17 / 37
4章
3
しおりを挟む
毘沙門天が仲間に連行させた女は人間であるが不老長寿だと話した。
「あの女の仲間はある研究機関から薬の製造方法を盗んで独自に調合をした。そして完成したのが不老長寿の薬、操って言う事を聞かせるための薬…他にもたくさんある。彼らは元々ある一族の末裔────我々の祖先が人間だった頃に襲って来た隣村の連中の、ね…」
時を超え、再び交差する2つの一族。これは因果なのだろうか。
「彼らの祖先が崇めていた悪鬼というのが彼。そして彼は後に、我々の祖先と恋仲になる。禁断の恋だ…。2人はやがて鬼神のような恐ろしい力量を持った赤子をもうけてしまう。それを知った死神様は赤子を取り上げ、2人が二度と巡り合わないように地上へ堕とした────が、悪鬼は朱雀様によって匿われていたんだな…。我々の祖先は人間になったけど悲しみのあまりすぐに自害されてしまったそうだ」
「しゅり…」
朝来は悲しげにつぶやくと肩を落とした。心当たりがあるのか毘沙門天は”気の毒に…”と目を細めた。
「君は我々の祖先が死んだことを知らなかったんだな…。もう彼女はいないんだ。輪廻転生していたとしても記憶が残っているかは分からない。姿形ももう違うだろうし…」
「ここにいる」
朝来の人探しは難しいものだと毘沙門天が苦い顔で首を振ったが、朝来は隣の夜叉の肩に腕を回した。彼女が彼の横顔を見上げると少しだけいつもの調子が戻ってきたように見えた。猫目はキリッと前を見据えている。見たことない真面目な表情に体の奥が熱くなってきた。
「君はしゅりだ。この男の言う通り姿形が変わっただけなんだろ? 今は僕のことを忘れてしまってるだけなんだろ」
「ううん…」
初めて会った頃にも自分のことを本当に覚えていないのかと聞かれたことがある。今の毘沙門天の話に似たようなことを言われたが当時は理解できなかった。
────共に生きよう。僕らは結ばれるべきなんだ。
────本当に何も覚えてないの? 僕はずっと君のことを想っていた。死んで君と引き裂かれてからも忘れたことはない。
────僕らは遥か昔に禁忌を侵した。その罰だよ。二度と会わないために。それでも僕らは再び巡り合った。
朝来に突然連れ去られ、江戸時代にタイムスリップをした時のこと。あの時の彼は夜叉のことを”しゅり”だと勘違いして訴えかけていたのだ。
夜叉の手を握る彼の手は震え、彼女が力無く首を振ると肩にもたれかかって嗚咽をもらした。
「やっと会えたと思ってたのに…死神だってもう許してくれたっていいじゃないか…」
肩を震わせる彼の背中をポンポンと叩いてあやしたが、しばらくは顔を上げなさそうだ。
正直彼の体は細身の割に重量がある。響高で喧嘩屋の総長だった時代があるし筋肉はそれなりについているのかもしれない。
「薬の影響だ…。我々の祖先を知っている頭領も夜叉ちゃんはなんとなく似ている気がするとは言っていたが彼女の答えが真実だ」
朝来はしばらく1人になりたいと言って舞花が朱雀の部屋へ案内した。夜叉は毘沙門天と2人で部屋に残った。
「君は休憩しなくて大丈夫? 混乱してない?」
「正直全部は理解してませんけど…気になるので続きを教えてほしいです」
「ゆっくり知っていけばいいさ。俺も鬼子母神も、これからも人間界に残るから」
毘沙門天は廊下を通りかかったチャイナドレスの少女に一声かけ、お茶のおかわりを持ってくるように頼んだ。
喉が異様にカラカラになっていることに気づき、夜叉は湯吞みを持ち上げて一気に煽った。そういえばここは暑くも寒くも無い上に常に夜なので、いつも暑いと文句垂れている夜叉でも温かいお茶を遠慮したいとは思わなかった。
「それで、一族の末裔は朝来に薬を飲ませてどうしたいんですか? 一族で崇めてるのに薬漬けにするのってなんだか変な気が」
「末裔────今は天魔波旬って名乗ってる。ヤツらは秘密結社としてこの国の人類を消そうとしている」
「え…人類滅亡? 急に話ぶっ飛んでませんか…」
「それだけヤバい連中ってこと。今の彼らは朝来を崇めてなんかない。自分たちの目標達成のための駒にしか思ってないよ」
この部屋の気温だけ下がったような気がした。同じ人間なのに同族を消したいと考えている者がいるとは。
「ひどい…」
「朝来はかわいそうだ…。ヤツらのロクでもない計画に巻き込まれたんだから。彼の思考のほとんどはヤツらの薬のせいだ」
夜叉は膝の上で拳を握ってうつむいた。
今まで朝来のことを敵だとも味方だとも決められなかったのは、無意識に何かを感じ取っていたかもしれない。
(本当は私は朝来と何か関係がある…? でも何も分からない。私は江戸時代の記憶も無いんだからもっと昔のことなんて覚えてるわけないか)
少女が運んできたお茶を軽く頭を下げて受け取り、今考えていることと共に飲み込んだ。
