12 / 14
時をかけるコスプレイヤーと侍と隣人
終
しおりを挟む
「何その女神とか死神とかとある一族とか! 聞いててめっちゃ楽しいんだけど」
「こら。作り話じゃない、ノンフィクションだぞ」
「ごめんてごめんて」
涙が止まったレイコは、瞳を輝かせて話を聞いていた。アニメのような展開と吉高の過去がエモすぎて、映画が一本作れると思った。
「一族の人、ただ吉高さんを置いていったわけじゃないんだね。普通の人間として暮らせるようにしてくれたんだ。お糸さんとノリさんに聞いて気になってたからさ……。良かった良かった」
うんうんとうなずいたレイコは、改めて黒鷹のことを見上げる。
「で? それからどうしたの?」
「皆に事情を話したよ。俺は未来に行くことにしたって。お糸とノリさんは泣いていたが、玉彦はレイコによろしく、って。忠次様はレイコのようにこの時代に飛ばされたらまた酒を酌み交わそうとおっしゃっていた」
「わー言いそう」
「残念ながら記憶を保持してたわけじゃないけど。レイさんに初めて会った時、懐かしい気がしたんだ。よく言う、前世で会ったのかなとか運命の人かなって。それでレイさんのことばっか見てたら、意外と仕草が女らしいって気付いて」
「意外とってなんだ。分かってるけど!」
ごめん、と笑った黒鷹は、二人のシートベルトを外した。左腕でレイコの肩を抱き寄せ、右手は彼女の後頭部に添えている。
「……好きだ。もう一度好きになってた。俺があの二人の神に願ったのはレイコと生きたい、なんだ。まだ叶ったとは言えない」
黒鷹が何を言おうとしているのか、経験が浅いレイコでも察した。
じわじわと体が熱くなってくる。そんな彼女の手を、黒鷹はそっと握った。
「俺と一緒に生きてほしい。……いいだろうか」
「いいに決まってるじゃない……」
再びこぼれた涙を止めるように、黒鷹はレイコのまぶたにキスを落とした。
およそ四百年前────想いを通わすも、結ばれることが許されなかった二人。
時が流れ、こうして再び巡り会えたことを運命と言って何が悪い。レイコは黒鷹の胸にしがみついた。
「もう会えないと思ってた……。きっとこれで一人で生きて行くんだろうな、って。元々こういうこととは縁遠かったから」
「俺が人間なら問題ない。もう突き放さないから……。レイさんが嫌だって言っても離さない」
「絶対? "俺たちは歳で隔たれているんだ……"とか重々しく言わない?」
「言わない。……その節は本当に申し訳ない」
「ていうか好きなら好きって早く言ってよ! そしたら付き合ったりして……黒鷹の前世ー! って違う楽しみ方できたかもしれないのに!」
「……そう言う辺り本当におもしれー女だな」
笑い合った後、沈黙が流れた。
どちらからともなく目を合わせると、衝動的に唇を重ねていた。求め合うように指を絡め合い、互いの距離が改めて縮まった。
シーツのひんやりとする感覚と、包丁で何かを刻む音で目が覚めた。
レイコは目を瞬せ、前髪をかきあげて時計を探した。
(そーいや自分の家違うわ……)
布団にくるまり、ベッドから降りて自分のバッグをあさった。
時刻は8時過ぎ。仕事が休みだからこそ起きられる時間。
家の主はもう起き出しているようで隣にいない。
寝室の扉を開けるとキッチンに立つ黒鷹の後ろ姿があった。同時にあたたかないい香りが広がった。
一人暮らしは長いと聞いていたが、朝から手の込んだ朝食を作るなんてなかなかやる。
レイコは一回り大きなシャツのボタンを留めながら、改めて寝室の取っ手に手をかけた。
「おはよ。くろた────」
『俺、今は黒瀬貴義って言うんだ』
『吉高をひっくり返しただけ?』
『……俺もそう思う』
「おはよ貴義!」
「わ!? おはよう。びっくりした……」
冷蔵庫の前に立った彼をレイコは抱きしめた。広く大きな背中が目の前にあり、当たり前のようにこうしてふれられることが嬉しい。
黒鷹もとい貴義は、レイコの突然の行動で冷蔵庫に軽く衝突した。
テーブルを見るとオムレツにサラダ、トースト、コーンスープが二人分並べられている。
昨日のイベントのことを話しながら食し、食後のコーヒーを飲んだレイコは一口でハッとした表情になった。
「やっぱ家にコーヒーメーカーあるのいいな……。ウチも買おっかな」
「ここで淹れて飲めばいいじゃん」
「いちいち来るのウザくない? あたしもめんどくさいし」
再びカップに口をつけると、貴義はわざとらしくため息をついた。
「何よそのため息。何気腹立つ」
「あ~……」
貴義は苦笑いをしてカップを置き、レイコの瞳をじっと見つめる。その真剣な表情につられてか、レイコもカップを持った手を下げた。
「……何よ」
「昨日言質取ったつもりなんだけどな……」
