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終章

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 妊娠が発覚した時、一番に岳に話した。その次はななとゆきに。

 久しぶりに集まろうかと、千波が実家に呼んだ時のこと。

「やっぱりチナはがっくんと結ばれるべき、ってずっと思ってたんだよね~!」

「そうそう。切谷のイベントからね」

「そういえばそんなこと言ってたね……」

 二人が岳と会った時のことを思い出す。あの頃は岳のことは好きになってはいけないと思っていたし、惹かれることはないと思っていた。

「なんで思ってたんだろ……?」

「悔しかったんでしょ。まさかの相手を好きになったことに。"好きになっちゃいけない"って思った時点で相手のことが好きなんだよ」

「お、おう……。ゆき、名言出たね」

「ありがとう。でも結果良かったんでしょ? がっくんと一緒になって」



「俺と一緒になって良かった?」

「何言わせるつもり」

 もたれたままの岳の頬をつつく。

「俺はねー。チナとこうなれて嬉しいよ。イベントで会って同じレイヤーだって分かった時には、俺にはこの人しかいないって運命感じたよ」

「そうなの?」

「ここは素直に照れろよ。よかったな、チナに選ばれて。他にもチナのこと気にしてた男性社員いるからな。ケンちゃんもそうだったし」

「あたし、岳とケンちゃん以外にあんなこと言われたことないんだけど……」

「あぁ。それはチナが雰囲気大人過ぎて近づけなかったみたいだぜ? 俺としてはラッキーだったよ」

 ひそかにモテていた話はもうどうでもいい。

 ただ一人、受け入れようと決めた人に見つめ続けられさえすれば。

「結婚もできたしね? 子どももできたし」

「えとそれは……謝った方がいいのか……」

「いいよ、油断したあたしが原因だから」

「ホントに? 人生設計狂ったとかない?」

「ない。正直……嬉しかったから」

 そう小さくつぶやいた千波は、頬をかすかに染めてうつむく。

 その表情をのぞきこむように岳は顔を近づけた。ニヤケ面で。

「え? 何? 聞こえなかった。もう一回言って」

「やだ!」

 逃げようと立ち上がりかけた千波を、岳は腰に腕を回して座らせる。

「いーじゃんもう一回聞きたいからさ~」

「もう一回聞きたいとか、さっき聞き取ったよってことだよね!? 言いません!」

「言って下さーい」

 岳は千波の首筋に顔を押しつけた。彼の吐息でくすぐられ、肩を震わせた千波は脱力して苦笑いを含めたため息をつく。

(ホントは何回言っても足りないくらい嬉しい…。でもその度に喜ばれるのが照れるんだって…)

 すると、岳が顔を上げて千波の頬に唇を押し当て、首に腕を回して抱きしめる。

「岳……?」

「やっぱいい。言わなくてもチナが何か考えてるか分かるから。照れる姿だけで充分」

 それだけ一緒にいる時間が長くなってきたということか。

 千波も彼の背中に腕を回し、すぐそばにある彼の耳にささやく。

 ゆっくりと岳が離れ、今度は直接唇にキスをしてきた。

────大好き、岳。運命感じてるのはあたしも一緒だから。

 絡められた指を握り返す。

 瞳を閉じると、自然と頬がほころんだ。

 fin.
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