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次の日は朝から朴葉味噌の朝食を取った。
素泊まりのプランだが、料金をプラスすれば朝食を取ることができるということで、たまには…と。
食べ終わった後にまた自転車を借り、すぐ戻るとフロントに告げて高山陣屋へ走った。
高山陣屋の前で朝市が行われており、ジュースを買って飲んだ。
朝一のためか人が少ない。大荷物の人が多いから観光客だろうか。自分もだが。
入り口で、ホテルでもらった割引の冊子を使って料金を割引してもらった。
中に入ると掃除をしているおばちゃんがいた。やっぱりまだ早い時間らしい。
こういった施設はサーッと早歩きで見て回った方がいい…とテレビで見たことがある。
名残り惜しい気がしたが、高山陣屋を出てホテルに向かった。
約4時間後、紗良は大阪の道頓堀に来ていた。実は運命と別れた後、ふと大阪に行こうと思ったのだ。ホテルの予約もしてある。
大阪へは光守のコンサートで行ったことがある。
正直、ここへ来て戸惑ったのは独特なルールだ。
列は人ひとり入れる隙間があると並んでいないと思われ、列の向きや前の人との間隔に よっては「並んでます?」と聞かれ、エスカレーターに乗る時はキッチリ左に寄らなければいけない。
そこは「郷に入っては郷に従え」方式で慣らした。
「うわ~…」
普段、田舎に住んでいる紗良にとって大阪は大都会だ。自然と上を見上げてしまう。
この前来た時は祝日だったが、平日である今日は人が少なめで歩きやすい。それでもやっぱり、観光客らしき人がいる。ほとんどがキャリーバッグを重そうに引いていた。
紗良はキャリーバッグを駅のコインロッカーに預けてきた。以前来た時にキャリーバッグを引いていたら、路面がガタガタで腕が筋肉痛になったのだ。
ベタだがたこ焼きを食べ、道頓堀を練り歩く。
地元から近い名古屋の大須の商店街に来たような気分になる。
地図アプリを起動させることなく歩き着いたのは戎橋。有名なグ○コの看板────道頓堀グ○コサインが見える橋だ。
よく人が集まっている所をテレビで見るがこの日は、不気味なくらい人がいなかった。ここだけ通行止めされているように。
(たまには自撮りでもするかな…)
いつもだったらコスプレイベントでコスした状態でないと自撮りしないのだが、この日は珍しくスマホを内カメラにして構えた。
なかなか盛れる角度が分からずにスマホを上下させていると、画面に他の人が入った。
あ、と思った時にはぶつかってしまい、焦って振り返った。
「ごめんなさ────」
「いいえ。撮ってあげようか?」
「へっ!?」
その声に聴覚が機敏に反応した。
紗良が誰よりも好きでしょうがない声────
「みっつん!? なんで!?」
「はは。おとなしそうなのに意外と騒やかなコだね」
自分でも驚くほど素っ頓狂な声が出た。
みっつん────相田光守。いつもテレビ越し、遠くからしか見ることしかできない、紗良が好きな歌手。
毛先を遊ばせた黒髪に色の薄いサングラス。
身長は紗良が見上げるほど高い。公式サイトのプロフィールには180、と書いてあった。
ふと、周りを見るとカメラマンや音声らしき人がいる。何かのロケらしい。
改めて彼の顔を見て、間近で見る感動に再び浸る。
彼は紗良のことを見下ろして爽やかな笑みを浮かべた。
「今ロケやっててさ、子猫ちゃんが1人でいたから声かけちゃった」
「えー!? 子猫とかガラじゃないけど…大阪来てよかった!」
「僕もだよ」
…。
言葉にならない違和感を感じたが、彼を前にしてムダなことを言う余裕はない。早くしないと彼がいなくなってしまう気がした。
「あの…めちゃくちゃ好きです。クリスマスのライブ行きました…。舞台も毎年行ってます。実は裁縫が好きでみっ…光守さんの衣装作ったりしてます」
こんな時に何言ってんだということばかり並べてる。おまけにオタク特有の興奮した時の早口で。苦笑いを返されるかなと思ったが、光守は本気で感心した表情を浮かべた。
「へぇ~! 服作れるの? すごいな~…嬉しいよ、ありがとう」
光守は紗良の目の前でほほえみ、彼女の頭をなでた。
「こんな可愛いコがファンって嬉しいよ。なんなら僕の衣装を専属で作ってほしいくらいだよ」
「ふぇぇ…」
崩れ落ちそうになる紗良は光守に支えられ、ますますとろける。
(もう、今死んでもいい…。お世辞でも可愛いって…みっつんからさわられた…)
素泊まりのプランだが、料金をプラスすれば朝食を取ることができるということで、たまには…と。
食べ終わった後にまた自転車を借り、すぐ戻るとフロントに告げて高山陣屋へ走った。
高山陣屋の前で朝市が行われており、ジュースを買って飲んだ。
朝一のためか人が少ない。大荷物の人が多いから観光客だろうか。自分もだが。
入り口で、ホテルでもらった割引の冊子を使って料金を割引してもらった。
中に入ると掃除をしているおばちゃんがいた。やっぱりまだ早い時間らしい。
こういった施設はサーッと早歩きで見て回った方がいい…とテレビで見たことがある。
名残り惜しい気がしたが、高山陣屋を出てホテルに向かった。
約4時間後、紗良は大阪の道頓堀に来ていた。実は運命と別れた後、ふと大阪に行こうと思ったのだ。ホテルの予約もしてある。
大阪へは光守のコンサートで行ったことがある。
正直、ここへ来て戸惑ったのは独特なルールだ。
列は人ひとり入れる隙間があると並んでいないと思われ、列の向きや前の人との間隔に よっては「並んでます?」と聞かれ、エスカレーターに乗る時はキッチリ左に寄らなければいけない。
そこは「郷に入っては郷に従え」方式で慣らした。
「うわ~…」
普段、田舎に住んでいる紗良にとって大阪は大都会だ。自然と上を見上げてしまう。
この前来た時は祝日だったが、平日である今日は人が少なめで歩きやすい。それでもやっぱり、観光客らしき人がいる。ほとんどがキャリーバッグを重そうに引いていた。
紗良はキャリーバッグを駅のコインロッカーに預けてきた。以前来た時にキャリーバッグを引いていたら、路面がガタガタで腕が筋肉痛になったのだ。
ベタだがたこ焼きを食べ、道頓堀を練り歩く。
地元から近い名古屋の大須の商店街に来たような気分になる。
地図アプリを起動させることなく歩き着いたのは戎橋。有名なグ○コの看板────道頓堀グ○コサインが見える橋だ。
よく人が集まっている所をテレビで見るがこの日は、不気味なくらい人がいなかった。ここだけ通行止めされているように。
(たまには自撮りでもするかな…)
いつもだったらコスプレイベントでコスした状態でないと自撮りしないのだが、この日は珍しくスマホを内カメラにして構えた。
なかなか盛れる角度が分からずにスマホを上下させていると、画面に他の人が入った。
あ、と思った時にはぶつかってしまい、焦って振り返った。
「ごめんなさ────」
「いいえ。撮ってあげようか?」
「へっ!?」
その声に聴覚が機敏に反応した。
紗良が誰よりも好きでしょうがない声────
「みっつん!? なんで!?」
「はは。おとなしそうなのに意外と騒やかなコだね」
自分でも驚くほど素っ頓狂な声が出た。
みっつん────相田光守。いつもテレビ越し、遠くからしか見ることしかできない、紗良が好きな歌手。
毛先を遊ばせた黒髪に色の薄いサングラス。
身長は紗良が見上げるほど高い。公式サイトのプロフィールには180、と書いてあった。
ふと、周りを見るとカメラマンや音声らしき人がいる。何かのロケらしい。
改めて彼の顔を見て、間近で見る感動に再び浸る。
彼は紗良のことを見下ろして爽やかな笑みを浮かべた。
「今ロケやっててさ、子猫ちゃんが1人でいたから声かけちゃった」
「えー!? 子猫とかガラじゃないけど…大阪来てよかった!」
「僕もだよ」
…。
言葉にならない違和感を感じたが、彼を前にしてムダなことを言う余裕はない。早くしないと彼がいなくなってしまう気がした。
「あの…めちゃくちゃ好きです。クリスマスのライブ行きました…。舞台も毎年行ってます。実は裁縫が好きでみっ…光守さんの衣装作ったりしてます」
こんな時に何言ってんだということばかり並べてる。おまけにオタク特有の興奮した時の早口で。苦笑いを返されるかなと思ったが、光守は本気で感心した表情を浮かべた。
「へぇ~! 服作れるの? すごいな~…嬉しいよ、ありがとう」
光守は紗良の目の前でほほえみ、彼女の頭をなでた。
「こんな可愛いコがファンって嬉しいよ。なんなら僕の衣装を専属で作ってほしいくらいだよ」
「ふぇぇ…」
崩れ落ちそうになる紗良は光守に支えられ、ますますとろける。
(もう、今死んでもいい…。お世辞でも可愛いって…みっつんからさわられた…)
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