244 / 266
7-1 わたしはあなたの side A
2 Speak of the devil
しおりを挟む
「あ、ロビンさん、すみません、こちらです」
驚きに立ち竦んでいたような青年は、織歌が半ば立ち上がって手を振ると、はっとしたようにこちらの席へと向かって来る。
その間も、その視線は和音に突き刺さったままだった。
「いや……オリカ、この子が、電話の?」
そう言いながら、青年は肩から提げていた大きく膨らんだトートバッグを、座り直す織歌の隣の席に下ろした。
「はい。ちょっと、私もどうすればいいか、わからなくて……」
「ああ、うん……そうだろうね、これは……」
彼が見張っていた目を緩めても、剣の強い目つきで睨まれているというような感じしか、和音にはない。
けれど、珠紀のあの目よりはずっとマシだと感じた。
少し考え込むような素振りを見せた青年は、はっとしてから置いたトートバッグをごそごそと漁る。
「とりあえず、今すぐどうにかしようもないし、どうにかなるものでもない。場所代代わりのボクの分、買ってくるから、ちょっと待ってて」
「はい、わかりました」
目当てらしい財布をトートバッグから取り出すと、青年はすぐに注文カウンターに向かってしまった。
「電話の人、ですか……?」
「ええ、たぶん私より説明も上手です」
困ったように笑って、織歌が言った。
和音は注文カウンターに並んだ中でも一際目立つ――と言っても、時間的に混雑しているとは言い難いが――、金髪の後頭部を注視する。
ひょろりと背が高く、さっき見た顔はどう見ても欧米系の顔立ちだった。
向こうの人は大人びて見えると言われるが、織歌の対応からして、年は織歌よりも上だろう。
ただ、どういう繋がりかが、見えない。
和音が思わずストローに歯を立てながらそう考えていると、その内すぐに、当の本人がホットコーヒーらしい紙カップを持って戻って来た。
そして一度テーブルにカップを置くと、トートバッグに財布をしまってから、そのまま床に下ろしてその席に座る。
それから向けられた視線で、和音は初めて、その青年の目が鮮やかな青い色をしている事に気がついた。
「待たせて、ごめんね。オリカ、どこまで説明した?」
「ええと、まだ、何も……」
「え、ナニも? ……まあ、うん、説明はしづらいことこの上ない、か」
驚いたように織歌に視線を向けて、流暢な日本語でそう言うと、一瞬だけ眉間に皺を作って、ため息をついた青年は和音に向き直る。
「とりあえず、ボクはロビン・イングラム。ロビンで構わない」
「あ、葉山和音、です。ええと、ロビン、先輩も、うちの中学の卒業生、なんですか?」
織歌とロビンの繋がりと考えられる唯一のものを口にすると、ロビンは片眉を上げて、いや、と口にした。
「ボクは生まれも育ちもイギリスだよ。こっちに来たのは義務教育修了後。日本語の勉強は昔からしてたけどね」
目つきに反して、淡々と感じられるほど穏やかな口調でロビンはそう言った。
しかし、和音としては、そうなると、じゃあ、この二人の共通項はなんなんだ、となってくる。
そんな和音の考えが顔に出ていたのか、ロビンが和音の顔を見て、ふっ、と苦笑に近い笑いを漏らした。
「ワト、ここから先は、信じるも信じないも、キミの勝手ではある。ただ、信じなかった場合、保証はボクらにはできかねる。信じてくれたとしても、ボクらの手に余る可能性も否定できない」
ロビンの鋭い目つきの青が、一瞬だけ発光したように和音には見えた。
「オリカは判断がつかなかったけど、ボクは断定できる。ワト、キミは呪われている」
驚きに立ち竦んでいたような青年は、織歌が半ば立ち上がって手を振ると、はっとしたようにこちらの席へと向かって来る。
その間も、その視線は和音に突き刺さったままだった。
「いや……オリカ、この子が、電話の?」
そう言いながら、青年は肩から提げていた大きく膨らんだトートバッグを、座り直す織歌の隣の席に下ろした。
「はい。ちょっと、私もどうすればいいか、わからなくて……」
