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さよならジゴロ
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女たらし、ヒモ、スケコマシ。
今でこそ返上しているが彼の不名誉な異名は数知れず。しかし彼が普通の人間に正体を隠してこの世界に居住地を得るためには必要な隠れ蓑でもあった。
戯人族として生まれ変わってからは警察組織に身を置くようになった。それも時代が変わるにつれ、普通の警察では顔を知らないような階級に上がっていった。
昔はターゲットに警察関係者、あるいは戯人族だと悟られないように普通の人間かつ自分1人では生きられないような男を演じていた。正直言うとそれだけではない。女の同情のおかげで自分は仕事以外は何もしなくても生きられるから楽だった。あると言えば家主である女の欲望に答えて抱くことぐらいか。
それも底なしの体力の持ち主であるため、気づけば女はとうに果てて快楽を存分に味わった表情で眠っていることが多い。
ある時、人間界での仕事の報告を兼ねて戯人族の間に戻った時、同じ一族として新たに女が加わったと聞いた。彼女も同じように警察組織に潜り込んでいるらしい。
彼は舌なめずりをした。同じ一族の者でしかも女とくれば、今のようにたくさんの人間の女の元を渡り歩く必要は無くなる。彼女と同じ屋根の下で暮らせばいい。
さっそく彼女の居所を聞いて人間界へ繰り出した彼だったが、例の彼女がじゃじゃ馬だと知った。
女であることを隠して髪を短くそろえ、男装に身を包んでいた。隠しようがない女性らしい顔つきは彼女を中性的な麗人に見せていた。
美しい見た目の反面、彼女は部下だろうが上司だろうが誰に対しても容赦しなかった。間違ったことを見つければ簡単に拳を振るう。紳士的な優しさを見せるのは女性相手くらいだ。そのため、彼女には取り巻きができるほど女性人気が高かった。
ある時、そんな彼女に声をかけたがあえなく失敗した。
お前のことは頭領から聞いている。お前のような男は信用できないから近づくな。同類だと思われたくない。苦虫を嚙み潰したような表情で拒絶されたのだ。彼女が住んでいる屋敷を尋ねたら門前払いをくらった。
そんな風にこっぴどく振られ、彼はめげるどころか心に火をつけられた。
何度も彼女の仕事先に現れてはアプローチを繰り返した。時々彼女の部下に追い払われたが彼は珍しくあきらめなかった。
いつもならどんな高嶺の花でもいとも簡単に虜にできた。ダメならダメであっさりと引き下がり、その女のことを思い出すことは二度となかった。
しかし彼女だけは違う。毎夜夢に出てくるくらい忘れられなくて、何が何でも堕としてデレた表情を見つめたい。
それから数十年後に彼女と結ばれるのだが、意外にも彼女から降参を申し出た。
あんたのアプローチをこれまでは石のように固い仮面でやり過ごしてきたが、もうこれ以上は耐えられない。あんたのことばかり考えて胸が苦しい、と。
それはもう恋じゃないかとふざけ半分で言ったら、突然彼女に胸倉を掴まれて唇を奪われた。
驚きで目を見開いて固まっていると彼女は離れ、頬を赤らめて無理矢理作ったようなしかめっ面でもじもじし始めた。
とても男社会の中で性別を偽って仕事をしていた時と同じ人物だとは思えない。
きっとこれが本当の彼女の姿なのだ。鎧を脱いだこの姿は自分にだけ許せるものなのだろう。
彼は優しく抱きしめると、もう他の男は目に入らないくらいもっと心を奪ってみせると誓った。
今でこそ返上しているが彼の不名誉な異名は数知れず。しかし彼が普通の人間に正体を隠してこの世界に居住地を得るためには必要な隠れ蓑でもあった。
戯人族として生まれ変わってからは警察組織に身を置くようになった。それも時代が変わるにつれ、普通の警察では顔を知らないような階級に上がっていった。
昔はターゲットに警察関係者、あるいは戯人族だと悟られないように普通の人間かつ自分1人では生きられないような男を演じていた。正直言うとそれだけではない。女の同情のおかげで自分は仕事以外は何もしなくても生きられるから楽だった。あると言えば家主である女の欲望に答えて抱くことぐらいか。
それも底なしの体力の持ち主であるため、気づけば女はとうに果てて快楽を存分に味わった表情で眠っていることが多い。
ある時、人間界での仕事の報告を兼ねて戯人族の間に戻った時、同じ一族として新たに女が加わったと聞いた。彼女も同じように警察組織に潜り込んでいるらしい。
彼は舌なめずりをした。同じ一族の者でしかも女とくれば、今のようにたくさんの人間の女の元を渡り歩く必要は無くなる。彼女と同じ屋根の下で暮らせばいい。
さっそく彼女の居所を聞いて人間界へ繰り出した彼だったが、例の彼女がじゃじゃ馬だと知った。
女であることを隠して髪を短くそろえ、男装に身を包んでいた。隠しようがない女性らしい顔つきは彼女を中性的な麗人に見せていた。
美しい見た目の反面、彼女は部下だろうが上司だろうが誰に対しても容赦しなかった。間違ったことを見つければ簡単に拳を振るう。紳士的な優しさを見せるのは女性相手くらいだ。そのため、彼女には取り巻きができるほど女性人気が高かった。
ある時、そんな彼女に声をかけたがあえなく失敗した。
お前のことは頭領から聞いている。お前のような男は信用できないから近づくな。同類だと思われたくない。苦虫を嚙み潰したような表情で拒絶されたのだ。彼女が住んでいる屋敷を尋ねたら門前払いをくらった。
そんな風にこっぴどく振られ、彼はめげるどころか心に火をつけられた。
何度も彼女の仕事先に現れてはアプローチを繰り返した。時々彼女の部下に追い払われたが彼は珍しくあきらめなかった。
いつもならどんな高嶺の花でもいとも簡単に虜にできた。ダメならダメであっさりと引き下がり、その女のことを思い出すことは二度となかった。
しかし彼女だけは違う。毎夜夢に出てくるくらい忘れられなくて、何が何でも堕としてデレた表情を見つめたい。
それから数十年後に彼女と結ばれるのだが、意外にも彼女から降参を申し出た。
あんたのアプローチをこれまでは石のように固い仮面でやり過ごしてきたが、もうこれ以上は耐えられない。あんたのことばかり考えて胸が苦しい、と。
それはもう恋じゃないかとふざけ半分で言ったら、突然彼女に胸倉を掴まれて唇を奪われた。
驚きで目を見開いて固まっていると彼女は離れ、頬を赤らめて無理矢理作ったようなしかめっ面でもじもじし始めた。
とても男社会の中で性別を偽って仕事をしていた時と同じ人物だとは思えない。
きっとこれが本当の彼女の姿なのだ。鎧を脱いだこの姿は自分にだけ許せるものなのだろう。
彼は優しく抱きしめると、もう他の男は目に入らないくらいもっと心を奪ってみせると誓った。
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