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イベントで撮らせてくれてありがとう。写真はまた後日送ります。
Twi○terのダイレクトメールで伊予から送られた文章だ。
いつも「1年後に送っても許して!」と冗談を言いながら2週間ほどで送ってくれる。
たぶんまだ大丈夫。死ぬ前に撮ってもらえた写真を確認できる。
ホッとしながら紗良はTwi○terを閉じ、小説サイトを開いて執筆を再開する。
「もうすぐ死ぬ」と言われて本気を出して更新していたら、あと少しで完結できる所まできた。
今まで他のことばかりに目が行き、小説は思い出した時に書くかという亀更新だったことに後悔した。
その日の紗良は、母校である花咲高校に訪れていた。
3年通った私立の女子高。同性しかいないここでのびのびと過ごした。
「あ、柴山さん? 久しぶりー」
校内に入ってさっそく、お世話になった先生に声をかけられた。
クラス担任ではなく、科目担当として関わった女性教師だ。
「お久しぶりです」
「ホントにね~。3年ぶりくらい? 今21だったよね?」
「はい。なんとなく来たくなって…」
「柴山さんはなかなかここに来ないからどうしてるのかな~って、たまに他の先生と話してるよ」
「なかなか行く時が無かったんですよね。仕事も忙しかったし」
それは本当のことだ。行きたいとは思っていたが、いつも「また今度」と今日まで引きずっていた。小説と全く同じだ。
仕事も忙しかった。そこそこできるようになり、頼られることが多くて。
「そうか。仕事はどう?」
「実はやめちゃいました。他にやりたいことが見つかったんです」
「え。やめたの!? でもやりたいことが見つかったっていいじゃん、頑張りなよ。先生、応援してるから」
やめた理由を聞かれ、長く続けないと痛い目見るよとか教師らしいことを言われるんじゃないかと思っていたので、応援すると言われて心の強ばりが解けた。
「…ありがとうございます。先生も、頑張って」
「ありがとう。歳には勝てないけどやれるだけがんばるよ」
不意に社長の言っていたことを思い出し、先生につられてほほえんだ。
その後、紗良と同じようにここへ訪れた共に過ごした友人にも会え、声が枯れるまで思い出話に花を咲かせた。
もうティーンエイジャーではないが、今青春してんなって思えた一時だった。
どういうタイミングか中学校の同窓会が開かれ、紗良は初めて参加した。実は成人式の二次会は「次の日は仕事だから」と断っていたのだ。
こうしてほとんどのメンツが集まるのは久しぶりで、正直誰だか分からない人もいて「ねぇ…アレ誰?」とこっそり聞くことも。
お酒が入り、賑やかさが増した会場。
紗良は車で来たのでもちろんノンアルコールカクテル。
中学時代の友人と何人かで固まり、今は何をやっているかという話になった。
「ねぇ紗良~。彼氏は? 1人くらいできたんじゃな~い?」
さっきからジントニックを煽っている友人は既に出来上がっており、口調が怪しい。どうやら呑むと絡み癖がすごいらしい。
もう大人でしょうが…と苦笑いしつつ首を振った。
「いないよ。1人もできてない」
「ホントに~? まぁ紗良ってあんまり男と話すキャラじゃなかったし~? 男の方も紗良に話しかけることってあんま無かったよね~」
そばにいる友人にそう振り、カルピスサワーを煽っている彼女はうなずいた。
「確かにね。やっぱそういう所変わんないね、男の方もだけど。ていうか紗良は中学の時から何も変わんないな」
「…そう?」
ぶっちゃけカチンと来ているが、お酒が入ってるから目を瞑ることにする。酔っ払いの言うことに耳を傾けてはいけないとは思うが、聞き捨てならないことを容赦なく言われて眉間にシワが寄りかけているのがわかった。
「紗良ってぶっちゃけ見た目十人並ってヤツ? ブスまではいかないけど可愛いにも手ェ届かないよね~。だから男に声かけられないんだって」
「そうそう。もっとガッツリメイクしてさ、オシャレに目を向けなって」
「そう…だね」
バカにすんなって言い返せない自分がもどかしい。
コスプレしてる時でさえ他のレイヤーほど濃いメイクができない紗良は、普段はナチュラルメイクしかしない。肌への負担を考えて。
手元のグラスを持ち上げて一口含む。会話に入る気も話題を提供する気もなかった。
気づけば友人たちは男性陣の元におり、自撮りをしながら楽しそうに騒いでいた。
紗良のことは一切視界に入らないらしい。「紗良もおいでよ」の一言もなかった。別に待っているわけではないが。
この人たちには最期のあいさつをする必要はないか。怒りと共にそんなことを思い、紗良は人知れず会場を出た。
