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終章
それぞれが、それぞれの場所で
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「行ってしまいましたね…」
寮長がつぶやいた。その目は遠くを見つめている。麓はうつむき、あることの計画を立て始めていた。
「麓様。しばらくの間は2人ですが、いつも通り過ごしましょう。私たちは地上で、あの方たちは”天”で」
「はい」
麓は小さな握りこぶしを作ってうなずいた。
これでもう、彼らについていくことはできない。麓は寮長と風紀委員寮で留守番だ。
麓はその間にあることを決めている。それは、零に結晶を奪われた内の1人、震の妹的存在である竹に会いに行くこと。結晶化された精霊たちのことをもっと知りたい。
そして7人がそろって無事に帰ってくるのを待っていよう。彼らが帰ってきたらまずは、凪と話したい。今までのことを謝って、麓は空を見上げた。彼らが向かった先から雪がちらついてきた。
凪が”天”に来るのは久しぶりだった。
白を基調とした和風な造りの”天”の精霊が暮らす建物。和風かつ、威厳さが感じられる。
「うぉぉ…すっげー…」
「これが”天”か…ひれ伏したくなってくるよ」
扇と霞は年長者であるにも関わらず、辺りをきょろきょろと見回している。ここの住人でもある蒼が声を上げた。
「皆さんいいですか。しばらくはここで過ごしてもらいます。それぞれ1人部屋を用意してあります。最低限そろえてありますが言ってもらえれば他の日用品も用意します」
「やったね! さすがは”天”!」
「おいおい光…遊びに来てるんじゃないんだぞ」
焔は光をたしなめた。
ここへ訪れたことのある3人は、固まって話していた。
「凪さん」
「なんだ」
「なんで天災地変に乗り込もうとしたんですか? 他に手はあったでしょう」
「は? 何を今さら。言っただろ、アイツら潰すチャンスだって」
「僕が聞きたいのはそういうことじゃありません」
「なんだそれ…意味分かんねェ」
凪が首をかしげると、蒼がムッとした表情になった。
「もういいです。単刀直入に聞いてやります。組織の粛正だけが目的じゃないんでしょ」
「…あぁ。結晶化された精霊も取り戻すんだよ」
「それはやっぱり…好きだからですか?」
「あのなぁ…アイツの元カレの前で言うことじゃねェだろ」
凪は横目で彰のことを見やった。
雷────。彼女は凪のかつての幼なじみ。
しかし彼女は彰に惹かれた。歳下が好みだったのかと、何度ヤキモチを妬いたことか。
そして消えてしまった。零に結晶化されて。
「俺は今、アイツのことは────」
凪は頭の中で、様々な想いを交錯させていた。
麓たち3年生のクラスは、不在となった霞のピンチヒッターとして臨時の担任が入った。
クラスの女子生徒たちは特に寂しそうにしている。男子生徒も少なからず。
細かい事情はクラスで、だけでなく全生徒の中で麓しか知らないだろう。風紀委員がそろって”天”へ向かったことを。
麓は祈るだけ。
無事に7人が帰ってきて、以前のようににぎやかに過ごせる日がくることを。
降雪や地震が止まることを。
そして────凪に、想いを伝えられるようにと。
fin.
寮長がつぶやいた。その目は遠くを見つめている。麓はうつむき、あることの計画を立て始めていた。
「麓様。しばらくの間は2人ですが、いつも通り過ごしましょう。私たちは地上で、あの方たちは”天”で」
「はい」
麓は小さな握りこぶしを作ってうなずいた。
これでもう、彼らについていくことはできない。麓は寮長と風紀委員寮で留守番だ。
麓はその間にあることを決めている。それは、零に結晶を奪われた内の1人、震の妹的存在である竹に会いに行くこと。結晶化された精霊たちのことをもっと知りたい。
そして7人がそろって無事に帰ってくるのを待っていよう。彼らが帰ってきたらまずは、凪と話したい。今までのことを謝って、麓は空を見上げた。彼らが向かった先から雪がちらついてきた。
凪が”天”に来るのは久しぶりだった。
白を基調とした和風な造りの”天”の精霊が暮らす建物。和風かつ、威厳さが感じられる。
「うぉぉ…すっげー…」
「これが”天”か…ひれ伏したくなってくるよ」
扇と霞は年長者であるにも関わらず、辺りをきょろきょろと見回している。ここの住人でもある蒼が声を上げた。
「皆さんいいですか。しばらくはここで過ごしてもらいます。それぞれ1人部屋を用意してあります。最低限そろえてありますが言ってもらえれば他の日用品も用意します」
「やったね! さすがは”天”!」
「おいおい光…遊びに来てるんじゃないんだぞ」
焔は光をたしなめた。
ここへ訪れたことのある3人は、固まって話していた。
「凪さん」
「なんだ」
「なんで天災地変に乗り込もうとしたんですか? 他に手はあったでしょう」
「は? 何を今さら。言っただろ、アイツら潰すチャンスだって」
「僕が聞きたいのはそういうことじゃありません」
「なんだそれ…意味分かんねェ」
凪が首をかしげると、蒼がムッとした表情になった。
「もういいです。単刀直入に聞いてやります。組織の粛正だけが目的じゃないんでしょ」
「…あぁ。結晶化された精霊も取り戻すんだよ」
「それはやっぱり…好きだからですか?」
「あのなぁ…アイツの元カレの前で言うことじゃねェだろ」
凪は横目で彰のことを見やった。
雷────。彼女は凪のかつての幼なじみ。
しかし彼女は彰に惹かれた。歳下が好みだったのかと、何度ヤキモチを妬いたことか。
そして消えてしまった。零に結晶化されて。
「俺は今、アイツのことは────」
凪は頭の中で、様々な想いを交錯させていた。
麓たち3年生のクラスは、不在となった霞のピンチヒッターとして臨時の担任が入った。
クラスの女子生徒たちは特に寂しそうにしている。男子生徒も少なからず。
細かい事情はクラスで、だけでなく全生徒の中で麓しか知らないだろう。風紀委員がそろって”天”へ向かったことを。
麓は祈るだけ。
無事に7人が帰ってきて、以前のようににぎやかに過ごせる日がくることを。
降雪や地震が止まることを。
そして────凪に、想いを伝えられるようにと。
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