上 下
257 / 266
7-2 わたしはあなたの side B

2 スライマーンの壺

しおりを挟む
そのロビンは、というと、まだ紙が何枚か残っているクリアファイルを抱えたままだ。
実際パターンを想定して準備している可能性もあるわけだし、多めに紙が残ってるのは問題ないだろう。
そうして状況を眺める織歌おりかの視界の端を、今椅子に腰掛けている珠紀たまきの見事な射干玉ぬばたまの黒髪よりも、もっと色濃くうるんだ、深い淵のような黒髪が、する、と踊った。

か。閉じ込めるとはむごいこと〉

織歌おりかの手元を、いつの間にかのぞき込んできていた。
この気紛きまぐれな、紀美きみいわくのところの外付け処理装置、あるいは二槽式洗濯機の脱水槽は、織歌おりかがたまたま見かけた和音わとの様子を見かねて、どうにかしようとした時に、バタ臭いの一言で一蹴いっしゅうし、ロビンを呼べとうながした張本人である。
結果的に、それは正しかったのだが。

おれが食うには大き過ぎるし、バタ臭いし獣臭い。となれば、まあ臭いものにふたかあ〉

の言う事と、事前に聞いていた話を総合するなら、最悪でも織歌おりかけがれを吸着する能力で、この紙にしるした器に入れたい、というところなのだろう。

つまるところ、織歌おりかが掃除機本体なら、この紙に記されているのは掃除機用紙パックである。
うーん、ゴーストバス、まで織歌おりかが思ったところで、思考をさえぎるように玄関が閉まる音がして、いくつか本をかかえた紀美きみが戻って来た。

「お待たせー」

いつものごとく、マイペースに紀美きみが言う。
この人は本当にいつも、良くも悪くも緊張感や切迫感というものがない。
だからといって泰然自若たいぜんじじゃくというには、軽いし柔らかい。類義語なら、春風駘蕩しゅんぷうたいとうが一番それらしいかもしれない。

「ロビン、結局どれ渡したの?」
「ワトには昨日渡した木星の第六The sixth pentacle護符of Jupiterがあるから、火星の第五The fifth pentacle 護符of Mars。タマキには木星の第三The third pentacle 護符of Jupiter土星の第一The first pentacle護符of Saturn。後は予定通り」
「土星の二は?」
「渡してない。それに土星の第二The second pentacle護符of Saturnというよりは、単純なSATOR SquareSATORスクエアの方が有用じゃない?」

織歌おりかがちょっと思考の寄り道をしている内に、紀美きみとロビンが話し込んでいる。
このあたりのやりとりがぽんぽん進んでいくのは、流石さすがとしか言いようがない。

「それもそうか……よし、そしたら、まず目標としては、グラシャ・ラボラスの影響をくすこと。珠紀たまきちゃん、これは言い換えればキミが彼を召喚した時の願望の破棄とも言える。それを肝に銘じてね」
「……はい」

珠紀たまきは純和風美人と言える容貌を固くしながら、紀美きみに答える。
さて、と紀美きみが少し考える素振りを見せながら、そのまま続ける。

「少しばかり、悪魔召喚についての講義をしようか」

七割方、織歌おりかのためだな、と織歌おりか自身は思う。残り三割は和音わとも巻き込むからだろう。
いや、内容によっては珠紀たまきへの補足も含むだろうが、少なくともロビンとひろすでにある程度知ってる範囲と考えるべきだ。

「悪魔召喚というものは、西洋のキリスト教体系が根本にあるオカルトだ。実際、悪魔召喚と言っても、呪文での呼びかけでは悪魔というよりは精霊に類する語が使われている場合が多い。恐らく、原義としてはギリシャの善悪内包した下級の神々をδαιμωνダイモーンが対象だった名残なごりと考えていいだろう。どっちにしろ、唯一絶対の神をいただくアブラハムの宗教の観点からは下級なる存在は、正当とは見倣みなせない……実際、それらを天使として取り込んで後、天使に対する信仰の過熱化が見られたからこそ、会議で天使の大半は堕天使であると声明を出すにいたったわけだしね。具体的な召喚方法の確立や是非の立ち位置がどうあれ、ソロモン王に付随ふずいする悪魔の使役しえき伝説やキリスト教普及以前の世界におけるエジプトやギリシャの魔術を始め、古くから悪魔ないし精霊との取引というのはとされたものだった。一方的に悪魔ないし悪霊がくというのもあったけど、これは悪魔祓いエクソシスムの領域だから、今回は割愛かつあいね」

立板に水、というよりは最早もはや滝か、バケツをひっくり返したような、という雨に対する形容が織歌おりかの脳裏に浮かぶ。
和音わと珠紀たまきを見れば、二人とも目を丸くしている。和音わといたっては、ぽかんと口まで開いているぐらいだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

池の主

ツヨシ
ホラー
その日、池に近づくなと言われた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

こちら聴霊能事務所

璃々丸
ホラー
 2XXXX年。地獄の釜の蓋が開いたと言われたあの日から十年以上たった。  幽霊や妖怪と呼ばれる不可視の存在が可視化され、ポルターガイストが日常的に日本中で起こるようになってしまった。  今や日本では霊能者は国家資格のひとつとなり、この資格と営業許可さえ下りればカフェやパン屋のように明日からでも商売を始められるようになった。  聴心霊事務所もそんな霊能関係の事務所のひとつであった。  そして今日も依頼人が事務所のドアを叩く────。  

処理中です...