Eternal Dear4

堂宮ツキ乃

文字の大きさ
上 下
13 / 21
4章

しおりを挟む
 別荘のすぐそばには和風の作りの沖田家が建っている。

 凪は海風に軽く髪を煽られながら沖田家のチャイムを鳴らす。

 ピンポーン、という軽快な音の後にドタバタと走ってくる気配がし、引き戸が開いた。

「凪兄!」

「梨音か。悪ィんだけど櫛とゴキブリホイホイねェか? じーちゃんかとーちゃんかーちゃんに聞いてくれ」

「わかった! お母さーん~凪兄がね~」

 梨音はデカい声を発しながらドタバタと戻っていった。

 取り残された気分の凪は中に入って戸を閉め、玄関先に腰を下ろした。再び足音が返ってきたので振り向くと、来たのは梨音ではなくその姉、麻緒。

「なっぎに~いぃ~」

「お。麻緒か。相変わらずオタクなのか?」

 凪がおどけて片頬を上げて見せると麻緒はムッとして不平な声を上げた。

「何それ! 久しぶりに会って第一声がそれぇ!?  確かにオタ充キメてるけど…もっと気の利いたことの1つや2つ言ってくれてもよくない!? カスミンは"去年よりキレイになったね"って言ってくれたのに…」

「そりゃおめー…お世辞だろーが。アイツは社交辞令でそういうこと誰にでもしょっちゅう言ってるぞ」

「それでも別にいいのー。本心じゃなくても嬉しいもん」

 麻緒はツンっと顔をそらして腰に手を当てた。

「っつーか梨音は? 頼んだモンがあるんだけど」

「あーうん。ゴキブリホイホイならすぐにあったけどブラシがなくて。今、沙奈さな姉の部屋を物色してる。使ってない新品があるはずって言ってるよ」

「マジでか。頼むぞー。ウチの風紀委員が困ってるから…」

 沙奈はきょうだいの中で1番上の19歳。今大学生で彼氏がいるというリア充だ。

「急にすまん、ありがとな」

 やって来たのは麻緒を大人っぽくした姿の姉、沙奈。その後を梨音がちょこちょことついてきている。

 沙奈は包装されたままの櫛を差し出した。持ち手の裏側には宝石を思わせるプラスチックの装飾品が埋め込まれている。麓も喜びそうだ。

「うーうん、いいの。よかったらそのままもらっちゃって。私からのプレゼントということで」

「わかった。お礼はまた持ってくるわ」

「あ! じゃあ緑髪のコを連れてきてよ。女の子の精霊と話してみたい」

「お~…アイツか。 会ったのか? よく知ってんな」

「うん、お母さんから聞いた」

「そっか。とりあえず今日はおやすみ」

「「「おやすみ!」」」

 凪は3人に見送られて別荘へ向かった。



 焔と光はコンビニから帰ってきて、扇と霞もやっと目が覚めた。なぜか冷たい廊下の隅に放り投げられており、服にはホコリがくっついていた。

 脱衣所からどのようにしてこんな状況になったのか…。2人は襟が伸びてシワになっているのを直しながら頭をひねった。

 唯一分かったのは鼻血の正体。麓の悲鳴が聞こえて真っ先に駆けつけて目にとびこんできたのは────

「ヤバい。思い出したらまた鼻血出そう…」



 2人が血を洗い流して和室に入ると、焔と光はアイスを食べていた。

「あ、お2人さん。しばらく姿を見ないと思ってたんスけど…。どこにいたんスか?」

「う~ん…。気にするな」

 細かい説明が面倒なので扇はお茶を濁した。いい歳して鼻血なんて恥だろう。

「そーいや他のメンツは? 特に麓ちゃん」

「寮長はお風呂掃除でナギりんとアオくんとロクにゃんはそっちの和室にいるよ」

「何その変な組み合わせ。ま、いいや…」

「いやよくねェ。何してんの3人で!」

 扇がスパンッと襖を開けると、麓はすでにパジャマ姿。その彼女は畳の上で正座をして長い髪を梳かしている。前には蒼が大きな手鏡を持ち、凪はゴキブリホイホイを部屋の四隅に設置していた。

