Eternal Dear4

堂宮ツキ乃

文字の大きさ
上 下
2 / 21
1章

しおりを挟む
 晴れた日の午後。この日も猛暑日と称すのにふさわしい真夏の暑さが寮を襲っていた。

 昼間から全部屋でクーラーを使うな命令が寮長から出ているため、ほとんどの者が連日涼しい1階の食堂で過ごしていた。

 2階の自室で窓を全開にするより、1階で窓を開けた方が涼しい。それに電気代もかからないので寮長にとって嬉しい節約。こういった経費はアマテラスが負担するが、寮長は無駄使いをしないようさせないよう心がけている。

 そんな彼女は今日、食材の買い出しに出かけている。蒼はその荷物持ちとして彼女について行った。

 一方の居残り組は、この前の雷の日とほぼ同じことをしている。

「ふぁ~ぁ…。風が通るとは言え…あっちーモンはあっちー…」

 扇は夏休み明けの授業の内容を教科書片手にノートにまとめていたが、暑さにダレてシャーペンを放った。

 夏休みなので彼もずっと私服。基本毎日、半袖Tシャツにブランドもののジャージだ。ノートから下敷きを引っこ抜いて扇ぐ。

「目の前でそんなことをされるとうつるじゃないか…」

 霞は扇と同じくダルそうな様子で読んでいた本にしおりを挟んだ。

 彼も同じく私服。珍しく長髪を後ろでしばっている。彼曰く、夏はこうしていないと蒸し暑いらしい。"だったら髪切れ"とハサミを持った凪に追いかけ回され、一時だけ短髪になったのは何百年も前の話。

 霞よりうんと髪が長い麓は、腰に届く髪をポニーテールにしてリボンでまとめている。霞と比べると髪の毛が細くさらさらとしているので、どこか清涼感がある。

「よっしゃ仕留めたァ! お先~」

「あぁっ!! 完ッ全に油断した…」

 焔と光は今日もゲーム対戦に燃え、どうやら焔が勝ったらしい。負けた光はスマホ片手にうなだれた。

「ということで光。アイスよろしくな」

「今度は絶対僕が勝つからね!」

 2人はどっちが買い物に行くかを賭けて勝負をしていたようだ。

 光が渋々と言った様子で立ち上がると、他の者たちも買い物を頼む。

「俺もアイス~。ガ〇ガリ君のリッチ。味はチャレンジ精神がいらないヤツ」

「私はアーモンドチョコで」

「俺はイカの燻製」

「はいはい分かったよ! ホムラっち以外は後で徴収するからね。ロクにゃんは? アイス? お菓子?」

「ううん、私は大丈夫」

 麓は読書をしていたが顔を上げて首を振った。

「そっか。あ、ねぇロクにゃん。一緒にコンビニ行こうよ。ずっと読書で座りっぱなしは体によくないよ」

「なんだそれ! さりげ麓のこと誘うなよ! よし俺も行ってやる」

「ホムラっちは誘ってませんー。今からロクにゃんと2人っきりで出かけてくるから。ね~ロクにゃん」

 話を振られた麓は苦笑しながら、またもや首を振った。

「ごめん…。なんとなく頭クラクラするからやめておくね…」

「頭クラクラって…大丈夫なの!?」

 光に聞かれて麓は力なくうなずいた。よくよく見ると、元から白い肌に青みが挿しているような不健康な色をしていた。

「あんま大丈夫そうじゃねェぞ。部屋で寝た方がいんじゃね?」

 思わずと言った様子で凪が口を開いた。

 彼はほぼ年中変わらない着流し姿。特に何かするでもなく、縁側でうちわを扇ぎながらたたずんでいた。

 しかし麓のことが気になったのかうちわを帯に差して部屋の中へ入った。

「平気です。本の続きが気になるので」

「そういう理由かよ」

「でも麓ちゃんらしいね。辛かったら私が膝枕を…」

「黙っとけ変態。…おい!」

 凪が霞に冷たく返した後、麓の表情が虚ろになった。その額に手をふれた彼は違和感を感じた。普通の体温に比べたらずっと暑いような。

「まさかおめー…」

 凪が再び口を開いたと同時に麓は目を閉じ、ふらっとした様子で凪に寄りかかる。彼女が読んでいた本がバサっと床に落ちた。

 麓の呼吸は荒く、目元をぎゅっと寄せて辛そうだった。 

「麓!」

 他のゲームをやっていた焔はスマホを放って麓に駆け寄った。

「気絶? どうして?」

「…熱中症?」

「だろうな」

 焔と光に凪が短く答えると、彼は麓の首にふれた。ポニーテールにしているのにこの温度…。原因は彼ならすぐに分かる。

「こんなクソ暑い日に襦袢をきっちり着てるからだバカが…。つか何枚着てやがんだ、そりゃ体温も上がるわ。涼しい山の中と同じだと思ってんなよ」

 凪は舌打ちまじりにつぶやき、麓を椅子に座らせ直した。熱中症にかかった際の手当てを思い出しながら重大なことに気づいて顔をしかめる。

 患者を涼しい格好にしなければいけないのだが。

(なんでこういう時に限って寮長がいねェんだよ…)

 凪はしゃがんで頭を抱える。彼女の荒い呼吸がすぐ間近で聞こえた。

 事は一刻を争う────は大げさだが、何にせよこの中の誰かがやらなければいけない。

「ちょいとコイツの襟を…」

「「それは私(俺が)!!」」

 真っ先に挙手して駆け寄ってきたセクハラ教師たちに肘打ちをくらわせると、2人は死んだカエルのように床の上で仰向けになった。

 光と焔は下心まみれの精霊を半眼で見下ろしてから遠慮気味に口をそろえた。

「やっぱりここは委員長がやるべきじゃないスか」

「僕も賛成。同じ和服だし」

 まさか自分がやる羽目になるとは────彼女の襟元をゆるめる役目を。

 凪は意を決して麓を抱え上げ、彼女の部屋のベッドへ運んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Eternal Dear5

堂宮ツキ乃
恋愛
花巻山(はなまきざん)の女精霊、麓(ろく)。  精霊が集まる学園に入学した彼女とイケメン風紀委員たちとの学園生活はドキドキさせられっぱなし? ──── リゾラバ(?)回が終わり、この季節には早すぎる夏休み後の学園になります。 自分には夏休みなんてものはないのでどうってことない! Twitter始めてみました。適当につぶやきます→@tsukinovels ──── 今夏はだいぶ暑いですね…。皆さん無理せずエアコンをお使いください。 台風もなかなか強烈でこれからまた怖いですが、どうか大きな被害が出ませんよう。 自分もご当地の商品を購入したり募金を続行します。

Eternal dear6

堂宮ツキ乃
恋愛
 花巻山(はなまきざん)の女精霊、麓(ろく)。  精霊が集まる学園に入学した彼女と、イケメン風紀委員たちとの学園生活はドキドキさせられっぱなし?  この時期にかいな、というまさかのクリスマスシーズンな回をお届け。  まさかの令和に入ってから、更新再開です。よろしくお願いします。前回の更新は去年の夏じゃないか。

Eternal Dear 9

堂宮ツキ乃
恋愛
 花巻山の女精霊、麓(ろく)。  精霊が集まる学園に入学した彼女と、イケメン風紀委員たちとの学園生活はドキドキさせられっぱなし?  風紀委員もとい天神地祇は、天災地変粛清のために"天"へ。  地上に残った麓は、天災地変のトップである零にさらわれ、彼のそばに置かれる。  天神地祇と天災地変の争い、麓の運命、結晶化された精霊たちはどうなるのか。  最終シリーズ、開幕。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Eternal Dear2

堂宮ツキ乃
恋愛
 花巻山(はなまきざん)の女精霊、麓(ろく)。  精霊が集まる学園に入学した彼女とイケメン風紀委員たちとの学園生活はドキドキさせられっぱなし? ──── エタディシリーズ第2弾です。 前作をご存知の方もそうでない方も! 乙ゲー化したいと密かな野望を抱いている一作。

Eternal Dear1

堂宮ツキ乃
恋愛
この世に存在するという精霊が、人の姿で彼らだけの学園に通っていたら? 主人公の女精霊、麓(ろく)のイケメンとの学園生活。 ──── 高校時代に書いた乙女小説(って言っていいのか謎)です。かなり長いです。他サイトからお引越ししました。 テーマは精霊。やっと気付いたけどある意味擬人化。 イケメンに飢えていたんだろな…だってタイプの男性あんなに出演させて← いつか乙女ゲームのブランドに入るのが密かな野望。

処理中です...