「ああ、うん……そうだろうね、これは……」
彼が見張っていた目を緩めても、剣の強い目つきで睨まれているというような感じしか、和音にはない。
けれど、珠紀のあの目よりはずっとマシだと感じた。
少し考え込むような素振りを見せた青年は、はっとしてから置いたトートバッグをごそごそと漁る。
「とりあえず、今すぐどうにかしようもないし、どうにかなるものでもない。場所代代わりのボクの分、買ってくるから、ちょっと待ってて」
「はい、わかりました」
目当てらしい財布をトートバッグから取り出すと、青年はすぐに注文カウンターに向かってしまった。
「電話の人、ですか……?」
「ええ、たぶん私より説明も上手です」
困ったように笑って、織歌が言った。
和音は注文カウンターに並んだ中でも一際目立つ――と言っても、時間的に混雑しているとは言い難いが――、金髪の後頭部を注視する。
ひょろりと背が高く、さっき見た顔はどう見ても欧米系の顔立ちだった。
向こうの人は大人びて見えると言われるが、織歌の対応からして、年は織歌よりも上だろう。
ただ、どういう繋がりかが、見えない。
和音が思わずストローに歯を立てながらそう考えていると、その内すぐに、当の本人がホットコーヒーらしい紙カップを持って戻って来た。
そして一度テーブルにカップを置くと、トートバッグに財布をしまってから、そのまま床に下ろしてその席に座る。
それから向けられた視線で、和音は初めて、その青年の目が鮮やかな青い色をしている事に気がついた。
「待たせて、ごめんね。オリカ、どこまで説明した?」
「ええと、まだ、何も……」
「え、ナニも? ……まあ、うん、説明はしづらいことこの上ない、か」
驚いたように織歌に視線を向けて、流暢な日本語でそう言うと、一瞬だけ眉間に皺を作って、ため息をついた青年は和音に向き直る。
「とりあえず、ボクはロビン・イングラム。ロビンで構わない」
「あ、葉山和音、です。ええと、ロビン、先輩も、うちの中学の卒業生、なんですか?」
織歌とロビンの繋がりと考えられる唯一のものを口にすると、ロビンは片眉を上げて、いや、と口にした。
「ボクは生まれも育ちもイギリスだよ。こっちに来たのは義務教育修了後。日本語の勉強は昔からしてたけどね」
目つきに反して、淡々と感じられるほど穏やかな口調でロビンはそう言った。
しかし、和音としては、そうなると、じゃあ、この二人の共通項はなんなんだ、となってくる。
そんな和音の考えが顔に出ていたのか、ロビンが和音の顔を見て、ふっ、と苦笑に近い笑いを漏らした。
「ワト、ここから先は、信じるも信じないも、キミの勝手ではある。ただ、信じなかった場合、保証はボクらにはできかねる。信じてくれたとしても、ボクらの手に余る可能性も否定できない」
ロビンの鋭い目つきの青が、一瞬だけ発光したように和音には見えた。
「オリカは判断がつかなかったけど、ボクは断定できる。ワト、キミは呪われている」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ill〜怪異特務課事件簿〜
錦木
ホラー
現実の常識が通用しない『怪異』絡みの事件を扱う「怪異特務課」。
ミステリアスで冷徹な捜査官・名護、真面目である事情により怪異と深くつながる体質となってしまった捜査官・戸草。
とある秘密を共有する二人は協力して怪奇事件の捜査を行う。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
朧《おぼろ》怪談【恐怖体験見聞録】
その子四十路
ホラー
しょっちゅう死にかけているせいか、作者はときどき、奇妙な体験をする。
幽霊・妖怪・オカルト・ヒトコワ・不思議な話……
日常に潜む、胸をざわめかせる怪異──
作者の実体験と、体験者から取材した実話をもとに執筆した怪談短編集。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる