Eternal dear6

堂宮ツキ乃

文字の大きさ
上 下
12 / 16
4章

しおりを挟む
「────私は決めてる。次、ヤツに会ったら仕留めてやる。精霊の命は永遠なんて、覆して。零を仕留めて、雫も他の精霊も救う」

 話が終わる頃には零の目は赤く充血し、固く握りしめた拳がかすかに震えている。一度は命を経とうと考えていたが、今は死んでる暇なんてないと決心しているようだった。

 悔しさに耐えているのが、目に見えて分かる。

 寡黙な露が、1年分の言葉を吐き出したような時間だった、同時に、悲しい結末に考えさせられる。

 今まで、天神地祇の身であってもそんなことを考えたことはなかった。本人たちがどんな思いで結晶化されたのか、と。

 それ以前にこんなに詳しく、こういった話は聞いたことがない。

 ”天”の中ではもう1人、結晶化されている。蒼が詳細を知っているかもしれない。今度、聞いてみようと思った。

「零…」

「そう。天災地変のトップ。禍神まがかみの生まれ変わり。雪の精霊で、言霊使い。または厨二の変人」

 天災地変のトップ、零についての外見は初めて聞いた。凪にも教えてもらったことはない。

(…ん? 雪…黒…)

 正反対の組み合わせに心あたりがあるように感じられたのはなぜか。

 黒髪、黒い和服、堅い話し方、凄艶な笑み────。

 麓の中で出会った者の姿が、カードのようにシャッフルされていく。

 精霊の中では珍しい黒髪。まずは身近な彰が思い浮かんだが、彼は和服など着ないタイプだ。もう1人、つらい思い出と共に浮かんだ人が振り払った。きっと関係ないだろうし、思い出すだけで咳き込みそうだ。

 さらにもう1人。

(まさ、か…)

 麓は血の気が引いた気がし、寒気を覚えた。

 もし、本当に予想が当たったら。

「どうかした?」

 露に顔をのぞきこまれ、ハッとした。

「ううん。何も…」

 何もない。そう思いたい。

────まさか自分が、知らない間に…

 敵と呼べる者と関わっているなんて。



「あの、焔さん」

「ん? どーした?」

 その日の夕食後。麓は焔と2人の食堂で、努めて何も無いように切り出した。

 そのおかげで、焔も通りの口調。

「実はずっと気になっていることがあるんですが…。天災地変のトップって、雪系なんですか」

「そうだよ。…そういえば麓には話してなかったっけ? 悪かったな」

「いえ、お気になさらず。…雪系だとやっぱり、その人の体も冷たいのでしょうか?」

 麓の新たな質問に、焔は軽く考えをめぐらせてから、困ったようにほほえんだ。

「ごめん。俺はこれ以上は分からないや…そんなに気になるんだったら、凪さんにでも聞く?」

「大丈夫です。ただの興味ですから」

「そう? じゃあ俺は部屋に戻るわ」

 階段を上っていく彼を見送ると、後ろで声がした。

「ただの興味…にしては存在がデカすぎねェか? 対象が」

「ひぃっ!?」

 不意打ちの凪の声は心臓に悪い。どんな隠し事も深く追求されそうだ。

「いつから…!?」

「今。台所でつまみを漁ってたら、おめーらが話し始めたからよ。いい所を邪魔しちゃ野暮だと思って静かにしてた」

 凪の手には缶チューハイとイカの燻製。

 夏よりは着流しをピシッと着こなしている。それでもどこか涼し気に見えてしまうのは、彼の髪色のせいだろうか。

「いい所なんかじゃないです!」

「あるかもしれねーだろ。おめーだってここに来てもう、1年は経つわけだし。焔だっておめーのこと…ま、いっか」

「私も焔さんも、そんなことは考えてないですよ」

「ふーん…? 残念だったな焔…」

「何か言いましたか?」

「何もねェ」

 凪のボソッとした一言は聞こえなかったが、麓は気にしなかった。

 そんなことより今、凪と2人きりでいることに胸がはちきれそうだった。

 表では何もないように振る舞えるが、心の中では顔を覆いたいほど赤くなっている気がする。

(どうしちゃったんだろ、私…。最初は2人の時に緊張することはあったけど、最近は慣れていたのにな。もっといたい、なんて考えたことないよ)

 麓は張りついた笑顔のまま、右手でひとえの袖をキュッと掴んだ。少しでも心が落ち着くように。

「おいおい。そんなことしたらシワが寄るぞ」

「あっ。ですよね…」

 不自然に思われただろうか。麓は素早く放した。

「あーあ…」

 凪はもったいない、と言いたげな声で麓の手を取る。

「え…えっ?」

「せっかくキレイな和服なんだから、大事に着ねェと」

 世話焼きなことを言って凪は、麓の単の袖を軽くはたいた。

 ありがたいが、自分が子どもじみていて恥ずかしい。

「…ん。これでいいだろ」

「ありがとうございます…」

 熱に浮かされたような表情で礼を言うと、凪は別に、とだけ答えた。素っ気無さが彼らしい。

「あーっと…。実はおめーに用があったんだわ。大事な話」

「大事な話?」

 その響に麓の心臓は、思い出したように高鳴り始める。

「あぁ、えっと。再来週の木曜日、予定空けておいてほしいんだけど」

「再来週の木曜日…? いいですよ」

 ”おやすみ”と凪が階段を上り始めてから、麓は食堂にあるカレンダーをチェックした。

 再来週の木曜日────。それは誰もが楽しみにしている聖なるあの日。

「クリスマス!?」

 しばらくの間、麓はカレンダーの前で固まっていたが、やがてその顔は赤くぼっと染まる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]私はドラゴンの番らしい

シマ
恋愛
私、オリビア15歳。子供頃から魔力が強かったけど、調べたらドラゴンの番だった。 だけど、肝心のドラゴンに会えないので、ドラゴン(未来の旦那様)を探しに行こう!て思ってたのに 貴方達誰ですか?彼女を虐めた?知りませんよ。学園に通ってませんから。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。 辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。 やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。 アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。 風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。 しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。 ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。 ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。 ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。 果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか…… 他サイトでも公開しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACより転載しています。

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

婚約をなかったことにしてみたら…

宵闇 月
恋愛
忘れ物を取りに音楽室に行くと婚約者とその義妹が睦み合ってました。 この婚約をなかったことにしてみましょう。 ※ 更新はかなりゆっくりです。

処理中です...