Eternal Dear7

堂宮ツキ乃

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2章

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 今は昔、というには似合わない時代のこと。

 その頃は将軍も侍もいなくなった、文化や考えが入り乱れている時代でした。

 このお話の登場人物は主に3人。

 1人は、高貴な家柄に生まれたお転婆じゃじゃ馬娘。

 2人目は位は高くないものの、誰からも一目置かれる意地っ張りな青年。

 3人目は2人より歳下で、位は高くないが優しい紳士風の青年。

 娘はいつも、貴族としての教養を叩きこまれることに不満を感じていました。

 後から生まれた弟に熱心な教育を施しているものたちの姿も、好きではありませんでした。

 つい最近まで自分にばかり厳しい目を向けていたのに、突然対象が変わったのです。

 自分が嫌な勉強を教え込まれることが少なくなったのはいいのですが、嫉妬と似た感情が生まれました。

 弟は姉である娘よりで出来がよく、次から次へと様々なことを要領よくこなすことができました。

 そのことも娘にとっては正直、妬む原因でした。

 ですが、彼の賢いところも冷静沈着なところもひっくるめて、娘は弟のことを家族として好きだったし、可愛がっていました。

 娘は家の者たちからあまり目を向けられなくなると、次第に外出する機会が増えました。

 決まって会う人物は、近所に住む意地っ張りな青年。

 彼は始めて会った時に、ずっと遠くから引っ越してきた、と話しました。

 素直でなく、優しい言葉を使うことは滅多にありません。

 一応幼なじみである娘も、青年が人に気遣う姿を見たことがありませんでした。

 ですがそれは、彼女からしたらかわいいもの。

 同い年ですがもう1人の弟のようで、幼い頃から青年と姉弟のように育ちました。

 そんなある日。信じられないことが起きたのです────。



「…はぁ~」

「なんだよため息なんて。ガラじゃねェ」

「ま、家のことでね」

 訝し気に眉を上げた青年。

 娘はずっと、誰にも打ち明けなかったことを彼に話しました。

 一度開いた口は、全てを吐き出すまでとじることはありませんでした。

 気が済むまで話し尽くし、娘は眉が下がった笑みを浮かべました。

「こんなモンよね、いい所の家なんて。やっぱり誰でも、出来の者にしか期待したくないのでしょうよ」

 青年は黙ったまま、地面を見つめていました。

 彼が反応に困ったのかと考えた娘は自虐的に、再びため息をつきました。

「今の私は、あの家から必要とされていないということね。悪かったわね、こんな話に付き合わせて」

 娘が青年におざなりに謝ると、彼の唇が動きました。

「俺は…」

「え?」

「俺はお前のことが必要ないなんて思っちゃいねェ」

 それはぶっきらぼうでも、彼女にとってあたたかい言葉でした。

 彼からしたらそれは、精一杯の優しい言葉なのでしょう。悟った彼女はさっきまでの気持ちを忘れて笑い出しました。

「ふふ…ありがとう。あんたからそんなことを言われるなんて思ってみなかったわ」

 すると青年はさっきまでの態度が一変し、急に顔を赤くして抗議しました。

「べっ、別にお前を元気づけるためじゃねェから! なんとなくだかんな!」

「はいはい分かったわよ」

「本当か!?」

 このもう1人の弟を見ていて彼女は元気が出てきました。

 家を出ればこんな世界がある。

 だからあんな狭い鳥籠の中のことなんて気にしなくていいんだ。



 娘にとって心の支えでもある、意地っ張りな青年。

 家族の中で最も親愛のある弟。

 そんな2人にすら打ち明けることができない────打ち明けてはいけないかもしれない力を、娘は持っていました。

 その力とは、よく知っている人物の未来の一部が突如として見えるというもの。

 気づいたのは十数年前。

 娘にとって姉のような存在であった親戚の背中を見てから。

 突然、娘の頭の中に親戚が結婚式を挙げている映像が流れてきたのです。

 彼女は幸せそうに笑い、夫婦の誓いをたてた男性と仲睦まじそうにしていました。

 2人ともよく晴れ着が似合っていて、そろって並んだ姿はまるでひな人形のよう。

 それから数年後のことでした。

 姉が結婚をして遠い地に旅立ってしまったのは。

 家族同士しても仲がよかったので、娘は一家そろって結婚式に招待されました。

 そこでは驚くことに、数年前に見たものが目の前で起きていたのです。

 花婿の顔も、2人の晴れ着姿も仲良さげに話しているところも。

 ちなみにお見合い結婚で、花婿は貿易商の跡取り。人柄のよさがにじみでている朗らかな青年でした。

 娘は祝福で包まれた雰囲気の中で笑っていましたが、内心はゾワゾワとしていました。
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