「えっ?」
「その……俺と一緒に生きてほしい、って」
「あ……」
レイコは車内での会話を思い出し、テーブル上のいちごジャムのように赤くなった。
明確に付き合ってほしいとか結婚したいとか言われたわけではないので、貴義には悪いが深く捉えていなかった。
「ごめん、レイコがそこまで考えてないなら昨日のはなかったことにしよう。俺も唐突すぎ……」
「いいよ」
「へっ?」
「時代は違ったとは言え、もう同居した仲だし」
貴義の珍しい素っ頓狂な声に、レイコは肩をすくめて笑ってみせた。
「それに私は……吉高さんだろうが貴義だろうが好きだよ。何を迷う必要があるの?」
彼女が首をかしげると、貴義はフッと瞳を閉じてほほえんだ。
「……それもそうだな」
レイコは柔らかい表情で口角を上げた。
彼氏、もとい結婚相手は侍からコスプレイヤーに生まれ変わった男。
一度悲しみを刻みつけられたが、時を越えて想いを届けに来てくれた。
レイコは頬杖をつき、穏やかな表情で目を閉じた。
(幸せって初めて思ったかも……)
今までまともに好きな人ができなかったのはこの日のためか。
黒鷹もとい、吉高もとい、貴義に出会うため。
小説やアニメのような運命的な恋が自分の元におりてくるなんて。
レイコの突然の笑顔に貴義は頭の上に”?”を浮かべている。そんな彼が愛しくて”にひひ”と笑いをこぼした。
Fin.
「こら。作り話じゃない、ノンフィクションだぞ」
「ごめんてごめんて」
涙が止まったレイコは、瞳を輝かせて話を聞いていた。アニメのような展開と吉高の過去がエモすぎて、映画が一本作れると思った。
「一族の人、ただ吉高さんを置いていったわけじゃないんだね。普通の人間として暮らせるようにしてくれたんだ。お糸さんとノリさんに聞いて気になってたからさ……。良かった良かった」
うんうんとうなずいたレイコは、改めて黒鷹のことを見上げる。
「で? それからどうしたの?」
「皆に事情を話したよ。俺は未来に行くことにしたって。お糸とノリさんは泣いていたが、玉彦はレイコによろしく、って。忠次様はレイコのようにこの時代に飛ばされたらまた酒を酌み交わそうとおっしゃっていた」
「わー言いそう」
「残念ながら記憶を保持してたわけじゃないけど。レイさんに初めて会った時、懐かしい気がしたんだ。よく言う、前世で会ったのかなとか運命の人かなって。それでレイさんのことばっか見てたら、意外と仕草が女らしいって気付いて」
「意外とってなんだ。分かってるけど!」
ごめん、と笑った黒鷹は、二人のシートベルトを外した。左腕でレイコの肩を抱き寄せ、右手は彼女の後頭部に添えている。
「……好きだ。もう一度好きになってた。俺があの二人の神に願ったのはレイコと生きたい、なんだ。まだ叶ったとは言えない」
黒鷹が何を言おうとしているのか、経験が浅いレイコでも察した。
じわじわと体が熱くなってくる。そんな彼女の手を、黒鷹はそっと握った。
「俺と一緒に生きてほしい。……いいだろうか」
「いいに決まってるじゃない……」
再びこぼれた涙を止めるように、黒鷹はレイコのまぶたにキスを落とした。
およそ四百年前────想いを通わすも、結ばれることが許されなかった二人。
時が流れ、こうして再び巡り会えたことを運命と言って何が悪い。レイコは黒鷹の胸にしがみついた。
「もう会えないと思ってた……。きっとこれで一人で生きて行くんだろうな、って。元々こういうこととは縁遠かったから」
「俺が人間なら問題ない。もう突き放さないから……。レイさんが嫌だって言っても離さない」
「絶対? "俺たちは歳で隔たれているんだ……"とか重々しく言わない?」
「言わない。……その節は本当に申し訳ない」
「ていうか好きなら好きって早く言ってよ! そしたら付き合ったりして……黒鷹の前世ー! って違う楽しみ方できたかもしれないのに!」
「……そう言う辺り本当におもしれー女だな」
笑い合った後、沈黙が流れた。
どちらからともなく目を合わせると、衝動的に唇を重ねていた。求め合うように指を絡め合い、互いの距離が改めて縮まった。
シーツのひんやりとする感覚と、包丁で何かを刻む音で目が覚めた。
レイコは目を瞬せ、前髪をかきあげて時計を探した。
(そーいや自分の家違うわ……)
布団にくるまり、ベッドから降りて自分のバッグをあさった。
時刻は8時過ぎ。仕事が休みだからこそ起きられる時間。
家の主はもう起き出しているようで隣にいない。
寝室の扉を開けるとキッチンに立つ黒鷹の後ろ姿があった。同時にあたたかないい香りが広がった。
一人暮らしは長いと聞いていたが、朝から手の込んだ朝食を作るなんてなかなかやる。
レイコは一回り大きなシャツのボタンを留めながら、改めて寝室の取っ手に手をかけた。
「おはよ。くろた────」
『俺、今は黒瀬貴義って言うんだ』
『吉高をひっくり返しただけ?』
『……俺もそう思う』
「おはよ貴義!」
「わ!? おはよう。びっくりした……」
冷蔵庫の前に立った彼をレイコは抱きしめた。広く大きな背中が目の前にあり、当たり前のようにこうしてふれられることが嬉しい。
黒鷹もとい貴義は、レイコの突然の行動で冷蔵庫に軽く衝突した。
テーブルを見るとオムレツにサラダ、トースト、コーンスープが二人分並べられている。
昨日のイベントのことを話しながら食し、食後のコーヒーを飲んだレイコは一口でハッとした表情になった。
「やっぱ家にコーヒーメーカーあるのいいな……。ウチも買おっかな」
「ここで淹れて飲めばいいじゃん」
「いちいち来るのウザくない? あたしもめんどくさいし」
再びカップに口をつけると、貴義はわざとらしくため息をついた。
「何よそのため息。何気腹立つ」
「あ~……」
貴義は苦笑いをしてカップを置き、レイコの瞳をじっと見つめる。その真剣な表情につられてか、レイコもカップを持った手を下げた。
「……何よ」
「昨日言質取ったつもりなんだけどな……」
「えっ?」
「その……俺と一緒に生きてほしい、って」
「あ……」
レイコは車内での会話を思い出し、テーブル上のいちごジャムのように赤くなった。
明確に付き合ってほしいとか結婚したいとか言われたわけではないので、貴義には悪いが深く捉えていなかった。
「ごめん、レイコがそこまで考えてないなら昨日のはなかったことにしよう。俺も唐突すぎ……」
「いいよ」
「へっ?」
「時代は違ったとは言え、もう同居した仲だし」
貴義の珍しい素っ頓狂な声に、レイコは肩をすくめて笑ってみせた。
「それに私は……吉高さんだろうが貴義だろうが好きだよ。何を迷う必要があるの?」
彼女が首をかしげると、貴義はフッと瞳を閉じてほほえんだ。
「……それもそうだな」
レイコは柔らかい表情で口角を上げた。
彼氏、もとい結婚相手は侍からコスプレイヤーに生まれ変わった男。
一度悲しみを刻みつけられたが、時を越えて想いを届けに来てくれた。
レイコは頬杖をつき、穏やかな表情で目を閉じた。
(幸せって初めて思ったかも……)
今までまともに好きな人ができなかったのはこの日のためか。
黒鷹もとい、吉高もとい、貴義に出会うため。
小説やアニメのような運命的な恋が自分の元におりてくるなんて。
レイコの突然の笑顔に貴義は頭の上に”?”を浮かべている。そんな彼が愛しくて”にひひ”と笑いをこぼした。
Fin.
0
あなたにおすすめの小説
戦国鍛冶屋のスローライフ!?
山田村
ファンタジー
延徳元年――織田信長が生まれる45年前。
神様の手違いで、俺は鹿島の佐田村、鍛冶屋の矢五郎の次男として転生した。
生まれた時から、鍛冶の神・天目一箇神の手を授かっていたらしい。
直道、6歳。
近くの道場で、剣友となる朝孝(後の塚原卜伝)と出会う。
その後、小田原へ。
北条家をはじめ、いろんな人と知り合い、
たくさんのものを作った。
仕事? したくない。
でも、趣味と食欲のためなら、
人生、悪くない。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる
鷹 綾
恋愛
永遠の十七歳――
それは祝福ではなく、三百年続く“呪い”だった。
公には「名門イソファガス家の孫娘」として知られる少女キクコ。
だがその正体は、歴史の裏側で幾度も国を救ってきた不老の元聖女であり、
王家すら真実を知らぬ“生きた時代遺産”。
政治も権力も、面倒ごとは大嫌い。
紅茶と読書に囲まれた静かな余生(?)を望んでいたキクコだったが――
魔王討伐後、王位継承問題に巻き込まれたことをきっかけに、
まさかの王位継承権十七位という事実が発覚する。
「……私が女王? 冗談じゃないわ」
回避策として動いたはずが、
誕生した新国王アルフェリットから、なぜか突然の求婚。
しかも彼は、
幼少期に命を救われた“恩人”がキクコであることを覚えていた――
年を取らぬ姿のままで。
永遠に老いない少女と、
彼女の真実を問わず選んだ自分ファーストな若き王。
王妃になどなる気はない。
けれど、逃げ続けることももうできない。
これは、
歴史の影に生きてきた少女が、
はじめて「誰かの隣」を選ぶかもしれない物語。
ざまぁも陰謀も押し付けない。
それでも――
この国で一番、誰よりも“強い”のは彼女だった。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる