12 / 29
3章
2
しおりを挟む
新幹線から電車に乗り換え空港に向かい、飛行機で札幌へ。そこから電車で移動し、一行は小樽に到着した。
「ほぉ~…」
初めての北の大地。日がだいぶ傾いたせいかひんやりとした空気が肌をなで、夜叉は思わず身震いをした。
小樽の運河の上にかかる浅草橋で夜叉たちのクラスがまばらになって写真を撮っている。その周りには外国人観光客がツアーガイドの説明を聞いたり、人力車を止めた俥夫たちがマップを片手に通りかかる人たちに熱心に声をかけている。
夜叉はそんな人たちを眺めながら両手をこすった。
「やーちゃーん! あっちで写真撮ろ!」
「わっ…彦瀬」
「もう大丈夫? 飛行機に乗ってる間顔真っ青だったけど」
「うん…だいぶ平気…でも今のでまた気持ち悪くなりそう…」
「わーごめんてぇ!」
彦瀬が頭を何度も下げている前で夜叉は口に手を当てた。
飛行機に乗ったのは初めてで慣れていないせいか、夜叉は離陸直後から体の奥から得も言われぬ不快感がこみ上げてくるのを感じた。
(えっ…まだ乗ったばっかなんですが…)
乗り物酔い? 真っ先に思いついたのは幼少期に何度かあった車酔い。だがあれとはまた違う気がする。
小刻みな振動で不快感が増す。隣で彦瀬と瑞恵は地上の景色を眺めて喜んでいるが、夜叉にはそんな余裕はなく目を閉じた。
(寝よ寝よ…現地についてからぐったりしてたら楽しめないし)
というわけで夜叉は飛行機に乗っている間は意識を強制シャットダウンしていた。飛行機から下りて電車で移動している間に体調は回復した。
(自分で跳んでいる間はなんともないのに飛行機はダメとは一体)
夜叉は彦瀬に誘われて橋の上から運河を見下ろした。
川の表面を風がなでさざ波が生まれる。それを眺めていたら隣に誰かが並んだ。
「やー様、お加減はいかがですか」
「うん、大丈夫。ありがと」
夜叉が川から顔を上げると阿修羅がホッとした様子で胸に手を当てた。
今日の彼も可愛らしい格好。厚手のワンピースと防寒のために黒いタイツを履き、パステルピンクのコートを羽織っている。
夜叉は橋の欄干に体をもたれさせ、彦瀬がやまめを誘いに行ったのを見届けると声を潜めた。
「…そういえば阿修羅がここに来た時ってまだ蝦夷って名前だったんでしょ? 仕事で来たの?」
「はい。明治に変わる少し前の頃に。あの時は確か蝦夷の様子を報告するために訪れました」
「へ~」
「今回の修学旅行では行きませんが五稜郭の辺りを。当時は戦場だったので今日のように観光気分ではありませんでした」
「ひぃぇっ…戦場…?」
戦場なんて縁のない夜叉は細い悲鳴を上げて顔をゆがめた。今までそういった任務を一族から言い渡されたことはないがこれからあるのだろうか。もしものことを考えて夜叉は身震いした。
阿修羅は余計なことを言ったか…と目をそらし、夜叉の横に並んだ。彼は空を見上げてほほえんだ。
「その話はさておき…こうして平穏な世で旅行にくることができてよかったです」
「 旅行リベンジできてよかったね」
「それだけではないのですが…」
「へ?」
「あ、あーちゃんここにいたか! 皆で写真撮ろ~」
阿修羅が何かを言いかけたが、やまめと瑞恵を引き連れた彦瀬に遮られた。
彼は惜しそうな顔をしたが自分が写真を撮ると申し出た。
「ダーメ。あーちゃんも一緒に写るんだよ。彦瀬、今日のために自撮り棒を買ってきたからバンバン活用するぞ~」
「自撮り棒ってあんた…もう古くない?」
「使えるものはなんでも使う! 流行は気にしない!」
彦瀬は胸をそらしながら自撮り棒の先端にスマホを取り付けた。
「修学旅行でたくさん写真撮ろうね。特にあーちゃんはしばらくずっといなかったからいっぱい思い出作ろ」
「…はい」
彦瀬がニカッと笑うと阿修羅がかみしめるようにうなずいてほほえんだ。
「ほぉ~…」
初めての北の大地。日がだいぶ傾いたせいかひんやりとした空気が肌をなで、夜叉は思わず身震いをした。
小樽の運河の上にかかる浅草橋で夜叉たちのクラスがまばらになって写真を撮っている。その周りには外国人観光客がツアーガイドの説明を聞いたり、人力車を止めた俥夫たちがマップを片手に通りかかる人たちに熱心に声をかけている。
夜叉はそんな人たちを眺めながら両手をこすった。
「やーちゃーん! あっちで写真撮ろ!」
「わっ…彦瀬」
「もう大丈夫? 飛行機に乗ってる間顔真っ青だったけど」
「うん…だいぶ平気…でも今のでまた気持ち悪くなりそう…」
「わーごめんてぇ!」
彦瀬が頭を何度も下げている前で夜叉は口に手を当てた。
飛行機に乗ったのは初めてで慣れていないせいか、夜叉は離陸直後から体の奥から得も言われぬ不快感がこみ上げてくるのを感じた。
(えっ…まだ乗ったばっかなんですが…)
乗り物酔い? 真っ先に思いついたのは幼少期に何度かあった車酔い。だがあれとはまた違う気がする。
小刻みな振動で不快感が増す。隣で彦瀬と瑞恵は地上の景色を眺めて喜んでいるが、夜叉にはそんな余裕はなく目を閉じた。
(寝よ寝よ…現地についてからぐったりしてたら楽しめないし)
というわけで夜叉は飛行機に乗っている間は意識を強制シャットダウンしていた。飛行機から下りて電車で移動している間に体調は回復した。
(自分で跳んでいる間はなんともないのに飛行機はダメとは一体)
