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3章

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 新幹線から電車に乗り換え空港に向かい、飛行機で札幌へ。そこから電車で移動し、一行は小樽に到着した。

「ほぉ~…」

 初めての北の大地。日がだいぶ傾いたせいかひんやりとした空気が肌をなで、夜叉は思わず身震いをした。

 小樽の運河の上にかかる浅草橋で夜叉たちのクラスがまばらになって写真を撮っている。その周りには外国人観光客がツアーガイドの説明を聞いたり、人力車を止めた俥夫たちがマップを片手に通りかかる人たちに熱心に声をかけている。

 夜叉はそんな人たちを眺めながら両手をこすった。

「やーちゃーん! あっちで写真撮ろ!」

「わっ…彦瀬」

「もう大丈夫? 飛行機に乗ってる間顔真っ青だったけど」

「うん…だいぶ平気…でも今のでまた気持ち悪くなりそう…」

「わーごめんてぇ!」

 彦瀬が頭を何度も下げている前で夜叉は口に手を当てた。

 飛行機に乗ったのは初めてで慣れていないせいか、夜叉は離陸直後から体の奥から得も言われぬ不快感がこみ上げてくるのを感じた。

(えっ…まだ乗ったばっかなんですが…)

 乗り物酔い? 真っ先に思いついたのは幼少期に何度かあった車酔い。だがあれとはまた違う気がする。

 小刻みな振動で不快感が増す。隣で彦瀬と瑞恵は地上の景色を眺めて喜んでいるが、夜叉にはそんな余裕はなく目を閉じた。

(寝よ寝よ…現地についてからぐったりしてたら楽しめないし)

 というわけで夜叉は飛行機に乗っている間は意識を強制シャットダウンしていた。飛行機から下りて電車で移動している間に体調は回復した。

(自分で跳んでいる間はなんともないのに飛行機はダメとは一体)

 夜叉は彦瀬に誘われて橋の上から運河を見下ろした。

 川の表面を風がなでさざ波が生まれる。それを眺めていたら隣に誰かが並んだ。

「やー様、お加減はいかがですか」

「うん、大丈夫。ありがと」

 夜叉が川から顔を上げると阿修羅がホッとした様子で胸に手を当てた。

 今日の彼も可愛らしい格好。厚手のワンピースと防寒のために黒いタイツを履き、パステルピンクのコートを羽織っている。

 夜叉は橋の欄干に体をもたれさせ、彦瀬がやまめを誘いに行ったのを見届けると声を潜めた。

「…そういえば阿修羅がここに来た時ってまだ蝦夷って名前だったんでしょ? 仕事で来たの?」

「はい。明治に変わる少し前の頃に。あの時は確か蝦夷の様子を報告するために訪れました」

「へ~」

「今回の修学旅行では行きませんが五稜郭の辺りを。当時は戦場だったので今日のように観光気分ではありませんでした」

「ひぃぇっ…戦場…?」

 戦場なんて縁のない夜叉は細い悲鳴を上げて顔をゆがめた。今までそういった任務を一族から言い渡されたことはないがこれからあるのだろうか。もしものことを考えて夜叉は身震いした。

 阿修羅は余計なことを言ったか…と目をそらし、夜叉の横に並んだ。彼は空を見上げてほほえんだ。

「その話はさておき…こうして平穏な世で旅行にくることができてよかったです」

「 旅行リベンジできてよかったね」

「それだけではないのですが…」

「へ?」

「あ、あーちゃんここにいたか! 皆で写真撮ろ~」

 阿修羅が何かを言いかけたが、やまめと瑞恵を引き連れた彦瀬に遮られた。

 彼は惜しそうな顔をしたが自分が写真を撮ると申し出た。

「ダーメ。あーちゃんも一緒に写るんだよ。彦瀬、今日のために自撮り棒を買ってきたからバンバン活用するぞ~」

「自撮り棒ってあんた…もう古くない?」

「使えるものはなんでも使う! 流行は気にしない!」

 彦瀬は胸をそらしながら自撮り棒の先端にスマホを取り付けた。

「修学旅行でたくさん写真撮ろうね。特にあーちゃんはしばらくずっといなかったからいっぱい思い出作ろ」

「…はい」

 彦瀬がニカッと笑うと阿修羅がかみしめるようにうなずいてほほえんだ。
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