Eternal Dear4

堂宮ツキ乃

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6章

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 前波は何百年か前まで海水浴場だった。

 遥か昔は二河湾の幸がたくさん採れていたが今では漁業は行われていない。

 現在は市内で1番小さな地区となっているが、当時のにぎやかさの象徴が前波灯明台である。

 灯明台は江戸時代あたりに船の航海の安全を守るために建てられた。その光は10km先まで及んでいたという。

「私が生まれるずっと前からあるんですね…」

「今は廃止されているけどな」

 2人はそろってそれを見上げていた。

 凪はポツリポツリと説明した。その口調はどこか懐かしそうで寂しそうで。

 太陽に照らされた灯明台はまぶしく、思わず目を細める。

 遠くまで光を届けていたらしいが灯明台の高さは3mもない。

 近くには当時の様子が書かれた看板があり凪はその内容と同じことを話しつつ、当時の自分の視点で見たあれこれも織り交ぜた。

「…まぁこんな小さな村────町だから以上だな。海眺めてのんびりするヤツが多いトコだ」

「確かに…こっち来てからのんびりばっかりしてました…」

「たまにはいいんじゃね? おめーは特にいつも気ィ張り詰めて勉強してるようなヤツだから…。ここにいる時くらい何もかもから解放されていいだろ」

「そうですね」

「そんならじゃ、別荘に戻っか。3時になるしな」

「ですね…。凪さん、ありがとうございました」

 麓は小さく会釈をしたが特に反応はない。

 聞こえなかったのだろうか────と顔を上げると、凪は横を向いていた。

「…どうかしましたか?」

「なんでもねェ!」

「そうですか?」

 あきらかに挙動不審であるため、麓がいぶかしんでいると彼はこちらを向いた。その顔はかすかにむくれている。不機嫌面にも見えるが赤くなっているような…。

「こっち見んな!」

「…こっち見たの凪さんですよ?」

「うるせェ! とっととけーるぞ!」

 くるっと背を向けてスタスタと歩いて行ってしまった凪を見て、麓は首をかしげた。

 なんで照れた表情をしていたのだろう。

 100回中1回はデレるとか誰かが言っていた気がするけど────。

「来ねェのか? おいてくぞ」

「あ、はい!」

 まいっか、ということで麓は慌てて凪の後を追った。



 別荘に戻るまで凪は、海風に当たって火照った頬を冷やそうとしていた。

 なぜあの時自分がデレ────というか顔が赤くなったのか。

 理由はただ1つ。

 麓がずっと楽しそうに聞いていて、最後に笑顔で礼を言ってくれたから、だと思う。

 横を歩く麓はこれっぽっちもそんなことを思いつかないだろう。むしろ微塵も意識してなさそうだ。素直で純真で。知らないことを教えてもらう時のあの顔の輝きよう。何よりも見物だと思う。

 …というよりも、だ。

 誰かに昔話を聞かせていい反応が返ってくると、うれしくなっている自分。認めたくないが我ながらジジくさい気がする。相手は孫ではない。

 気をそらそうと海を眺めていると、うみねこが5羽ほど飛んでいる。さっきのがあの中にいるかもしれない。

「凪さん…あれ」

「ん?」

 不意に隣の麓が先方を指さした。別荘真正面の砂浜の方向らしい。そこには風紀委員と寮長がいた。

 寮長は日傘を差し長い手袋という完全日焼け防止状態で、シートを引いて座っている。

 光と焔は波打ち際にしゃがみこんで水中をのぞきこんでいた。おそらくヤドカリでも見ているのだろう。ここは潮が引けば小さなカニがたくさんいてアサリも採れる。

 蒼と霞は手で砂をすくっては1ヶ所にさらさらとこぼしている。山を作っているかと思ったが、砂を平面上にならしているからそうでもないらしい。

 扇は貝がらが打ち上げられている場所を木の棒でつついていた。たまーにきれいな貝がらがあることも。

 彼らに合流しようと2人は彼らの元へ歩いて行った。

 いち早く気づいたらしい寮長が傘を持ったまま振り向く。

「おかえりなさいませお二方。今日はどちらに行かれたんですの?」

「灯明台見てきた。歴史の勉強だ」

「そうだったのですか。麓様、いかがでしたか?」

「おもしろかったし、楽しかったです」

 すると風紀委員たちがこちらにやってきた。海で手を洗ったらしい蒼と霞はパンパンと手を叩いている。

「エイの死体が打ち上げられていたんで埋めてあげました。…そうだ、凪さんも埋めてやりましょうか? この時間は1番暑いからいい感じに砂風呂になりますよ…それに今年はびっくりするくらいの猛暑ですし…」

「おい! 勧め方! 目の下にクマ作りながら言うヤツがいるか!」

「いますよ、ここに」

「開き直ってんじゃねー! っつーかこんなトコで誰が砂風呂なんてやるか!」

 蒼と凪、お互いに舌打ちをして顔をそらす。

 一方の光と焔は、手の平をお椀にしてその中に海水とヤドカリを入れて麓に見せていた。

「ちょっと可愛いかも」

 麓は初めて見る海の生物に見入っていた。小さなヤドカリをためらいがちにチョン、と指でつつくとあっという間に貝の中に身を隠した。

「隠れ身の術みたい…」

「あはは! ロクにゃん変わった表現をするね!」

 その後ヤドカリは沖田家から借りてきた(昔、真緒が夜店ですくった金魚を飼っていた)金魚鉢に入れ、滞在している間に彼らの心を和ませた。
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