 その彼は蔑んだ目で2人のことを見る。

「…なんだおめーら起きたのか。変態×2」

「「やめろその不名誉な呼び方!」」

 2人同時に抗議すると、髪を梳かし終わったらしい麓がおずおずと声をかけた。

「あの…先程はお見苦しい所をお見せし、申し訳ございませんでした」

「いやいやいや!大丈夫、気にしてないから!」

「そだよ。むしろ目の保養だしこれからたまに拝ませてもらえたら…」

「ほざけ。もっかい廊下で寝るか? あん?」

「どこの田舎のヤンキーだよ…」

 そんな中、麓は扇と目を合わせないように目を伏せた。頬はほんのりと赤い。

「どしたの? 麓ちゃん」

「あ…あっ! いえ! そろそろ寝ようかと思っただけです」

「あーそう? じゃあ俺と一緒に────」

「いやいやそこは私が────」

「もうおめーら2人ここ出禁!!」

 凪の怒声と蹴りで扇と霞は強制退場させられ、麓と寮長の和室はやっと静かになった。

 蒼は部屋から出る直前に振り向いてほほえんだ。

「おやすみなさい、麓さん。ごゆっくり」

「ありがと、蒼君」

 麓もほほえみ返し、もらったブラシを大切そうにそっと置いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結【R―18】様々な情事 短編集

秋刀魚妹子
恋愛
 本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。  タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。  好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。  基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。  同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。  ※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。  ※ 更新は不定期です。  それでは、楽しんで頂けたら幸いです。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

ざまぁでちゅね〜ムカつく婚約者をぶっ倒す私は、そんなに悪役令嬢でしょうか?〜

ぬこまる
恋愛
王立魔法学園の全校集会で、パシュレミオン公爵家長子ナルシェから婚約破棄されたメルル。さらに悪役令嬢だといじられ懺悔させられることに‼︎  そして教会の捨て子窓口にいた赤ちゃんを抱っこしたら、なんと神のお告げが……。 『あなたに前世の記憶と加護を与えました。神の赤ちゃんを育ててください』 こうして無双魔力と乙女ゲームオタクだった前世の記憶を手に入れたメルルは、国を乱す悪者たちをこらしめていく! するとバカ公爵ナルシェが復縁を求めてくるから、さあ大変!? そして彼女は、とんでもないことを口にした──ざまぁでちゅね 悪役令嬢が最強おかあさんに!? バブみを感じる最高に尊い恋愛ファンタジー! 登場人物 メルル・アクティオス(17) 光の神ポースの加護をもつ“ざまぁ“大好きな男爵令嬢。 神の赤ちゃんを抱っこしたら、無双の魔力と乙女ゲームオタクだった前世の記憶を手に入れる。 イヴ(推定生後八か月) 創造神ルギアの赤ちゃん。ある理由で、メルルが育てることに。 アルト(18) 魔道具開発をするメルルの先輩。ぐるぐるメガネの平民男子だが本当は!? クリス・アクティオス(18) メルルの兄。土の神オロスの加護をもち、学園で一番強い。 ティオ・エポナール(18) 風の神アモネスの加護をもつエポナ公爵家の長子。全校生徒から大人気の生徒会長。 ジアス(15) 獣人族の少年で、猫耳のモフモフ。奴隷商人に捕まっていたが、メルルに助けられる。 ナルシェ・パシュレミオン(17) パシュレミオン公爵家の長子。メルルを婚約破棄していじめる同級生。剣術が得意。 モニカ(16) メルルの婚約者ナルシェをたぶらかし、婚約破棄させた新入生。水の神の加護をもち、絵を描く芸術家。 イリース(17) メルルの親友。ふつうに可愛いお嬢様。 パイザック(25) 極悪非道の奴隷商人。闇の神スキアの加護をもち、魔族との繋がりがありそう──? アクティオス男爵家の人々 ポロン(36) メルルの父。魔道具開発の経営者で、鉱山を所有している影の実力者。 テミス(32) メルルの母。優しくて可愛い。驚くと失神してしまう。 アルソス(56) 先代から伯爵家に仕えているベテラン執事。

処理中です...