夜叉は彦瀬に誘われて橋の上から運河を見下ろした。
川の表面を風がなでさざ波が生まれる。それを眺めていたら隣に誰かが並んだ。
「やー様、お加減はいかがですか」
「うん、大丈夫。ありがと」
夜叉が川から顔を上げると阿修羅がホッとした様子で胸に手を当てた。
今日の彼も可愛らしい格好。厚手のワンピースと防寒のために黒いタイツを履き、パステルピンクのコートを羽織っている。
夜叉は橋の欄干に体をもたれさせ、彦瀬がやまめを誘いに行ったのを見届けると声を潜めた。
「…そういえば阿修羅がここに来た時ってまだ蝦夷って名前だったんでしょ? 仕事で来たの?」
「はい。明治に変わる少し前の頃に。あの時は確か蝦夷の様子を報告するために訪れました」
「へ~」
「今回の修学旅行では行きませんが五稜郭の辺りを。当時は戦場だったので今日のように観光気分ではありませんでした」
「ひぃぇっ…戦場…?」
戦場なんて縁のない夜叉は細い悲鳴を上げて顔をゆがめた。今までそういった任務を一族から言い渡されたことはないがこれからあるのだろうか。もしものことを考えて夜叉は身震いした。
阿修羅は余計なことを言ったか…と目をそらし、夜叉の横に並んだ。彼は空を見上げてほほえんだ。
「その話はさておき…こうして平穏な世で旅行にくることができてよかったです」
「 旅行リベンジできてよかったね」
「それだけではないのですが…」
「へ?」
「あ、あーちゃんここにいたか! 皆で写真撮ろ~」
阿修羅が何かを言いかけたが、やまめと瑞恵を引き連れた彦瀬に遮られた。
彼は惜しそうな顔をしたが自分が写真を撮ると申し出た。
「ダーメ。あーちゃんも一緒に写るんだよ。彦瀬、今日のために自撮り棒を買ってきたからバンバン活用するぞ~」
「自撮り棒ってあんた…もう古くない?」
「使えるものはなんでも使う! 流行は気にしない!」
彦瀬は胸をそらしながら自撮り棒の先端にスマホを取り付けた。
「修学旅行でたくさん写真撮ろうね。特にあーちゃんはしばらくずっといなかったからいっぱい思い出作ろ」
「…はい」
彦瀬がニカッと笑うと阿修羅がかみしめるようにうなずいてほほえんだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
私はただ一度の暴言が許せない
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。
花婿が花嫁のベールを上げるまでは。
ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。
「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。
そして花嫁の父に向かって怒鳴った。
「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは!
この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。
そこから始まる物語。
作者独自の世界観です。
短編予定。
のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。
話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。
楽しんでいただけると嬉しいです。
※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。
※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です!
※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。
ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。
今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、
ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。
よろしくお願いします。
※9/27 番外編を公開させていただきました。
※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。
※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。
※10/25 完結しました。
ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。
たくさんの方から感想をいただきました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。
平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。
家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。
愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる