Eternal Dear7

堂宮ツキ乃

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1章

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 新学期が始まってから早3週間。

 冬期休暇は夏季休暇のように長くなく、ざっと2週間ほど。だから休み癖はついていない。

 麓は小さくあくびをした口を手で覆い、ため息をついた。

 廊下をかすみと歩きながら、外の景色を見やった。

 そこは葉がない木が生えただけの雰囲気が広がっている────と言いたいところだが。

「大雪なんて珍しいね」

「えぇ。真っ白ですね」

 一面、雪に覆われ、雪国と見間違えそうな銀世界が広がっている。

 ここ富橋は、雪がちらつくことはあってもずっしりと積もることは滅多にない。それは麓も霞も経験で知っていた。

「これは毎日雪合戦し放題じゃん。変だなぁ…」

「本当ですよね…あ」

「どうかした? 何か思い出したことでも」

「いえ、大したことではないのですが。天気って精霊が操っているじゃないですか。だったらこのおかしな大雪も意図的に降らしているのでは────」

「意図的に、ねぇ…。これは予報を無視しただけのかわいい悪戯じゃなさそうだ」

 霞があごに手を当てた瞬間、麓は自分の体がフラリと揺れた気がした。

(あれ…めまいかな?)

 頭に片手を当てた時だった。今度は確かな揺れを感じ、左右の窓と教室の引き戸からガタガタという音が響いた。

「麓ちゃん!」

 先を歩いていたはずの霞が振り向き、抱きすくめた。その表情はいつものふざけたものではない。シリアス成分が含まれた、緊張感が走るものだった。

 麓は声を上げることができずに両目をぎゅっと閉じた。覚えているのは近すぎて高く感じる霞の体温。自分のめまいでなく揺れている地面。そして体全体で守られている安心感。

「麓ちゃん?」

 おずおずと声を掛けられ、心配そうにこちらを見つめる霞がいた。いつの間にか廊下の隅で2人そろって、座り込んでしまっていた。どうやら霞は麓を守ろうとしてくれたらしい。

「ありがとうございます。けっこう揺れましたね」

「あぁ。びっくりしたー…」

 霞は麓の手を取って立たせ、息を吐いた。

「いきなりごめん、大げさなことしちゃったよ」

 霞はいつものように頬をゆるめ、窓の外に目をやった。その瞳が映すのは、灰色の雲に覆われた空。

「おかしい…嫌な感じがする…」

 今日の彼はいつもと一味違った。ふざけてないどころか、真面目につぶやいた。



 いつもは麓に関することではおちゃらけている霞が、あんな態度を取ったせいだろうか。あの後は日中に二度も、小さい地震が起きた。

 1人で寝ている間に揺れたら怖い。ということで麓は夕食後に寮長に、同じ部屋で寝てもいいかと頼んだ。

「もちろんよいですよ。確かに怖いですもの」

 彼女は皿を運びながらうなずいた。近くでおうぎが真面目な顔をして麓の手を取った。

「寮長の部屋じゃなくて俺の部屋に来ないか?」

 すぐ隣でほむらが扇の腕を引く。

「何言ってんですかあんたは。すぐそうやってキケンなことを言って」

「何お母さんみたいなことを言ってんだよ。それに”キケン”とかカタカナ変換しているヤツの方がアブナいこと考えてんだろ」

 扇が蔑んだ視線を投げると、焔は髪色のように顔を真っ赤にさせて首をブンブンと振った。

「あるか! 俺はあんたじゃないんですよ!」

「どーだか…」

「扇さんには言われたくない!」

 焔は必死に抗議。手を握られたままの麓は、困惑気味に固まっていた。

「ったく…俺と麓ちゃんの逢瀬の約束を邪魔すんじゃないよ赤髪が。じゃっ、今から行こっか」

「私、”はい”なんて言ってないんですけど…!」

「いいや、心の中で言ったでしょ」

「おい、扇」

 そこで響いた、低く落ち着いた声。それはずっと黙っていた凪の声だった。

 その一言だけでも、麓の胸はっ切なく締め付けられる。実際にそうなったわけではないのに、苦しみを取り除こうとして胸元に手を当てた。

「嫌がってんだからやめとけよ」

 凪はそれだけ言うと立ち上がり、2階へ続く階段を上った。

 しばしの沈黙の後、霞がぽつりとつぶやく。

「…それだけ?」

「変ですね。あの人がたったのあれだけしか注意しないなんて。いつもだったら”教師と生徒の境界線をわきまえろやセクハラ教師!”…とか言うのに」

「ごめんね、麓ちゃん。半分は冗談だよ」

 あまり安心できない言葉だが、扇は手を開放した。麓は凪が消えた方向を悲し気な表情で見つめていた。

 凪は以前にも増して口数が少なくなったように思う。麓自身、彼と口を聞くことが随分減った。
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