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1章

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 夏休みが終わり二学期が始まった。

 夜叉やしゃ和馬かずまは相変わらず共に登校している。

 朝でまだ日差しがマシな中、2人はなるべく木陰の下を選んで歩いていた。

「9月になってもあっつ~…。暑さが長いのなんとかなんないのかなー…」

「さくらは暑いの嫌いだよね…」

「うん。今日の晩御飯もそうめんでよろしく」

「毎日冷たいものばかり食べてたらダメだよ。今日は夏野菜カレーです」

「カレーだ~わーいわーい」

 登校の段階で早くも晩御飯の話題。首にタオルをかけた夜叉はバッグを肩にかけて両手を上げた。

 校庭に入り、それぞれクラスメイトに会うと自然に分かれて教室へ入っていく。

 夜叉は席の両脇を彦瀬ひこせ瑞恵みずえに固められ、3人で彼女のスマホの画面をのぞきこんでいる。

「あーちゃんは夏休みが終わってからも来ないね…大丈夫かな」

「大丈夫だよ。体調が悪いとかじゃないんだから。家の事情ってなだけで」

「家の事情ってずっと聞いてるけどなんなんだろ? あーちゃんっておしとやかでいつも敬語だし、実はいいとこ育ちのお嬢様で花嫁修業をさせられてるとか…!」

「やまめちゃんみたいな妄想力ね…」

 本当のところは夜叉も知らないが決してあーちゃんこと阿修羅あしゅらが、夏休みの合宿から休んでいるのは花嫁修業でないことは断言できる。

 こういう時の”家の事情”という曖昧で詳しいことは話せません、と察してくれと言いたげな言葉は便利だ。阿修羅は普通の人間ではないからやんごとなき事情もある。

「何かあったのかい…」

「あ、やまめちゃんおはよー…って。朝からげっそりしてどうしたの」

 3人の元に現れたのはまだ登校したてなのか肩にバッグをかけたやまめだ。瑞恵が首をかしげるとやまめはバッグの中から水筒をとりだして中身を一気に飲み干した。

「学校の近くから校門くぐるまで他校の男子に追いかけ回された…朝からなんでこんなに走らなきゃいけないの…」

「それはお疲れ…詳しく聞かせておくれ」

 やまめが言うには以前、夜叉と歩いている時に声をかけてきた男子────住吉すみよしが通学路にいてしつこく話しかけられたらしい。意地になって答えず走り出したら追いかけられた。”逃げるってことはやましいことがあるってことだね!”と捨て台詞的な物を吐いて彼はいなくなった。

「ちょうど校門に神崎かんざき先生がいたから追い払ってくれたってのもあるけどね…」

「アイツは確か、夏休みにも校門でウロチョロしてたんだよな…。やっぱりやまめちゃんのことを気にしてるんだ」

「なんで? 怖いんだけど…」

「やまめちゃんのことが好きなんだよ~。待ち伏せしてたんじゃない?」

「怖い! あんな風に追いかけてくるヤツなんかに好かれても嬉しくない! 助けてやーちゃーん…」

 泣きつかれた夜叉は彼女の頭をポンポンとなで、さてどうしたものかと考え始めた。阿修羅がいたら彼に相談するが今はいないし連絡もつかない。

(やまめちゃんのことが好きかどうかは分かんないけど、興味を持っているは確かなんだよな…。しばらくは一緒に登下校しようかな。護衛って意味で)

 半ば本気で考えてそれをやまめに提案しようとしたら神崎が教室に入り、朝のホームルームが始まった。その間も夜叉は神崎の話を右から左で受け流し、ひとまずは結城ゆうきの所へ話をしに行こうかとポケットのスマホを握り締めた。
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