Eternal Dear 9

堂宮ツキ乃

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1章

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 あの頃、らいを失ってからすぐは、何をしようにも気力が湧かなかった。

 そんななぎを見かねてアマテラスがこう言った。

────学園で精鋭を集めるのはどうじゃ。天災地変についてはわしも頭を悩ませておる。だが、わしはあやつらを粛正することはできない。そこでお前さんが代わりに粛正してくれたらありがたい。他の精霊のためにも…な。

 そこで生まれたのが風紀委員兼、対天災地変てんさいちへん用部隊『天神地祇てんじんちぎ』。

 発足してからすぐに仲間になったのがおうぎかすみ。当時すでに八百万学園で教師として働いていた2人は、凪と長年の付き合いだ。3人とも同い年である。

 彼ら2人は雷のことも知っている。何だったら会ったこともある。凪が実は彼女を好きで告白して玉砕したことも。そのことでからかったら殺されそうになった。あの時の凪の目は殺人鬼そのものだった。

 それから加わったのはあおい。精霊の中で高貴である”天”の精霊であり、風紀委員の最年少だ。彼は雷にとって弟のような存在で、凪とも実は古い付き合いである。

────僕よりずっと年上なのに大人げないですね。

 彼は生まれた時から毒舌キャラだった。特に凪に対して。

 雷の前ではおとなしいが、凪や他の精霊がその場に加われば可愛げがなくなる。凪にとっては憎たらしい後輩でもある。

 蒼はまだ学園に入学していなかったが、”天”ということもあり社会勉強として時々学園に遊びに来ていた。

 その頃凪たちは男子寮や教師寮で過ごしていたが、アマテラスの計らいによって風紀委員寮が設置された。

 そして同時にやってきたのが寮長。

 彼女は美形な男4人を目の前にしてもとろけることはなかった。いつも明るく快活にふるまっている。

 アマテラスからは人間の女性だと紹介された。本人は本名を名乗ることはせず、寮長とお呼び下さいとだけ話した。

 蒼はすぐに彼女に懐き、寮長と共に凪をからかって遊んだ。その光景はまるで雷が戻ってきたようだった。

 初めこそ珍しい人間の女性に、扇と霞は甘くささやいていたのだが。

────私、誓い合った殿方がいますので。

 と、交わされた。

 それからしばらくし、ほむらひかると新入生がやってきた。

 今のにとって新しいタイプと珍しいタイプといううことで、凪は2人を早々にスカウト。

 彼らはあの行ける伝説、精霊最強と名高い男から声を掛けられたことに驚いたが、喜んで入隊した。

 そして今に至るのだが────凪がなかなか卒業できないことが、風紀委員寮で過ごす一員の頭を悩ませていた。

 いい歳をしているというのに授業をサボったり、提出物に手をつけようとしなかったり。進級も一苦労であった。

 おまけに一時はあきらと会う度に殺し合い並の喧嘩を繰り広げていた。のちに、風紀委員長のくせに校内で喧嘩というのは他の生徒に示しがつかないと言われてやっと落ち着く。

 留年期間は増え続ける一方で、おそらくこの先100年は卒業できないだろう…と言われている。



 そして今。彼らはついに、天神地祇として本格的な活動を始めた。

 天災地変の粛正。

 過去に”天”や力のある精霊が有志で零に向かい、全面戦争になった。凪ももちろん、その戦争に参加した。

(チッ…片付かねェじゃんかよ…!)

 凪は舌打ちしながら額の汗を拭った。

 ここ────天災地変のアジトに来たばかりの時は雑魚同然の零の部下たちが相手だったが、今は中堅レベルの部下たちだ。雑魚ほど人数は多くはないが、クナイはもちろん刀を扱う者も現れた。

「おい彰。それ、四丁とかにならねェのか」

「バカ言え。なったところで誰が扱える」

 背中を合わせた2人は、同時に目の前の敵をそれぞれの武器化身ぶきけしんで迎え撃つ。

 凪は海竜剣かいりゅうけんで。彰は暗黒銃あんこくじゅうで。過去の因縁で2人は仲が悪いが、戦場ではいいタッグだ。それを言われたら2人は不機嫌になる。

「気合いで増やせェ!」

「できるわけねーだろバカが」

「腕生やせ。背中から2本」

「俺は精霊だ。バケモンじゃねー」

 どうでもよさげなことを言い合っていると、凪の頬をクナイがかすめていった。

 傷口が熱い、と思った時にはもう治っている。はずなのだが。

「治りが悪くなってきやがった…」

 凪は傷口がひりひりするのを感じた。それ以外にも治りきっていない生傷がいくつもある。いつもだったらこの程度の傷は一瞬で消える。長引く戦闘の中で傷を治しすぎ、治癒力が弱くなってきているのかもしれない。睡眠ももちろんとっているが、これからの戦法はどのようにしたらいいのか…と考え過ぎて夜に何度も目が覚める。

 もうこの先何年分の傷を負って治しているのだろう。

 凪がまとめて2人薙ぎ払った瞬間。

「凪さァん!」

「ンだァ!?」

「光が…!」

「あ?」

 らしくない焔の叫びに、凪がバカデカく返すと、今度は弱しい声で返ってきた。

 ちらりと後ろを見ると、焔が光のことを抱きかかえて敵を炎で追い払っていた。

「ちくしょう…来んなって!」

 腕の中の光は頭をもたれかけてぐったりとしている。凪は2人の元まで敵に峰打ちをくらわせ続け、片隅で焔としゃがんだ。

 彰がいつの間にか背後に現れ、拳銃をぶっ放してクナイを落とす。

「光…?」

「さっき連続で何人も相手にして…最後に妙な輝きを出して突然倒れたんです」

「…無茶したな」

 横たわった光に凪は心配そうに眉を寄せながらも、背後から襲い掛かろうとする敵に海竜剣を突きつける。そこへ蒼と霞が猛ダッシュで駆け寄った。

「大丈夫ですか!?」

 肩で息をしている蒼は制服の袖をまくってブレスレットを出した。その袖もほつれてきている。

「光さんを”天”に送ります。霞さん、この辺りを囲ってもらえますか」

「…霞装壁むそうへき

 蒼と光だけが白い霧の中に包まれた。それはただの霧に見えるがふれれば固い。しかし持続時間は限られており、光が”天”に送られてしばらく経てば消えるだろう。

 扇も近くにやってきて、武器化身である扇子で敵やクナイを高く舞い上げた。彼はジャケットもネクタイもしていなかった。戦闘で服はボロボロになる。恐らく脱ぎ捨てたのだろう。

 扇の舞風扇まいふうせんで敵は徐々に遠ざかり、舞い上げられて落下して体に打撃が与えられる。そのまま気絶している者もちらほら。

 敵がほんの少しだけ減った。天神地祇が一ヶ所に集まったことで、天災地変は様子を伺っている。すぐに攻撃に移らないようだ。

「ついにこっちにも被害が出たか…」

「…あぁ」

 扇は光のことを言葉少なく心配した。凪も海竜剣を下ろして息を吐く。

 自分たちもいつ、光のように倒れるか分からない。先に敵に殺られる可能性だってある。

 雲行きが怪しくなってきた。
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