怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

文字の大きさ
上 下
188 / 241
6-1 竜馬と松浦の姫 side A

10 一線を引く

しおりを挟む
「さっきから、しれっとうちら本歌取ほんかどり言うとったけど、それも把握しとる?」
「ええと、要はパロディとかオマージュとかそういうことですよね?」

その小夜せれなの言葉によもぎはふんふん、とうなずいて口を開く。
本歌ほんか、つまり元ネタの和歌を踏まえた上で新たな和歌を作成する手法のことだったはずで、パロディとかオマージュと言っておけば、まず間違いはなかったはずだ。

「ま、その認識で問題はあらへんな。向こうが本歌取ほんかどりしよるから、これらも本歌取ほんかどりやろ、ロビンくん」
「え、ああ、うん」

よもぎに不意に話題を振られて、ロビンが驚いたように戸惑いながら返す。

「センセイと話して、大伴旅人おおとものたびとのと、この旅人たびとに向けて吉宜きちのよろしが書いたっていわれるものとを元にしてる」
「まあ、向こうがんどるんが旅人たびと本歌取ほんかどりやもんね、そうなるわな」
「……ヨモギ、まさかヨモギと話してるあつかいなら、ボクがカウントされないと思ってる?」
「んあ、違うん?」

ロビンの言葉にあっけらかんとよもぎが答え、ロビンが少し面倒そうな表情で頭をく。

「んー、まあ、で状況が変わったし……それなら、むしろにらまれておくのはアリだから、いいけどね。ボクから見たら、直接よりは薄くても影響はあると確信できるから……」
「結局のところは結果オーライっちゅーことやんな?」
「……うん、まあそう」

投げやり気味にロビンが言う。
いつの間にか、ひろが自分は一仕事終えたみたいな顔でフライドポテトをちょっとつまんでいる。
ロビンはそれを少し目を細めて見てから、あらためて口を開いた。

「一首目は旅人たびとの〈うつつには 会ふよしもなし ぬばたまの 夜のいめにも ぎて見えこそ〉。現実に会うことはできないが、夜の夢で会いましょう、って感じだね。『万葉集』の収録順としては、たつも、の歌の後だから返しとしても最適best
「それを、断る方向にしてるわけですよね。うつつにして、現実でも会えませんし、夢でも会うべきでねーんじゃボケと……うーん、現在の状態を加味すると倒置の妙みたいなのありますね」
「いや、罵倒ばとうまではしてないけど?」

もそもそと長いポテトをかじりながら言ったひろに、ロビンが眉間にしわを寄せてツッコむ。
そもそも、仮にも相手が神だと言われてるので、小夜せれなとしては、罵倒ばとうしていいような相手ではない気もする。

「気を取り直して、二首目は、吉宜きちのよろしの、〈君を待つ 松浦まつらうらの 娘子をとめらは 常世とこよの国の 天娘子あまをとめかも〉」
「これも倒置の妙になるんやね。松浦まつら浜辺はまべにいる娘たちは常世とこよの国の天女てんにょかもしれへんよって歌を、常世とこよならざるで、松浦まつら浜辺はまべにいる娘たちだって人間やからねってしとるわけで……全体的にロックのノリで行くのがええんとちゃう」
「それ言うなら、単純なロックrockじゃなくてパンクpunkかな……」

もしかしなくても、ロビンはツッコミ気質らしい。
本格的に口を開き始めた先程からひろにもよもぎにもツッコミを入れている気がする。
しおりを挟む

処理中です...