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1章
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「写真送るよ。SNS聞いていい?」
「SNSはちょっと…。ラインでお願いします」
「がっくんはチナのライン知ってるんですね。実は仲良いんですか? このコ、警戒心が小動物なみに強くて」
ゆきが心配そうに千波のことを見ると、岳は笑った。
「だよね知ってる。でも俺とは仲良いよ」
「そんなことない。ラインは社内連絡のグループで知られてるだけだから」
「でもツーショは欲しいんだね?」
なながニヤッも笑うと、千波はハッとして首をブンブンと強く振った。さすがにウィッグは外れないと思うが。
「いらない! やっぱあたしはいらない!」
「もう送ったよ?」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その日は帰りに三人で、イベント会場近くのファミレスに訪れた。少し早めにイベントから離脱したためか、店内は空いていた。
「チナ。あの人絶対チナのこと幸せにするよ」
「何急に気持ち悪い……」
注文をしてドリンクバーの温かい紅茶を飲んでいると、突然ゆきが真剣な顔をした。
「イケメンだから感化されたんでしょ? 気を付けなよ」
「違うから。なんとなく分かるんだって」
「がっくん、適当そうに見えたけど実は仕事かなりできる方なんじゃない?」
「まぁ、そうだけど」
ななは身を乗り出した。千波は会社での岳のことを思い出しながらカップを持ち上げる。
まさかこんな話になるとは。
千波はため息を紅茶で押し込む。
「女の勘で分かるの。軽そうに見えて恋愛には誠実だろうなって」
「ふーん……?」
「出た疑いの返事」
料理が運ばれてきてからも、千波と岳の話は続く。彼女はムスッとしてそっぽを向いた。
「……アイツが本当に誠実でも八方美人なのは変わんないから。あたしが嫌いな人間と仲良い人、あんま好きになれないから。よっぽどあたしと仲良い人じゃないと」
千波は自分の部署で苦手な人が多い。嫌いな人もいる。
岳はそんな人たちとも仲がいい。若い男だから気に入られていい扱いを受けているからか。
「気に入られておきたいのかなんなのか……」
「やっぱチナはガード固いね~……」
「本当に好きな人ができるか心配だよ」
「別にいいよ、そんなの。絶対叶わないだろうしあたしを好きになる男なんていないだろうし」
そう言って伏せた目は、悲しみと怒りを混ぜた暗い色をしていた。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
幼い頃、千波は狭い田舎で育った。
超高齢地域で子どもの数は少なく、全学年一クラスしかなかった。そしてどのクラスも三十人前後。
そんな小さな世界で彼女は、クラスで一番可愛くないとはっきり言われたことがある。見た目は良くないが声はいい、と自負している勘違い野郎に。
元々自尊心は低かったから、”知ってる”くらいにしか思えなかった。
汚れ役は全て千波の役目だと思われていた。
ヒーローごっこの敵役、ままごとではお姉さん役になれない、マラソンでのビリ、勉強やスポーツができない。
しかしある時、突然牙をむいた。
中学に入学した途端に眠っていた才能が開花したのだ。
テストでは毎回高得点を叩き出し、真面目な態度で教師の好感度が上がって成績は上々。スポーツはそこそこだったが。
高校に入学したら生活は更に一変。広い世界に出て様々な存在に出会って、こんな自分でも認めてくれる人がたくさんいることを知って自信が少しずつついていった。
本当に心を許せる友だち────主にななとゆきもできた。
中学までいたあの世界は最悪だった。そう気づくまでにだいぶ時間がかかった。
地元の人間は「中学までの頃が良かった」とぼやいていると、卒業後に何度か聞いた。
そのたびに「ざまあみろ」という感情が浮かび上がった。そう思う辺り、自分はなかなか残酷かもしれない。
「SNSはちょっと…。ラインでお願いします」
「がっくんはチナのライン知ってるんですね。実は仲良いんですか? このコ、警戒心が小動物なみに強くて」
ゆきが心配そうに千波のことを見ると、岳は笑った。
「だよね知ってる。でも俺とは仲良いよ」
「そんなことない。ラインは社内連絡のグループで知られてるだけだから」
「でもツーショは欲しいんだね?」
なながニヤッも笑うと、千波はハッとして首をブンブンと強く振った。さすがにウィッグは外れないと思うが。
「いらない! やっぱあたしはいらない!」
「もう送ったよ?」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その日は帰りに三人で、イベント会場近くのファミレスに訪れた。少し早めにイベントから離脱したためか、店内は空いていた。
「チナ。あの人絶対チナのこと幸せにするよ」
「何急に気持ち悪い……」
注文をしてドリンクバーの温かい紅茶を飲んでいると、突然ゆきが真剣な顔をした。
「イケメンだから感化されたんでしょ? 気を付けなよ」
「違うから。なんとなく分かるんだって」
「がっくん、適当そうに見えたけど実は仕事かなりできる方なんじゃない?」
「まぁ、そうだけど」
ななは身を乗り出した。千波は会社での岳のことを思い出しながらカップを持ち上げる。
まさかこんな話になるとは。
千波はため息を紅茶で押し込む。
「女の勘で分かるの。軽そうに見えて恋愛には誠実だろうなって」
「ふーん……?」
「出た疑いの返事」
料理が運ばれてきてからも、千波と岳の話は続く。彼女はムスッとしてそっぽを向いた。
「……アイツが本当に誠実でも八方美人なのは変わんないから。あたしが嫌いな人間と仲良い人、あんま好きになれないから。よっぽどあたしと仲良い人じゃないと」
千波は自分の部署で苦手な人が多い。嫌いな人もいる。
岳はそんな人たちとも仲がいい。若い男だから気に入られていい扱いを受けているからか。
「気に入られておきたいのかなんなのか……」
「やっぱチナはガード固いね~……」
「本当に好きな人ができるか心配だよ」
「別にいいよ、そんなの。絶対叶わないだろうしあたしを好きになる男なんていないだろうし」
そう言って伏せた目は、悲しみと怒りを混ぜた暗い色をしていた。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
幼い頃、千波は狭い田舎で育った。
超高齢地域で子どもの数は少なく、全学年一クラスしかなかった。そしてどのクラスも三十人前後。
そんな小さな世界で彼女は、クラスで一番可愛くないとはっきり言われたことがある。見た目は良くないが声はいい、と自負している勘違い野郎に。
元々自尊心は低かったから、”知ってる”くらいにしか思えなかった。
汚れ役は全て千波の役目だと思われていた。
ヒーローごっこの敵役、ままごとではお姉さん役になれない、マラソンでのビリ、勉強やスポーツができない。
しかしある時、突然牙をむいた。
中学に入学した途端に眠っていた才能が開花したのだ。
テストでは毎回高得点を叩き出し、真面目な態度で教師の好感度が上がって成績は上々。スポーツはそこそこだったが。
高校に入学したら生活は更に一変。広い世界に出て様々な存在に出会って、こんな自分でも認めてくれる人がたくさんいることを知って自信が少しずつついていった。
本当に心を許せる友だち────主にななとゆきもできた。
中学までいたあの世界は最悪だった。そう気づくまでにだいぶ時間がかかった。
地元の人間は「中学までの頃が良かった」とぼやいていると、卒業後に何度か聞いた。
そのたびに「ざまあみろ」という感情が浮かび上がった。そう思う辺り、自分はなかなか残酷かもしれない。
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