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7-2 わたしはあなたの side B
10 SATOR式
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「そういう……?」
「文字を書くこと自体が魔術だったんだよ」
しれっと紀美が言い放った。
「言葉は音として産まれて、その運用も、また多く音で行われた。その一方で書く事は音から離れて、図面として残すこと。言葉は飛び、記されたものは留まる。留まることこそ、異常だったんだ。だから、書くを意味するギリシャ語のγραφωを原義として、書かれたものを意味する魔導書、grimoireができて、そして英語の魅了のglamourと文法のgrammar、両方に繋がったんだ」
「それこそ、カバラのノタリコンも、結局文字がわからなきゃできない芸当でしたよね」
「ノタリコン?」
なんとなく、与謝蕪村の春の海の一句が織歌の頭に思い浮かぶが、絶対そうじゃない。
のたりのたりかな、じゃない。
ロビンがめちゃくちゃ呆れたような視線を送ってきてる気がするけど、気のせいのはずだ、そう気のせい。
「任意の文章の単語から頭文字だけ抽出して、それを単語として扱う、みたいなやつだよ。さっきちらっと言ったAGLAがそう。Ateh Gibor Le'olam Adonai、汝、永久に偉大なる主っていう」
「秋葉原がアキバになってAKBで通じる、みたいな?」
「それは、似て非なる、だな。単なる母音抜き、だから……」
「要するにアクロニムだよ。AIDSとか、ASEANとか」
「OPACとかNATOもそうですよね」
ロビンと弘が挙げた例に、ああ、アレか、と織歌は納得する、
「まー、ノタリコンの方が本格的な文章を縮めてはいるけど、理屈としてはそうだね。言葉の頭文字がわかってないとできない芸当ではある。他に文字でというと、それこそSATORスクエアになるかな」
「それって、さっき土星の護符がどうのって言ってたやつですよね」
「土星の第二護符ね」
置きっぱなしにされていたクリアファイルから、ロビンが一枚の紙を取り出す。
二重円の間にはヘブライ文字、そして内側の円の間には五✕五の正方形の桝目が書かれ、一枡に一文字のヘブライ文字が収まっている。
クリアファイルに残っていた紙を一枚、裏返しのまま取り出して、ロビンがメダルを振っていた紙を書くのに使った三色ボールペンを手に取った。
「この桝目の部分、アルファベットに転写すると、こうなる……いや、これがもともとアルファベットをヘブライ文字に転写してるんだけど」
言いながら、さらさらとロビンがペンを走らせ、五文字✕五文字の正方形が姿を現した。
SATOR
AREPO
TENET
OPERA
ROTAS
そして、さらに赤に切り替えたペンで、左上のSから右方向と下方向の両方に矢印を記す。
「左上から横に右下まで読んでも、左上から縦に右下まで読んでも同じ……?」
「文字の配置が斜めの軸で線対称だから、右下から左上に向けての横、縦も同じになるよ。縦にも横にも回文なんだ」
指で右下を指した紀美に合わせて、今度は青に切り替えたペンで、ロビンが右下に左方向と上方向の矢印を記した。
「これは……ラテン語ですか?」
「まあ、一応は、そう言われるんだけど……」
そう返してくる紀美の言葉は、何やら歯切れが悪かった。
「文字を書くこと自体が魔術だったんだよ」
しれっと紀美が言い放った。
「言葉は音として産まれて、その運用も、また多く音で行われた。その一方で書く事は音から離れて、図面として残すこと。言葉は飛び、記されたものは留まる。留まることこそ、異常だったんだ。だから、書くを意味するギリシャ語のγραφωを原義として、書かれたものを意味する魔導書、grimoireができて、そして英語の魅了のglamourと文法のgrammar、両方に繋がったんだ」
「それこそ、カバラのノタリコンも、結局文字がわからなきゃできない芸当でしたよね」
「ノタリコン?」
なんとなく、与謝蕪村の春の海の一句が織歌の頭に思い浮かぶが、絶対そうじゃない。
のたりのたりかな、じゃない。
ロビンがめちゃくちゃ呆れたような視線を送ってきてる気がするけど、気のせいのはずだ、そう気のせい。
「任意の文章の単語から頭文字だけ抽出して、それを単語として扱う、みたいなやつだよ。さっきちらっと言ったAGLAがそう。Ateh Gibor Le'olam Adonai、汝、永久に偉大なる主っていう」
「秋葉原がアキバになってAKBで通じる、みたいな?」
「それは、似て非なる、だな。単なる母音抜き、だから……」
「要するにアクロニムだよ。AIDSとか、ASEANとか」
「OPACとかNATOもそうですよね」
ロビンと弘が挙げた例に、ああ、アレか、と織歌は納得する、
「まー、ノタリコンの方が本格的な文章を縮めてはいるけど、理屈としてはそうだね。言葉の頭文字がわかってないとできない芸当ではある。他に文字でというと、それこそSATORスクエアになるかな」
「それって、さっき土星の護符がどうのって言ってたやつですよね」
「土星の第二護符ね」
置きっぱなしにされていたクリアファイルから、ロビンが一枚の紙を取り出す。
二重円の間にはヘブライ文字、そして内側の円の間には五✕五の正方形の桝目が書かれ、一枡に一文字のヘブライ文字が収まっている。
クリアファイルに残っていた紙を一枚、裏返しのまま取り出して、ロビンがメダルを振っていた紙を書くのに使った三色ボールペンを手に取った。
「この桝目の部分、アルファベットに転写すると、こうなる……いや、これがもともとアルファベットをヘブライ文字に転写してるんだけど」
言いながら、さらさらとロビンがペンを走らせ、五文字✕五文字の正方形が姿を現した。
SATOR
AREPO
TENET
OPERA
ROTAS
そして、さらに赤に切り替えたペンで、左上のSから右方向と下方向の両方に矢印を記す。
「左上から横に右下まで読んでも、左上から縦に右下まで読んでも同じ……?」
「文字の配置が斜めの軸で線対称だから、右下から左上に向けての横、縦も同じになるよ。縦にも横にも回文なんだ」
指で右下を指した紀美に合わせて、今度は青に切り替えたペンで、ロビンが右下に左方向と上方向の矢印を記した。
「これは……ラテン語ですか?」
「まあ、一応は、そう言われるんだけど……」
そう返してくる紀美の言葉は、何やら歯切れが悪かった。
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