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4章

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 毘沙門天が仲間に連行させた女は人間であるが不老長寿だと話した。

「あの女の仲間はある研究機関から薬の製造方法を盗んで独自に調合をした。そして完成したのが不老長寿の薬、操って言う事を聞かせるための薬…他にもたくさんある。彼らは元々ある一族の末裔────我々の祖先が人間だった頃に襲って来た隣村の連中の、ね…」

 時を超え、再び交差する2つの一族。これは因果なのだろうか。

「彼らの祖先が崇めていた悪鬼というのが彼。そして彼は後に、我々の祖先と恋仲になる。禁断の恋だ…。2人はやがて鬼神のような恐ろしい力量を持った赤子をもうけてしまう。それを知った死神様は赤子を取り上げ、2人が二度と巡り合わないように地上へ堕とした────が、悪鬼は朱雀様によって匿われていたんだな…。我々の祖先は人間になったけど悲しみのあまりすぐに自害されてしまったそうだ」

「しゅり…」

 朝来は悲しげにつぶやくと肩を落とした。心当たりがあるのか毘沙門天は”気の毒に…”と目を細めた。

「君は我々の祖先が死んだことを知らなかったんだな…。もう彼女はいないんだ。輪廻転生していたとしても記憶が残っているかは分からない。姿形ももう違うだろうし…」

「ここにいる」

 朝来の人探しは難しいものだと毘沙門天が苦い顔で首を振ったが、朝来は隣の夜叉の肩に腕を回した。彼女が彼の横顔を見上げると少しだけいつもの調子が戻ってきたように見えた。猫目はキリッと前を見据えている。見たことない真面目な表情に体の奥が熱くなってきた。

「君はしゅりだ。この男の言う通り姿形が変わっただけなんだろ? 今は僕のことを忘れてしまってるだけなんだろ」

「ううん…」

 初めて会った頃にも自分のことを本当に覚えていないのかと聞かれたことがある。今の毘沙門天の話に似たようなことを言われたが当時は理解できなかった。

────共に生きよう。僕らは結ばれるべきなんだ。

────本当に何も覚えてないの? 僕はずっと君のことを想っていた。死んで君と引き裂かれてからも忘れたことはない。

────僕らは遥か昔に禁忌を侵した。その罰だよ。二度と会わないために。それでも僕らは再び巡り合った。

 朝来に突然連れ去られ、江戸時代にタイムスリップをした時のこと。あの時の彼は夜叉のことを”しゅり”だと勘違いして訴えかけていたのだ。

 夜叉の手を握る彼の手は震え、彼女が力無く首を振ると肩にもたれかかって嗚咽をもらした。

「やっと会えたと思ってたのに…死神だってもう許してくれたっていいじゃないか…」

 肩を震わせる彼の背中をポンポンと叩いてあやしたが、しばらくは顔を上げなさそうだ。

 正直彼の体は細身の割に重量がある。響高で喧嘩屋の総長だった時代があるし筋肉はそれなりについているのかもしれない。

「薬の影響だ…。我々の祖先を知っている頭領も夜叉ちゃんはなんとなく似ている気がするとは言っていたが彼女の答えが真実だ」



 朝来はしばらく1人になりたいと言って舞花が朱雀の部屋へ案内した。夜叉は毘沙門天と2人で部屋に残った。

「君は休憩しなくて大丈夫? 混乱してない?」

「正直全部は理解してませんけど…気になるので続きを教えてほしいです」

「ゆっくり知っていけばいいさ。俺も鬼子母神も、これからも人間界に残るから」

 毘沙門天は廊下を通りかかったチャイナドレスの少女に一声かけ、お茶のおかわりを持ってくるように頼んだ。

 喉が異様にカラカラになっていることに気づき、夜叉は湯吞みを持ち上げて一気に煽った。そういえばここは暑くも寒くも無い上に常に夜なので、いつも暑いと文句垂れている夜叉でも温かいお茶を遠慮したいとは思わなかった。

「それで、一族の末裔は朝来に薬を飲ませてどうしたいんですか? 一族で崇めてるのに薬漬けにするのってなんだか変な気が」

「末裔────今は天魔波旬てんまはじゅんって名乗ってる。ヤツらは秘密結社としてこの国の人類を消そうとしている」

「え…人類滅亡? 急に話ぶっ飛んでませんか…」

「それだけヤバい連中ってこと。今の彼らは朝来を崇めてなんかない。自分たちの目標達成のための駒にしか思ってないよ」

 この部屋の気温だけ下がったような気がした。同じ人間なのに同族を消したいと考えている者がいるとは。

「ひどい…」

「朝来はかわいそうだ…。ヤツらのロクでもない計画に巻き込まれたんだから。彼の思考のほとんどはヤツらの薬のせいだ」

 夜叉は膝の上で拳を握ってうつむいた。

 今まで朝来のことを敵だとも味方だとも決められなかったのは、無意識に何かを感じ取っていたかもしれない。

(本当は私は朝来と何か関係がある…? でも何も分からない。私は江戸時代の記憶も無いんだからもっと昔のことなんて覚えてるわけないか)

 少女が運んできたお茶を軽く頭を下げて受け取り、今考えていることと共に飲み込んだ。
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