「え!? あんまそんな意識してないけど…マジでか。作詞の方向性ちょっと変えよ…」
「いやあたしはそのままでいいです」
「紗良さん、おとなしそうで意外と恋愛面激しい?」
「いえ全く。そんな恋できなかったですね」
きっぱり言う紗良をよそに光守はあごに手をやり、しばらくして紗良からノートとボールペンを借りた。
「ちなみにこれは何のノート?」
「ん~落書き帳? 小説の登場人物のラフでも書こうかと」
「イラストレーターみたいだね。じゃ、ちょっと借ります」
光守はラフ画は見られたくないという紗良に気を遣って1番後ろのページを開き、ボールペンでサラサラと文字を書いていく。
「何書いてるんですか?」
「勝手ながら詩を贈らせてもらおうかと。紗良さんと話してたらシンデレラネタが思い浮かんで。来世で素敵な恋愛ができますようにと」
「…シンデレラって灰かぶりって意味なんですよ?」
「夢ないこと言わない!」
光守は紗良のふざけた口調に笑いつつ、鼻歌でメロディーをささやくように奏でながら手を動かした。
本人にとってはちょっとした鼻歌なんだろうが、紗良には何にも代えがたい価値がある。
おだやかでちょっとロマンスが感じられるメロディーにうとうとしつつ、死ぬ時は光守の曲を聴きながら逝きたいなんて考えた。
完成し、ノートを渡された。
「最期に本当にありがとうございます。いい冥土の土産になりました」
「いーえ。若いのによく難しい言葉知ってんね?」
紗良はこのノートは骨壷の中に一緒に入れてもらおうと遺書に書き足そうと決めた。
光守は立ち上がりながらコートを着なおし、最後に紗良の頭をなでた。
「余命が分かっている人になんて言ったらいいか分からないけど…。どうか後悔のない余生を」
「はい」
変に気遣われるよりいい。紗良は入院してから初めて、心からの笑顔を浮かべた。
「あたし、みっつんのファンになって良かったです。みっつんのコンサートとか舞台を楽しみに学校も仕事も頑張って…みっつんのこと知らずに生きる人生考えたらぞっとします」
「大袈裟だよ…でもありがとう。俺も、紗良さんの人生に花が添えられたこと知ることができて嬉しいよ。もしまた…生まれ変わったら、俺のファンになってくれたらいいな…って都合良すぎ?」
紗良は首を振ってノートを抱きしめた。
最後に握手を交わした。
この時だけは憧れの芸能人と友だちのような関係になれたと思いたい。
光守が紗良の部屋を去ってすぐ、入れ替わりのように死神と運命が部屋へ来た。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説


王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる