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3時間後、高山駅に到着した。
「さ…寒…」
駅から出ての第一声。身が震え、思わず体を抱く。
おまけに雪がうっすらと積もっている。
そういえば特急の中からちょっと雪を見たことをやっと思い出す。
それにこの時期になるとよく、駅の階段の上に冬の岐阜度のポスターが貼られている。雪景色の中のヤツを。
暖かい特急の中では外していたマフラーと手袋を付け、キャリーバッグをゴロゴロと引いた。
(これだと帰りは早いかな…。夜の冷え込みハンパなさそう…)
顔に当たる風がいつもより冷たく感じる。
高山に着いてそのままホテルにチェックインした。
どういう運命か、そこは一昨年も泊まったホテルだった。おかげで地図アプリを起動させることなく行くことができた。
ガラスの扉を押し開けると暖かさに包まれた。
「すいません、じ○らんで予約した柴山です」
「はーい柴山さんですね~」
フロントで名乗ると、受付の女性に部屋名が書かれたプレートのついた鍵を渡された。
「お部屋は5階になります。ちなみに観光ですか? お仕事ですか?」
「観光です」
「良かったらこちら使って下さい。観光マップとこの辺りの施設で使える割引券の冊子です」
渡されたのは以前にももらったことのある地図と冊子。デザインは少し変わったようだ。
「ありがとうございます。こういうのいいですよね。温かみがあって」
「ありがとうございます~。若い人に言われると嬉しいですね~」
女性は照れたように笑う。
同じ中部地方でも発音が微妙に違う。
旅行に来て楽しいことの1つは、その地元の方言が聞けることだ。
そこでスマホの充電器を借りることもでき、モバイルバッテリーを買わずに済んだ。
その後、雪が溶けた頃にホテルで自転車を借りて高山の町を走った。泊まったホテルのいい所の1つは自転車も借りられること。
前回も借りたのだが、戻ってくる時間が早かったから料金を割引してくれた。
「いいんだよ。これで金稼ぎたいわけじゃないからね~」と、快く言ってくれた。
ちょっと日が差して来て、寒さが和らいできた。
高山陣屋へ向かうゆるい坂を自転車でサーッと駆け下りる。
さっきまで頬を切られるように感じた冷たい風が、自転車で走って温まった体には心地よい。
(今日は三町をフラフラして…鍛治橋で飛騨牛食べて…夕方になったら高山ラーメン食べよ。早く行かないと店閉まっちゃう所多かったよね…)
高山陣屋はまた明日の朝、と決めて通り過ぎながら朱色の橋────中橋を走る。よく朝の天気予報で見る橋だ。
前回来た時おみやげは晩御飯の後に買おうと思って三町へ行ったら、店は全て閉まっておりオレンジの灯りに出迎えられたのだ。
(今回はおみやげ買わないけどね…。虚しいだけだし)
旅の思い出作りはしないことにしていた。いつもイベントでも旅行でも使うカメラを、持ってくることもしなかった。
いつもはカメラ越しに覗く景色。これは偶然ネットの記事で読んだことだが、カメラで撮ってばっかいるものは自分の記憶には残りにくいらしい。
そんな寂しいことは嫌なので今回は、旅先の景色は目に焼き付けようと────ゆっくり眺めることに決めていた。
「さ…寒…」
駅から出ての第一声。身が震え、思わず体を抱く。
おまけに雪がうっすらと積もっている。
そういえば特急の中からちょっと雪を見たことをやっと思い出す。
それにこの時期になるとよく、駅の階段の上に冬の岐阜度のポスターが貼られている。雪景色の中のヤツを。
暖かい特急の中では外していたマフラーと手袋を付け、キャリーバッグをゴロゴロと引いた。
(これだと帰りは早いかな…。夜の冷え込みハンパなさそう…)
顔に当たる風がいつもより冷たく感じる。
高山に着いてそのままホテルにチェックインした。
どういう運命か、そこは一昨年も泊まったホテルだった。おかげで地図アプリを起動させることなく行くことができた。
ガラスの扉を押し開けると暖かさに包まれた。
「すいません、じ○らんで予約した柴山です」
「はーい柴山さんですね~」
フロントで名乗ると、受付の女性に部屋名が書かれたプレートのついた鍵を渡された。
「お部屋は5階になります。ちなみに観光ですか? お仕事ですか?」
「観光です」
「良かったらこちら使って下さい。観光マップとこの辺りの施設で使える割引券の冊子です」
渡されたのは以前にももらったことのある地図と冊子。デザインは少し変わったようだ。
「ありがとうございます。こういうのいいですよね。温かみがあって」
「ありがとうございます~。若い人に言われると嬉しいですね~」
女性は照れたように笑う。
同じ中部地方でも発音が微妙に違う。
旅行に来て楽しいことの1つは、その地元の方言が聞けることだ。
そこでスマホの充電器を借りることもでき、モバイルバッテリーを買わずに済んだ。
その後、雪が溶けた頃にホテルで自転車を借りて高山の町を走った。泊まったホテルのいい所の1つは自転車も借りられること。
前回も借りたのだが、戻ってくる時間が早かったから料金を割引してくれた。
「いいんだよ。これで金稼ぎたいわけじゃないからね~」と、快く言ってくれた。
ちょっと日が差して来て、寒さが和らいできた。
高山陣屋へ向かうゆるい坂を自転車でサーッと駆け下りる。
さっきまで頬を切られるように感じた冷たい風が、自転車で走って温まった体には心地よい。
(今日は三町をフラフラして…鍛治橋で飛騨牛食べて…夕方になったら高山ラーメン食べよ。早く行かないと店閉まっちゃう所多かったよね…)
高山陣屋はまた明日の朝、と決めて通り過ぎながら朱色の橋────中橋を走る。よく朝の天気予報で見る橋だ。
前回来た時おみやげは晩御飯の後に買おうと思って三町へ行ったら、店は全て閉まっておりオレンジの灯りに出迎えられたのだ。
(今回はおみやげ買わないけどね…。虚しいだけだし)
旅の思い出作りはしないことにしていた。いつもイベントでも旅行でも使うカメラを、持ってくることもしなかった。
いつもはカメラ越しに覗く景色。これは偶然ネットの記事で読んだことだが、カメラで撮ってばっかいるものは自分の記憶には残りにくいらしい。
そんな寂しいことは嫌なので今回は、旅先の景色は目に焼き付けようと────ゆっくり眺めることに決めていた。
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