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「みっつんの一人称は"俺"です。それに"子猫ちゃん"とかベタベタしたこと言わない」
「その…すみませんでした…」
その日の夜。ホテルで紗良は燕尾服の男────死神に向かって説教をしていた。
死神はホテルの出入り口で、いつもの燕尾服ではない若者らしい服を着て紗良のことを待っていた。
「部屋で話したいことがある」と言われ、別にいいがこのは部外者は部屋に入れないホテル。部屋にどうやって入るんだ…と思ったら、ここからベランダまで行くから部屋から呼んでくれと言われた。
その通り、部屋の窓を開けて死神を呼ぶと、彼はつま先で地面にコツコツと叩き、腰を落としてその場を蹴って飛び上がった。
うわっと思った時には彼は紗良の目の前におり、窓の桟に足をかけて枠を持って体を支えていた。
「な゛っ…!?」
「…ふぅ。5階だとギリギリですね…」
彼は華麗に額を拭ってみせた。そのまま部屋の中に入って彼女の手を取ってひざまずいた。
「しばらくぶりですね、紗良さん」
「…どうも。さすが人間じゃないですね…」
「もちろん。紗良さんは相変わらずお綺麗で」
死神は紗良の手に冷たい唇を押し当てた。
「ちょ…死神さん?」
「あれ? さっきより反応薄いですね? あなたははやっぱり相田光守一筋ですね」
死神は残念そうなほほえみを浮かべながら立ち上がり、改めてお辞儀をした。
嫌な予感がして紗良は怪訝な顔をした。
「さっき?」
「えぇ、さっきです。さっきは戎橋であんなにデレデレされていたのに────」
「はぁ!? さっきのみっつんじゃなくて死神さんだったの!?」
「はい、実は。紗良さんが旅をされてることを知って、それに花を添えられたらと思いまして。ちなみにスタッフらしき者は皆部下です。人間は入って来られないように、ちょっとした人払いの魔術をかけましたよ。紗良さんと私の逢瀬を邪魔されないように」
「なんだ…」
あれだけはしゃいだ自分がバカだ。ちょっとした恥さらしをした気がする。
床にへたりこむと、死神が膝をついて紗良の頬にふれた。
「申し訳ありません────喜んでもらえたら、と思ったのですが」
「ホントに…騒ぎ損…」
視線を死神からそらす。興味ない男からだったら、こうしてふれられてもときめかない。
何の反応を示さない彼女に、死神は妖しい笑みを浮かべて距離を詰めた。
「せっかくしばらくぶりにお会いできましたし、2人きりですし、今回のお詫びということで…どうです? 私と一晩」
「その調子だと誰にでも言ってそうだな…。でもまぁいいでしょう。あなたと一晩過ごしますか」
死神は笑みを濃くして紗良の腰を引き寄せ、首を傾けて彼女の頬をなでる。
一方の紗良は────
死神の手を払い除け、蔑んだ視線を向けた。
「何してるの。こっちの一晩じゃないよ。相田光守のプレゼンに決まってるでしょ」
「え゛」
その晩、紗良が満足するまで死神は光守がどれだけイケメンでどれだけ音楽の才能があって、どれだけ演技力があるかという話を聞かせた。
そんな感じで九州方面、東北、関東を周り、富橋に戻ってきた。
悔いのないように全ての景色を脳裏に焼き付けて。
1人暮らしの家に戻ってきてからは、私物の整理をした。
お金になるものとならないものに分け、自分が死んだ時にこうしてほしいという、いわゆる遺書を書いた。
コスプレ衣装は手作りだから売れないし、着る人もいないからサッサと捨てようかと思ったが、結局取っておいた。
あと1回はイベントに行こうと思って。
そして紗良に、新たにやりたいことが生まれた。
「その…すみませんでした…」
その日の夜。ホテルで紗良は燕尾服の男────死神に向かって説教をしていた。
死神はホテルの出入り口で、いつもの燕尾服ではない若者らしい服を着て紗良のことを待っていた。
「部屋で話したいことがある」と言われ、別にいいがこのは部外者は部屋に入れないホテル。部屋にどうやって入るんだ…と思ったら、ここからベランダまで行くから部屋から呼んでくれと言われた。
その通り、部屋の窓を開けて死神を呼ぶと、彼はつま先で地面にコツコツと叩き、腰を落としてその場を蹴って飛び上がった。
うわっと思った時には彼は紗良の目の前におり、窓の桟に足をかけて枠を持って体を支えていた。
「な゛っ…!?」
「…ふぅ。5階だとギリギリですね…」
彼は華麗に額を拭ってみせた。そのまま部屋の中に入って彼女の手を取ってひざまずいた。
「しばらくぶりですね、紗良さん」
「…どうも。さすが人間じゃないですね…」
「もちろん。紗良さんは相変わらずお綺麗で」
死神は紗良の手に冷たい唇を押し当てた。
「ちょ…死神さん?」
「あれ? さっきより反応薄いですね? あなたははやっぱり相田光守一筋ですね」
死神は残念そうなほほえみを浮かべながら立ち上がり、改めてお辞儀をした。
嫌な予感がして紗良は怪訝な顔をした。
「さっき?」
「えぇ、さっきです。さっきは戎橋であんなにデレデレされていたのに────」
「はぁ!? さっきのみっつんじゃなくて死神さんだったの!?」
「はい、実は。紗良さんが旅をされてることを知って、それに花を添えられたらと思いまして。ちなみにスタッフらしき者は皆部下です。人間は入って来られないように、ちょっとした人払いの魔術をかけましたよ。紗良さんと私の逢瀬を邪魔されないように」
「なんだ…」
あれだけはしゃいだ自分がバカだ。ちょっとした恥さらしをした気がする。
床にへたりこむと、死神が膝をついて紗良の頬にふれた。
「申し訳ありません────喜んでもらえたら、と思ったのですが」
「ホントに…騒ぎ損…」
視線を死神からそらす。興味ない男からだったら、こうしてふれられてもときめかない。
何の反応を示さない彼女に、死神は妖しい笑みを浮かべて距離を詰めた。
「せっかくしばらくぶりにお会いできましたし、2人きりですし、今回のお詫びということで…どうです? 私と一晩」
「その調子だと誰にでも言ってそうだな…。でもまぁいいでしょう。あなたと一晩過ごしますか」
死神は笑みを濃くして紗良の腰を引き寄せ、首を傾けて彼女の頬をなでる。
一方の紗良は────
死神の手を払い除け、蔑んだ視線を向けた。
「何してるの。こっちの一晩じゃないよ。相田光守のプレゼンに決まってるでしょ」
「え゛」
その晩、紗良が満足するまで死神は光守がどれだけイケメンでどれだけ音楽の才能があって、どれだけ演技力があるかという話を聞かせた。
そんな感じで九州方面、東北、関東を周り、富橋に戻ってきた。
悔いのないように全ての景色を脳裏に焼き付けて。
1人暮らしの家に戻ってきてからは、私物の整理をした。
お金になるものとならないものに分け、自分が死んだ時にこうしてほしいという、いわゆる遺書を書いた。
コスプレ衣装は手作りだから売れないし、着る人もいないからサッサと捨てようかと思ったが、結局取っておいた。
あと1回はイベントに行こうと思って。
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