「あの女の仲間はある研究機関から薬の製造方法を盗んで独自に調合をした。そして完成したのが不老長寿の薬、操って言う事を聞かせるための薬…他にもたくさんある。彼らは元々ある一族の末裔────我々の祖先が人間だった頃に襲って来た隣村の連中の、ね…」
時を超え、再び交差する2つの一族。これは因果なのだろうか。
「彼らの祖先が崇めていた悪鬼というのが彼。そして彼は後に、我々の祖先と恋仲になる。禁断の恋だ…。2人はやがて鬼神のような恐ろしい力量を持った赤子をもうけてしまう。それを知った死神様は赤子を取り上げ、2人が二度と巡り合わないように地上へ堕とした────が、悪鬼は朱雀様によって匿われていたんだな…。我々の祖先は人間になったけど悲しみのあまりすぐに自害されてしまったそうだ」
「しゅり…」
朝来は悲しげにつぶやくと肩を落とした。心当たりがあるのか毘沙門天は”気の毒に…”と目を細めた。
「君は我々の祖先が死んだことを知らなかったんだな…。もう彼女はいないんだ。輪廻転生していたとしても記憶が残っているかは分からない。姿形ももう違うだろうし…」
「ここにいる」
朝来の人探しは難しいものだと毘沙門天が苦い顔で首を振ったが、朝来は隣の夜叉の肩に腕を回した。彼女が彼の横顔を見上げると少しだけいつもの調子が戻ってきたように見えた。猫目はキリッと前を見据えている。見たことない真面目な表情に体の奥が熱くなってきた。
「君はしゅりだ。この男の言う通り姿形が変わっただけなんだろ? 今は僕のことを忘れてしまってるだけなんだろ」
「ううん…」
初めて会った頃にも自分のことを本当に覚えていないのかと聞かれたことがある。今の毘沙門天の話に似たようなことを言われたが当時は理解できなかった。
────共に生きよう。僕らは結ばれるべきなんだ。
────本当に何も覚えてないの? 僕はずっと君のことを想っていた。死んで君と引き裂かれてからも忘れたことはない。
────僕らは遥か昔に禁忌を侵した。その罰だよ。二度と会わないために。それでも僕らは再び巡り合った。
朝来に突然連れ去られ、江戸時代にタイムスリップをした時のこと。あの時の彼は夜叉のことを”しゅり”だと勘違いして訴えかけていたのだ。
夜叉の手を握る彼の手は震え、彼女が力無く首を振ると肩にもたれかかって嗚咽をもらした。
「やっと会えたと思ってたのに…死神だってもう許してくれたっていいじゃないか…」
肩を震わせる彼の背中をポンポンと叩いてあやしたが、しばらくは顔を上げなさそうだ。
正直彼の体は細身の割に重量がある。響高で喧嘩屋の総長だった時代があるし筋肉はそれなりについているのかもしれない。
「薬の影響だ…。我々の祖先を知っている頭領も夜叉ちゃんはなんとなく似ている気がするとは言っていたが彼女の答えが真実だ」
朝来はしばらく1人になりたいと言って舞花が朱雀の部屋へ案内した。夜叉は毘沙門天と2人で部屋に残った。
「君は休憩しなくて大丈夫? 混乱してない?」
「正直全部は理解してませんけど…気になるので続きを教えてほしいです」
「ゆっくり知っていけばいいさ。俺も鬼子母神も、これからも人間界に残るから」
毘沙門天は廊下を通りかかったチャイナドレスの少女に一声かけ、お茶のおかわりを持ってくるように頼んだ。
喉が異様にカラカラになっていることに気づき、夜叉は湯吞みを持ち上げて一気に煽った。そういえばここは暑くも寒くも無い上に常に夜なので、いつも暑いと文句垂れている夜叉でも温かいお茶を遠慮したいとは思わなかった。
「それで、一族の末裔は朝来に薬を飲ませてどうしたいんですか? 一族で崇めてるのに薬漬けにするのってなんだか変な気が」
「末裔────今は天魔波旬って名乗ってる。ヤツらは秘密結社としてこの国の人類を消そうとしている」
「え…人類滅亡? 急に話ぶっ飛んでませんか…」
「それだけヤバい連中ってこと。今の彼らは朝来を崇めてなんかない。自分たちの目標達成のための駒にしか思ってないよ」
この部屋の気温だけ下がったような気がした。同じ人間なのに同族を消したいと考えている者がいるとは。
「ひどい…」
「朝来はかわいそうだ…。ヤツらのロクでもない計画に巻き込まれたんだから。彼の思考のほとんどはヤツらの薬のせいだ」
夜叉は膝の上で拳を握ってうつむいた。
今まで朝来のことを敵だとも味方だとも決められなかったのは、無意識に何かを感じ取っていたかもしれない。
(本当は私は朝来と何か関係がある…? でも何も分からない。私は江戸時代の記憶も無いんだからもっと昔のことなんて覚えてるわけないか)
少女が運んできたお茶を軽く頭を下げて受け取り、今考えていることと共に飲み込んだ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる