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3章
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コンコン。
話に夢中になっていたら、突然ドアをノックする音が響いた。
「嵐、いってらっしゃい」
「あたしが行くの? しょうがないな…」
嵐は仕方なく立ち上がって部屋の出入り口に向かう。
彼女が開けて現れたのは、麓の見知らぬ精霊。
「やっほー嵐」
「先輩! どうしたんですか?」
「ちょいと部活の連絡で来たんだ。お邪魔するよ~」
「友だちいますけどどうぞ」
「悪いね急に。…おっと、これはこれは。風紀委員のお姫様じゃん」
「え…違います…」
誰かと同じ呼び方だ…と麓はげんなりする。そこで嵐は先輩のことを麓に紹介した。
「この人は陸上部のキャプテンを務めてる雛さん。入学した時からお世話になってるんだ」
「よろしく。ちなみに12年生です。露とはもう知り合いだもんね」
「はい」
雛は露の隣に腰を下ろした。
麓が風紀委員以外で初めて話した先輩。
雛は名前の通り、鳥の精霊だ。雛なんて可愛い名前、自分には似合わないんだけどな、というのが彼女の口癖。
「先輩、部活の連絡ってなんですか?」
「んーとね。今はテスト週間で部活は休止中だけどそのうち再開するでしょ? でも梅雨に入って雨が多いだろうからバスケ部とバドミントン部に交渉して、体育館を貸してもらう日を約束したんだ」
「あぁ~なるほど。毎年恒例ですもんね、屋内陸上部」
「でしょ? だから早めに連絡しようと思って。先生にプリントを作ってもらって今配ってんだ」
雛はポケットから、おりたたんだプリントを取り出して嵐に渡した。
彼女は間近で見る麓のことを珍しがってこんな話を始めた。
「私の知り合いにけっこう年上の人がいるんだけどたまに凪さんの話をチラッと聞くんだよ。麓を見てなんとなく思い出してさ、それを」
「どんな話なんですか?」
「昔は今よりサボり魔で不真面目だったみたいで、女子なんて滅多に寄って来なかったらしいよ。だから風紀委員に女子を入れるなんてあの人も丸くなったのかな~って」
「へ~…」
自分が知らない昔の凪。意外というかしっくり来るというか。
「麓すごい」
「それだけ気に入られてんだね」
「え?」
「風紀委員に麓が入ってること。でもなんで麓は誘われたの?」
それは────。
答えると長くなってしまうかもしれない、と腕時計に目をやると時刻は6時半近く。寮ではそろそろ夕食が始まる時間だ。
「ごめんなさい。私、これで帰るね。寮長さんと約束してきたんだ」
「そうなの? 分かった。今日はホントにありがと!」
「気をつけて帰って」
それぞれ見送られ、寮の出入り口まで送ると申し出た雛と共に部屋を出た。
知らない精霊相手だと萎縮してしまう麓だが、嵐と露がいたこともあって雛とはもう、打ち解けていた。まだ知り合って短時間だが、雛は噂好きで年上の先輩から昔のことをよく知っている。
前々から気になっていた凪と彰の因縁。それは風紀委員の間ではタブーの話題。
今この瞬間しかチャンスはないかもしれない。麓は思い切って口を開いた。
「あの、雛さんは…凪さんと彰さんが因縁の仲の原因を知ってますか?」
おそるおそるといった様子で聞くと、意外にも雛はあっさりとうなずいた。
どうやらあのことに神経質なのは風紀委員だけらしい。
「以前、彰さんに聞いたら睨まれちゃいまして」
「だろうね。凪さんは激怒かも」
快活に笑う雛を見て、果たして本当に聞いていいものか。本人たちから直接聞くべきか迷いが生じてきた。
コソコソとするのはどうかと思うが、本人たちは絶対に教えてくれない。だったら今、彼女に聞くしかない。
「教えて下さい。過去に、2人の間に何があったのか」
麓の口はしっかりとそう動いた。
あの時聞かなければ良かった。
余計な気を起こさなければ良かった。
後々、そう後悔することを知らずに────
話に夢中になっていたら、突然ドアをノックする音が響いた。
「嵐、いってらっしゃい」
「あたしが行くの? しょうがないな…」
嵐は仕方なく立ち上がって部屋の出入り口に向かう。
彼女が開けて現れたのは、麓の見知らぬ精霊。
「やっほー嵐」
「先輩! どうしたんですか?」
「ちょいと部活の連絡で来たんだ。お邪魔するよ~」
「友だちいますけどどうぞ」
「悪いね急に。…おっと、これはこれは。風紀委員のお姫様じゃん」
「え…違います…」
誰かと同じ呼び方だ…と麓はげんなりする。そこで嵐は先輩のことを麓に紹介した。
「この人は陸上部のキャプテンを務めてる雛さん。入学した時からお世話になってるんだ」
「よろしく。ちなみに12年生です。露とはもう知り合いだもんね」
「はい」
雛は露の隣に腰を下ろした。
麓が風紀委員以外で初めて話した先輩。
雛は名前の通り、鳥の精霊だ。雛なんて可愛い名前、自分には似合わないんだけどな、というのが彼女の口癖。
「先輩、部活の連絡ってなんですか?」
「んーとね。今はテスト週間で部活は休止中だけどそのうち再開するでしょ? でも梅雨に入って雨が多いだろうからバスケ部とバドミントン部に交渉して、体育館を貸してもらう日を約束したんだ」
「あぁ~なるほど。毎年恒例ですもんね、屋内陸上部」
「でしょ? だから早めに連絡しようと思って。先生にプリントを作ってもらって今配ってんだ」
雛はポケットから、おりたたんだプリントを取り出して嵐に渡した。
彼女は間近で見る麓のことを珍しがってこんな話を始めた。
「私の知り合いにけっこう年上の人がいるんだけどたまに凪さんの話をチラッと聞くんだよ。麓を見てなんとなく思い出してさ、それを」
「どんな話なんですか?」
「昔は今よりサボり魔で不真面目だったみたいで、女子なんて滅多に寄って来なかったらしいよ。だから風紀委員に女子を入れるなんてあの人も丸くなったのかな~って」
「へ~…」
自分が知らない昔の凪。意外というかしっくり来るというか。
「麓すごい」
「それだけ気に入られてんだね」
「え?」
「風紀委員に麓が入ってること。でもなんで麓は誘われたの?」
それは────。
答えると長くなってしまうかもしれない、と腕時計に目をやると時刻は6時半近く。寮ではそろそろ夕食が始まる時間だ。
「ごめんなさい。私、これで帰るね。寮長さんと約束してきたんだ」
「そうなの? 分かった。今日はホントにありがと!」
「気をつけて帰って」
それぞれ見送られ、寮の出入り口まで送ると申し出た雛と共に部屋を出た。
知らない精霊相手だと萎縮してしまう麓だが、嵐と露がいたこともあって雛とはもう、打ち解けていた。まだ知り合って短時間だが、雛は噂好きで年上の先輩から昔のことをよく知っている。
前々から気になっていた凪と彰の因縁。それは風紀委員の間ではタブーの話題。
今この瞬間しかチャンスはないかもしれない。麓は思い切って口を開いた。
「あの、雛さんは…凪さんと彰さんが因縁の仲の原因を知ってますか?」
おそるおそるといった様子で聞くと、意外にも雛はあっさりとうなずいた。
どうやらあのことに神経質なのは風紀委員だけらしい。
「以前、彰さんに聞いたら睨まれちゃいまして」
「だろうね。凪さんは激怒かも」
快活に笑う雛を見て、果たして本当に聞いていいものか。本人たちから直接聞くべきか迷いが生じてきた。
コソコソとするのはどうかと思うが、本人たちは絶対に教えてくれない。だったら今、彼女に聞くしかない。
「教えて下さい。過去に、2人の間に何があったのか」
麓の口はしっかりとそう動いた。
あの時聞かなければ良かった。
余計な気を起こさなければ良かった。
後々、そう後悔することを知らずに────
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