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紗良はバスに乗って富橋駅へ行き、新幹線に乗って名古屋で降り、特急ひだに乗り換えた。
富橋から名古屋ならいつもだったら在来線で行くが、せっかくだから贅沢をしようと新幹線を選んだ。その中で慌ててホテルの予約をする。
現地に着くのは昼過ぎになるだろうから、キャリーを引いてホームでお弁当を買った。名古屋ならではの味噌カツ弁当だ。
実は岐阜の高山は一昨年にも行った。
唐突に紅葉が見たい、飛騨牛が食べたいと思って選んだのが高山だった。その時も今回と同じ、1人で。
(友だちがいないわけじゃないけど…1人が好きだわ。気楽だし、何しても文句言われないし)
正直な話、幼い頃から1人でいることが多い。仲良く話せる人はいくらでもいたが、ずっと一緒にいるような人はいなかった。
だから旅行に行く時、電車内でトイレに行く時は乗車人数が少なくても荷物を持って行くし、眠くなっても絶対に寝ない。
特急ひだで岐阜駅に着き、犬山城を遠目に見て岐阜に入り、日本ラインと呼ばれる渓谷の景色が広がった。
右側の座席にいた紗良は、二度目ではあるが久しぶりの景色に目を見開いた。
周りの────おじいちゃんおばあちゃんと言っていい乗客たちも、声を上げて見入っていた。ご近所仲間だろうか、楽しそうなご一行だ。
思わずその様子にほほえみ、机を出して弁当を広げた。もう昼時だ。
味噌カツ弁当を食べながら景色を眺め、スマホを取り出してハッとした。
「充電器…!」
声が出るほど悔しい忘れ物。いつもだったら忘れないのに。それだけで気分が沈んでしまう。
仕方ないから現地に着いたらモバイルバッテリーを買おうと決めた。
昼ごはんが終わってウォー○マンを取り出し、音楽を聞きながらまた景色を眺める。同じ川が続いているが、場所によって違う景色に見えるから飽きない。
気づくと曲が、失恋ソングゾーンに入っている。どうりでさっきから切ない気持ちになるわけだ。傷心旅行に来た気分になる。
紗良のウォー○マンの中は光守の曲からアニソン、オペラ、洋楽とジャンルがバラバラだ。
でもやっぱり光守の曲が多く占めている。
彼はもちろん作詞をするが、時々著名な作詞家や作曲家、芸能人から提供された曲を歌うこともある。
彼の独特な、一癖ある歌い方に惹かれる人は多い。
光守の書く歌詞には歌声と同じく独特な世界感があり、「いつか自分が書いた歌詞が映画とか小説になったら」とラジオにゲストとして出た時のコメントが叶い、今では自身が主演を務める舞台が毎年行われている。
紗良は光守のファンクラブに社会人になったと同時に入会し、ライブや舞台に応募しては名古屋や大阪、東京へ行っている。
曲が変わり、光守作詞の切なさを匂わせつつ実はハッピーエンドのラブソングになった。
『永遠に好きって言っても
信じてもらえないかもしれない
僕の言葉は信じられないって
君は涙を流す
また泣かせちゃったね
恋人のくせにかっこいいことを
なんにもしてあげられないね
それでもいいからと
君は僕を抱きしめた
ただ一緒にいてくれるだけでいい
かっこつけの言葉はほしくない
ただ黙ってそばにいてと────』
なんとなく、好きだった先輩に重なった。別に付き合ってたわけじゃないが、あの人の言葉が信じられない所だけが似ている。
恋をしたのは────恋と呼べるのは────誰のことだったかもう分からない。
光守のことは確かに好きだが、それはあくまでファンとして。
あの先輩はなんとなく想いが断ち切れなかっただけで恋とは呼べない。
(恋なんてしても報われないなら、この…恋心? 恋をする心? もっと他のことに変えられたらいいのに────)
