怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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6-1 竜馬と松浦の姫 side A

6 回避不能予防不能

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「うん、まあ気持ちはわかります。誰だって何言ってんだってなりますし、この現代で異類婚姻いるいこんいんがあってたまるか、ですし」

あきれたような表情でひろが言う。
この流れでのあきれは、たぶんその小夜せれな見初みそめたとかいう神様に向けられているものだと思うが。

小夜せれなちゃん、うちと初めて会った時の事、覚えとる?」
「あ、はい」
「あれね、うちから見て、そうにしか考えられんくてね、せやから、今時んなことあるかいなって思わず突っ込んでしもたんよ」

コーヒーをき出しはしなくとも、カップにだぱーとこぼしていたのにはそんな理由があったのか、と小夜せれなは思う。
ひろもうんうん、とうなずいている。

「先にそうかもって聞いてたから、ロビンが一目で見つけられましたけどね……のろわれたくないってわたしに矢面やおもてに立てって言ってきたから、思わず暴力振るっちゃったし」
「あー、やから珍しくひろちゃん主導で聞き取りしとったんやね。まあ、同性のがマシはマシ。うちみたいにちょいと干渉されるぐらいで済む……ところでロビンくんだいじょぶかいな?」

ひろよもぎの先程よりもくだけた態度に、なんだか小夜せれなはぶっちゃけ裏話みたいのを聞かせられてる気がしてきた。
これは聞いていいやつなんだろうか。

「察知と危機回避においてはロビンの右に出るのは早々ないですから、平気でしょう。よもぎさんのは前回会った時に向こうに認識されてしまったから、でしょうし、わたしはいわばではあるので、すぐには問題ないでしょうけど」
「それな、しくったわ。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいとるもんやもんな。まあ、そもそも、んなことあるかいって思っとって無防備やったからのこれやったわけやし」
「ええと……あの、なんで、そんなことになったか、とか、ありますかね」

完全に互いのぶっちゃけトークになってるところに、ようやく実感というか、とりあえず自分が一番の当事者なのだ、と思い直して小夜せれなは切り込む。

「えー、まあ、その神のいる近くに行ったというのが一つですけど、最大の要因はその神のストライクゾーンが小夜せれなさんだったことですね」
「それって、つまり、ふせぎようがないのでは……?」
「あ、はい、ふせぎようはないですね」

小夜せれなが不可解に思った点は、ひろにあっさりと肯定されてしまった。

「神というのはえてしてそういうものですよ。本来、わたし達、生ける人間の尺度でははかりきれない、理不尽で自意識のあるもの。だから」

ひろの目に、少し剣呑けんのんするどい光が宿る。

「昔から、わくを作ってはかりきれる権能けんのうにまで切り落として、まつり上げたんです……ま、それも現代においては科学的根拠のない迷信と成り果ててますが」
「うちら的にも世知辛せちがらい話よなあ」
「あと、大人しく常にわくに収まってくれるわけでもないですし。だからこういう案件が出てくるわけで……とはいえ、人間のつきまとい案件も似たようなとこはあるんですけど、それは警察の領域で」
「……もし、何もしなかったら、どうなりますか?」

怖いもの見たさ半分でそう問うと、よもぎひろは互いに顔を見合わせて、それからよもぎが口を開いた。

小夜せれなちゃん」
「はい」
「ほんまに聞きたい?」
「えっと、はい」

だってちょっとこんな経験、人生で早々ないと、小夜せれなのちょっとした野次馬やじうま根性的なものが顔を出す。
ひろが仕方ないと言うように、肩をすくめて口を開いた。
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