Twi○terのダイレクトメールで伊予から送られた文章だ。
いつも「1年後に送っても許して!」と冗談を言いながら2週間ほどで送ってくれる。
たぶんまだ大丈夫。死ぬ前に撮ってもらえた写真を確認できる。
ホッとしながら紗良はTwi○terを閉じ、小説サイトを開いて執筆を再開する。
「もうすぐ死ぬ」と言われて本気を出して更新していたら、あと少しで完結できる所まできた。
今まで他のことばかりに目が行き、小説は思い出した時に書くかという亀更新だったことに後悔した。
その日の紗良は、母校である花咲高校に訪れていた。
3年通った私立の女子高。同性しかいないここでのびのびと過ごした。
「あ、柴山さん? 久しぶりー」
校内に入ってさっそく、お世話になった先生に声をかけられた。
クラス担任ではなく、科目担当として関わった女性教師だ。
「お久しぶりです」
「ホントにね~。3年ぶりくらい? 今21だったよね?」
「はい。なんとなく来たくなって…」
「柴山さんはなかなかここに来ないからどうしてるのかな~って、たまに他の先生と話してるよ」
「なかなか行く時が無かったんですよね。仕事も忙しかったし」
それは本当のことだ。行きたいとは思っていたが、いつも「また今度」と今日まで引きずっていた。小説と全く同じだ。
仕事も忙しかった。そこそこできるようになり、頼られることが多くて。
「そうか。仕事はどう?」
「実はやめちゃいました。他にやりたいことが見つかったんです」
「え。やめたの!? でもやりたいことが見つかったっていいじゃん、頑張りなよ。先生、応援してるから」
やめた理由を聞かれ、長く続けないと痛い目見るよとか教師らしいことを言われるんじゃないかと思っていたので、応援すると言われて心の強ばりが解けた。
「…ありがとうございます。先生も、頑張って」
「ありがとう。歳には勝てないけどやれるだけがんばるよ」
不意に社長の言っていたことを思い出し、先生につられてほほえんだ。
その後、紗良と同じようにここへ訪れた共に過ごした友人にも会え、声が枯れるまで思い出話に花を咲かせた。
もうティーンエイジャーではないが、今青春してんなって思えた一時だった。
どういうタイミングか中学校の同窓会が開かれ、紗良は初めて参加した。実は成人式の二次会は「次の日は仕事だから」と断っていたのだ。
こうしてほとんどのメンツが集まるのは久しぶりで、正直誰だか分からない人もいて「ねぇ…アレ誰?」とこっそり聞くことも。
お酒が入り、賑やかさが増した会場。
紗良は車で来たのでもちろんノンアルコールカクテル。
中学時代の友人と何人かで固まり、今は何をやっているかという話になった。
「ねぇ紗良~。彼氏は? 1人くらいできたんじゃな~い?」
さっきからジントニックを煽っている友人は既に出来上がっており、口調が怪しい。どうやら呑むと絡み癖がすごいらしい。
もう大人でしょうが…と苦笑いしつつ首を振った。
「いないよ。1人もできてない」
「ホントに~? まぁ紗良ってあんまり男と話すキャラじゃなかったし~? 男の方も紗良に話しかけることってあんま無かったよね~」
そばにいる友人にそう振り、カルピスサワーを煽っている彼女はうなずいた。
「確かにね。やっぱそういう所変わんないね、男の方もだけど。ていうか紗良は中学の時から何も変わんないな」
「…そう?」
ぶっちゃけカチンと来ているが、お酒が入ってるから目を瞑ることにする。酔っ払いの言うことに耳を傾けてはいけないとは思うが、聞き捨てならないことを容赦なく言われて眉間にシワが寄りかけているのがわかった。
「紗良ってぶっちゃけ見た目十人並ってヤツ? ブスまではいかないけど可愛いにも手ェ届かないよね~。だから男に声かけられないんだって」
「そうそう。もっとガッツリメイクしてさ、オシャレに目を向けなって」
「そう…だね」
バカにすんなって言い返せない自分がもどかしい。
コスプレしてる時でさえ他のレイヤーほど濃いメイクができない紗良は、普段はナチュラルメイクしかしない。肌への負担を考えて。
手元のグラスを持ち上げて一口含む。会話に入る気も話題を提供する気もなかった。
気づけば友人たちは男性陣の元におり、自撮りをしながら楽しそうに騒いでいた。
紗良のことは一切視界に入らないらしい。「紗良もおいでよ」の一言もなかった。別に待っているわけではないが。
この人たちには最期のあいさつをする必要はないか。怒りと共にそんなことを思い、紗良は人知れず会場を出た。
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