Eternal Dear5

堂宮ツキ乃

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2章

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(しばらく僕は…ロクちゃんに深く関わっちゃいけない…。ロクちゃんの傍にずっといるのもダメなんて。どうしたらいい?…どうしたら、いつものロクちゃんに戻る?)

 帰りのホームルームの後。教室から外を眺めている光は、痛々しい胸の中でそう考えていた。

 視線の先には、1人で立ち尽くしている麓。

 彼女の机とイスが見つかったのだ。

 場所は花巻山側の森の中。学園からさほど遠くない所に文字通り打ち捨てられていた。

 発見者は用務員のおじさん。学園に迷い込んだ野ウサギに道案内をしていた所、偶然見つけたらしい。

 女子生徒の机といすが無くなった、という話を扇は職員全員に知らせていたのでおじさんはすぐにそれだと分かった。

 衝撃で動けないでいる麓の代わりに教室へ運んでいく。昇降口から現れた嵐たちが彼女へ駆け寄った。

(おじさんの代わりに僕がやってあげられたら良かったのに…)

 遠くから麓のことを見守ることしかできない光ほもどかしさを抱えるだけ。

 本当は凪の言ったことを無視して今すぐ麓の傍にいてあげたい。

 最近、彼女の元々細い背中はさらに小さく見えるようになってきた。

 麓のことを抱きしめて自分が守るからと安心させたかった。

 光は1人、窓枠の上で拳を握りしめた。



 ある日の体育の授業。

 夏休みが明けてからはバドミントンを行っている。最初の頃は麓も楽しんでやっていた。

 3年生にはバドミントン部が2人おり、彼女たちが中心になってクラスメイトに手ほどきしていた。

 その日の麓は授業を見学することにした。目覚めてから頭痛がひどかったから。

 体操服にだけ着替え、体育館の壁際で1人、体育座りをしておとなしくしている。たまにぼんやりと試合を見ながら。

 やはりと言うべきか、運動神経抜群の嵐はここでも活躍を見せていた。

 やがて授業の終わりに近づくとコートの片付けが始まった。

 1人だけ何もせず見学して終わり、というのはずるいと思い、麓は片付けに参加した。

 体育は基本、全学年が同じ種目を同時期に行う。なので朝一の学年が準備をし、その日最後の学年が片付けるということになっている。

「麓さん、悪いんだけどこれ…頼んでもいいかしら」

 授業終わりギリギリまで片付けがかかり、慌てて戻る生徒が多い中、麓は立花にシャトルが入ったカゴを渡された。

 なんでさっき片付けなかったんだろう、という疑問が浮かんだがすぐに消えた。頼まれたことは引き受けてしまう麓の性分のせいかもしれない。

「いいですよ」

「本当? ありがと。私、次の授業の準備を先生に頼まれていて。急いで戻らないと間に合いそうにないの」

「そうだったんですね…」

「じゃっ、よろしく」

 申し訳なさそうな顔をした立花は足早に出口へ向かった。

 嵐たちも慌てて教室に戻っただろう。理由は提出物が終わってないから。

 光は────最近、学校ではあまり話していない。

 話しかけられる回数が少なくなり、一緒にいる時間も減った。

 理由は分からない。でも、もしかしたら…と思う。今の状況では近づきたくないのかな、と。

(その方がいいよね。光君が巻き込まれるのは嫌…)

 光だけじゃない、嵐や蔓や露もだ。誰かが自分みたいな目に遭っている姿は見たくない。

 生徒の数が減ったのを感じながら、麓は倉庫の重い鉄の引戸を少しづつ開け、自分が通れるだけの隙間を作って体を滑り込ませた────その時だった。

 倉庫の中へ背中を押され、不意をつかれたせいかよろめいて床に手をついた。シャトルは周りに散らばった。

「痛っ…。あっ…!」

 その瞬間、鉄の扉が閉まって光が遮断された。

 暗闇の中にいることで反射的に虹彩が広がり、瞳自体も大きく見開かれていくのが分かった。

(誰が…?)

 麓は手探りで扉に手をかけたがビクともしない。普段から簡単に開かない倉庫だが、ここまで動かないとなるとおかしい。 

────自分は閉じ込められた。何者かによって。

「や…やだっ…! 誰か、誰かいませんか!」

 叫びながらもう諦めていた。

 自分が倉庫へ向かっている時点でほとんどの生徒は体育館を出ていた。

 突如として恐怖が迫ってきて、麓は扉を拳で叩いた。だが返ってくるのは自分の声、扉を叩く自分の拳の音。

「誰…か」

(誰もいないの…?)

 それもやがてかすれる。麓は冷たい床にへたりこんだ。そして絶望に襲われた。 

 今日の学園の体育の授業はもう無い。部活が始まるまで、なんて待っていられない。

 ただでさえ最近は留年が積み重なっているのだから、これ以上増やしたくなかった。

 コホン。

 不意に咳き込み、麓は床に手をついた。

「ケホッ…ケホッ」

 次第に咳の回数は多くなり、音は濁ってひどくなっていく。

 喉はカラカラに渇き、痛いほど。

(も…ダメ、かな…)

 まさかここで死────。

 思考回路がダークゾーンに陥った瞬間、麓の意識は途切れて床に倒れ込んだ。
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