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5章

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 次の日の朝。最近の集合場所に集まったやまめの第一声は、夜叉を気遣うというより興味津々に男との関係を問いただそうとするものだった。

 やまめがネタにしようとしている時が分かるようになった夜叉は、彼女の質問を追い払うように顔をそらしたり手を振って交わし続けていた。

「だーかーら、ただの知り合いだって…」

 最近の朝のいつものメンバーがそろって学校に向かい始めてからも、やまめは”ただの知り合い”では納得しなかった。

 目を輝かせて夜叉の顔をのぞきこむやまめは今にもバッグから筆記用具を取出して熱心にペンを走らせそうだ。

「絶対なんかあるでしょ!? あの男の人と話してる時のやーちゃん、見たことない顔してたもん」

「やまめちゃんが勝手にそう思ってるだけだって絶対…」

「結城ちゃんもそう思ったよね!」

「私には何も分からんかった」

「ほれ見ろ」

「あぁんもう!」

 首を振る結城と”言わんこっちゃない…”と唇を尖らせる夜叉の真ん中で、やまめは両目を押さえて顔をぐりんと上へ向かせた。

 内心夜叉は冷や冷やしていた。朝来と繋がりがあると知ったら彼らはどんな反応をするんだろう。

 朝来が響高校の元喧嘩屋で総長であったことは有名だし、結城なんかは彼と一戦交えている。今でこそ彼は高校の喧嘩屋グループを解散させて近隣の学校を脅かすような存在ではないが、結城は密かに警戒している可能性もある。

 この話題をさっさと流して朝来のことをポロっと口からこぼさないようにしよう…と次の話題を考えていると、結城が”そういえば”と腕を組んだ。

「あの男の顔…よくは見えなかったが背格好には見覚えがある気がするな…やーさんと並ぶとそんなに背が高くないあたりが特に────」

「あーあんなところに住吉!」

「あ…悪霊退散!! どひゃぁぁぁ」

 夜叉がわざとらしく大声で前方を指さすとやまめは彼女の背後に身を隠し、反対に結城が素早く2人の前に飛び出て両手を広げた。この中で一番小柄だというのに後ろ姿は勇敢で頼もしさがある。

 急に叫んだ本人は冷や汗をかき演技感っぽさを必死に隠しながら、姿の無い男子高校生を指差してうそぶいた。

「やい! ネット上に人を晒してんじゃないよこのつ…ツ〇ッタラー! あんたンとこの学校の門にあんたの恥ずかしい写真を張り付けてやろうか!?」

 2人して力が抜けてたたらを踏んだ。

 当の本人は言い切ってやったぜと鼻息荒く腕を組んであごを持ち上げている。

「え…やーちゃん仕返しアナログなんだけど…」

「覚えたての言葉を使いたかったんだろうな…」

 結局住吉の姿は確認できず、2人は”住吉は逃げ足が速いのかも”と話しながら再び歩き始めた。

 もっと他のことでカモフラージュすればよかったかな…と先を歩く2人の背中を見て罪悪感を抱き、夜叉の足取りは重くなった。



(あんな鉄壁いて凸するわけねーだろ!)

 住吉は1人、塀の影に隠れて心臓をバクバクとさせていた。横にバッグを無造作に置いてへたり込み、心臓がある辺りに手を当てて荒く肩で息をしている。まさか自分の名前を突然呼ばれるとは思わず、もうここまでか…と命の危険を感じた。

 実はあの3人のことはほぼ毎日尾行けている。自分の学校に着くのは遅刻寸前の時間になるのだが、これもコエコエに情報提供するための諜報活動だ。なんだか芸能人のプライベートや人間関係を暴こうとする芸能記者みたいだな…と最近浮かれている。

(あのコが1人になるところってほぼないよな…どんだけ張ってんだよ)

 住吉は再び、そろーり…と顔だけ塀から出して3人の後ろ姿を盗み見た。3人は何事もなかったように並んで歩いている。

 残念ながら今の所、やまめと神崎の写真くらいしか収穫が無い。彼女たちが話している内容は学校での出来事と住吉のことばかりで、コエコエに報告して興味をそそるような話題は無かった。

(ツ〇ッタラーってむしろ褒め言葉だわ! おめーが俺の何を知ってんだっつの!)

 彼は最後に、突然彼の名前を呼んで罵倒した髪の長い女子高生に舌を出してバッグを引ったくった。
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