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7-1 わたしはあなたの side A
10 揺らぎ
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「わた、わたしが、なんで和音ちゃんを呪ったりなんて」
「先生のさっきの話、聞いてました? グラシャ・ラボラスの権能の」
呆れたように口を開いたのは弘だった。
「ロビンの目で和音さんにグラシャ・ラボラスのシジルが見えたならそれはもう、我々としては完璧な黒、呪われてるに違いないとしか判定できないので、後はその方向性の話なんですよ」
ねえ、織歌、と弘が壁によりかかりつつ、息を整えていた織歌に話を振る。
それを受けた織歌が、覚悟を決めたような真剣な表情で、口を開く。
「はい……術者が望めば、友と敵に愛を催させる。それがグラシャ・ラボラスの権能の一つだと、伺いました。それであれば、きっと、おそらく」
――貴女と和音さんは、本当は友達でもなんでもありませんよね?
織歌が放った確認の言葉に、珠紀が目を見開いて、強く拳を握る。
「和音さんが、私達に貴女の名前を出せないのも、貴女が裏切らない友を望んだから。違いますか?」
「……知らない。知らないわよ! そんなの! あんた!」
立ち上がった珠紀が、織歌に手を振り上げた瞬間、
「いつっ!」
そのまま、珠紀は崩れるようにその場にへたり込んだ。
壁によりかかっていた弘が珠紀の方にやって来て、その腕を掴むと、引き上げるように立たせつつ、珠紀のふくらはぎの辺りを覗き込んで何か確認している。
珠紀は恐怖と驚きの混ざった顔でされるがままだ。
「よし、血は出てない、甘咬み程度か……敵意向けられるとですねえ、反応しちゃうんですよ、そうやって。怪我させたくはないんで、もうちょい落ち着きましょうか」
「……おや、ヒロが珍しい。今晩の天気予報は槍?」
「失敬な」
ぽつりと零したロビンを、じろりと弘が睨んで、呆然とする珠紀を椅子に座らせる。
「あの」
その沈黙を逃さずに、和音は目の前のテーブルの木目を見つめたまま、口を開いた。
全員の視線が、和音に向けられる。
「賢木先輩、どういうこと、ですか。わたしが、珠紀と友達じゃ、ないって」
自分の発言をどこか他人事のように感じながら、和音は言葉を継ぐ。
「だって、わたし、珠紀と美術室や音楽室での席も近いし、校外学習の班だって……あれ?」
気付いてしまった違和感に、どくどくと心臓が鳴る。
そうだ。そのどちらも、単純な、出席番号順で決まったものだ。友達であるかなど、関係ない。
葉山和音、平良珠紀。
ただ、この学年の、このクラスで、名前をあいうえお順で並べた時に、隣り合うだけの関係だ。
「あれ……なんで……なんで、わたし、あれ?」
「ワト」
鋭いロビンの声に、和音の喉が小さくひっと悲鳴を上げて、そのままのろのろと顔を上げる。
声と目つきの鋭さに対して、柔らかな青い眼差しと目が合う。
「大丈夫、落ち着いて。混乱するなというのがムリなのはそうだけど、今、ワトが取り乱したら、終わるものも終わらない」
「あ……」
「いいね?」
念を押すようなロビンの言葉に、焦りと恐れが和音の頭の中から波のように引いて、そして戻っては来なかった。
落ち着いた和音と、まだ呆然としている珠紀を見比べるようにして、それから紀美が口火を切った。
「先生のさっきの話、聞いてました? グラシャ・ラボラスの権能の」
呆れたように口を開いたのは弘だった。
「ロビンの目で和音さんにグラシャ・ラボラスのシジルが見えたならそれはもう、我々としては完璧な黒、呪われてるに違いないとしか判定できないので、後はその方向性の話なんですよ」
ねえ、織歌、と弘が壁によりかかりつつ、息を整えていた織歌に話を振る。
それを受けた織歌が、覚悟を決めたような真剣な表情で、口を開く。
「はい……術者が望めば、友と敵に愛を催させる。それがグラシャ・ラボラスの権能の一つだと、伺いました。それであれば、きっと、おそらく」
――貴女と和音さんは、本当は友達でもなんでもありませんよね?
織歌が放った確認の言葉に、珠紀が目を見開いて、強く拳を握る。
「和音さんが、私達に貴女の名前を出せないのも、貴女が裏切らない友を望んだから。違いますか?」
「……知らない。知らないわよ! そんなの! あんた!」
立ち上がった珠紀が、織歌に手を振り上げた瞬間、
「いつっ!」
そのまま、珠紀は崩れるようにその場にへたり込んだ。
壁によりかかっていた弘が珠紀の方にやって来て、その腕を掴むと、引き上げるように立たせつつ、珠紀のふくらはぎの辺りを覗き込んで何か確認している。
珠紀は恐怖と驚きの混ざった顔でされるがままだ。
「よし、血は出てない、甘咬み程度か……敵意向けられるとですねえ、反応しちゃうんですよ、そうやって。怪我させたくはないんで、もうちょい落ち着きましょうか」
「……おや、ヒロが珍しい。今晩の天気予報は槍?」
「失敬な」
ぽつりと零したロビンを、じろりと弘が睨んで、呆然とする珠紀を椅子に座らせる。
「あの」
その沈黙を逃さずに、和音は目の前のテーブルの木目を見つめたまま、口を開いた。
全員の視線が、和音に向けられる。
「賢木先輩、どういうこと、ですか。わたしが、珠紀と友達じゃ、ないって」
自分の発言をどこか他人事のように感じながら、和音は言葉を継ぐ。
「だって、わたし、珠紀と美術室や音楽室での席も近いし、校外学習の班だって……あれ?」
気付いてしまった違和感に、どくどくと心臓が鳴る。
そうだ。そのどちらも、単純な、出席番号順で決まったものだ。友達であるかなど、関係ない。
葉山和音、平良珠紀。
ただ、この学年の、このクラスで、名前をあいうえお順で並べた時に、隣り合うだけの関係だ。
「あれ……なんで……なんで、わたし、あれ?」
「ワト」
鋭いロビンの声に、和音の喉が小さくひっと悲鳴を上げて、そのままのろのろと顔を上げる。
声と目つきの鋭さに対して、柔らかな青い眼差しと目が合う。
「大丈夫、落ち着いて。混乱するなというのがムリなのはそうだけど、今、ワトが取り乱したら、終わるものも終わらない」
「あ……」
「いいね?」
念を押すようなロビンの言葉に、焦りと恐れが和音の頭の中から波のように引いて、そして戻っては来なかった。
落ち着いた和音と、まだ呆然としている珠紀を見比べるようにして、それから紀美が口火を切った。
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