紗良はふぅ、と息を吐いてスマホに伸ばした手を引っ込めた。
富橋から名古屋ならいつもだったら在来線で行くが、せっかくだから贅沢をしようと新幹線を選んだ。その中で慌ててホテルの予約をする。
現地に着くのは昼過ぎになるだろうから、キャリーを引いてホームでお弁当を買った。名古屋ならではの味噌カツ弁当だ。
実は岐阜の高山は一昨年にも行った。
唐突に紅葉が見たい、飛騨牛が食べたいと思って選んだのが高山だった。その時も今回と同じ、1人で。
(友だちがいないわけじゃないけど…1人が好きだわ。気楽だし、何しても文句言われないし)
正直な話、幼い頃から1人でいることが多い。仲良く話せる人はいくらでもいたが、ずっと一緒にいるような人はいなかった。
だから旅行に行く時、電車内でトイレに行く時は乗車人数が少なくても荷物を持って行くし、眠くなっても絶対に寝ない。
特急ひだで岐阜駅に着き、犬山城を遠目に見て岐阜に入り、日本ラインと呼ばれる渓谷の景色が広がった。
右側の座席にいた紗良は、二度目ではあるが久しぶりの景色に目を見開いた。
周りの────おじいちゃんおばあちゃんと言っていい乗客たちも、声を上げて見入っていた。ご近所仲間だろうか、楽しそうなご一行だ。
思わずその様子にほほえみ、机を出して弁当を広げた。もう昼時だ。
味噌カツ弁当を食べながら景色を眺め、スマホを取り出してハッとした。
「充電器…!」
声が出るほど悔しい忘れ物。いつもだったら忘れないのに。それだけで気分が沈んでしまう。
仕方ないから現地に着いたらモバイルバッテリーを買おうと決めた。
昼ごはんが終わってウォー○マンを取り出し、音楽を聞きながらまた景色を眺める。同じ川が続いているが、場所によって違う景色に見えるから飽きない。
気づくと曲が、失恋ソングゾーンに入っている。どうりでさっきから切ない気持ちになるわけだ。傷心旅行に来た気分になる。
紗良のウォー○マンの中は光守の曲からアニソン、オペラ、洋楽とジャンルがバラバラだ。
でもやっぱり光守の曲が多く占めている。
彼はもちろん作詞をするが、時々著名な作詞家や作曲家、芸能人から提供された曲を歌うこともある。
彼の独特な、一癖ある歌い方に惹かれる人は多い。
光守の書く歌詞には歌声と同じく独特な世界感があり、「いつか自分が書いた歌詞が映画とか小説になったら」とラジオにゲストとして出た時のコメントが叶い、今では自身が主演を務める舞台が毎年行われている。
紗良は光守のファンクラブに社会人になったと同時に入会し、ライブや舞台に応募しては名古屋や大阪、東京へ行っている。
曲が変わり、光守作詞の切なさを匂わせつつ実はハッピーエンドのラブソングになった。
『永遠に好きって言っても
信じてもらえないかもしれない
僕の言葉は信じられないって
君は涙を流す
また泣かせちゃったね
恋人のくせにかっこいいことを
なんにもしてあげられないね
それでもいいからと
君は僕を抱きしめた
ただ一緒にいてくれるだけでいい
かっこつけの言葉はほしくない
ただ黙ってそばにいてと────』
なんとなく、好きだった先輩に重なった。別に付き合ってたわけじゃないが、あの人の言葉が信じられない所だけが似ている。
恋をしたのは────恋と呼べるのは────誰のことだったかもう分からない。
光守のことは確かに好きだが、それはあくまでファンとして。
あの先輩はなんとなく想いが断ち切れなかっただけで恋とは呼べない。
(恋なんてしても報われないなら、この…恋心? 恋をする心? もっと他のことに変えられたらいいのに────)
紗良はふぅ、と息を吐いてスマホに伸ばした手を引っ込めた。
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