怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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7-1 わたしはあなたの side A

7 シジル没収

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そんな昨日の、今日の放課後、である。

「ああ、これ、うちの方だわ」
「そしたら、珠紀たまき、道、わかる?」
「うん、こっち」

ロビンからもらった住所メモを、珠紀たまきと頭を突き合わせながら、道を辿たどる。
やがて辿たどり着いたのは、一むね二軒のテラスハウス形式の建物が並ぶ一角だった。
表札には「葛城」と出ている。

「住所だと、ここよ」
「う、うん」

色々な意味で緊張しながら、門の中、玄関口の脇にあるインターホンに向けて和音わとは歩いていく。
珠紀たまきも、その後ろについて来ていた。

「……」

間違ってたらどうしよう、と頭の片隅で思いながら、ごくりとつばを飲み込んで、和音わとがインターホンを押す決心をした瞬間――

ぶつっ

と何かが切れたような音と、遅れて、かつん、と何かが落ちる音が、和音わとの背後から聞こえた。
インターホンを押そうと上げた手をそのままに振り向けば、珠紀たまきが驚いた顔で地面でねているメダルのようなものを見下ろしている。
かつん、かつんと二度ほどねたメダルは、物理法則としては少しおかしい軌道きどうを見せながら、転がっていく。

「待って!」
珠紀たまき?」

慌てて珠紀たまきが、ともすれば誘導されるように、転がるメダルを追いかけて、そして家の角を曲がった先で、たんっと強く地面を踏みしめる音がした。
珠紀たまきを追って、和音わとのぞき込んだ先には、珠紀たまきの後ろ姿と、その奥に、昨日の織歌おりかよりも背の高い、ウルフショートのボーイッシュな出で立ちの女性が立っていた。その口には、首にかかった紐に繋がった、銀色に光る小さな棒のようなものをくわえている。

「返してよっ! 返しなさいよ!」

珠紀たまきが叫ぶ様子からして、先程の地面を踏みしめた音は、その左足を少しも動かそうとしない彼女が立てたものらしい。恐らくはその足の下に、転がったメダルがあるのだろう。
要望を黙殺された珠紀たまきが、実力行使と言わんばかりに彼女に飛びかかろうとすると、女性は口を開いて銀の棒を胸元に落としてから、一度短いため息をついて、

「こんっの、クソガキがっ!」

ごっ、と痛そうな音を立てて、飛びかかった珠紀たまきの頭が、女性の突き出した拳骨げんこつに激突する。

「いっ、あっ……なっ、何すんのよ!」
「それはこっちのセリフというもんです。オカルト趣味を否定する気はありませんが、その下手な実践には専門家として口出しする権利がこちらにはあります。まして、それが人を害するようなものならば」

軽蔑するような眼差まなざしを珠紀たまきに向けて、ボーイッシュな女性はそう言い切った。
そして、頭を抱える珠紀たまきの両手首を、しっかとつかむ。

「こうしてシジルをきざんだものがない以上、少なくともあなたは無力なわけです。より本格的におこなったものなのか、それともたまたま出来てしまったものなのかはこの後聴取しますが」

そうして珠紀たまきの両腕を拘束してから、女性は和音わとの方を向いた。

「あなたが葉山はやま和音わとさんですね。わたしは唐国からくにひろ。ロビンと織歌おりかから話は聞いてます」
「え、あ、はい……えっと、あの」
「ああ、ちょーっとまだこの子をはなすのは無理ですねー」
「放しなさいよ、暴力女!」

珠紀たまきが、きいきいと騒ぐが、ひろと名乗った女性は、その手首をつかんだまま、びくともしないし、動こうとしない。
そして、そのすねを蹴ろうとしたのか、珠紀たまきが後ろに振り上げた足は、和音わとがあっと言う間もなく――びくり、と驚いたように、そのまま止まった。

「そうそう、無駄な抵抗はやめてくださいねー。お前はすでに包囲されている~」

どこか軽い調子で、にやにやとひろは笑うが、珠紀たまきの顔色は悪い。
すると、玄関側と反対側の方から、ぱすぱすと気の抜ける足音が聞こえてきた。
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