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6-1 竜馬と松浦の姫 side A
4 竜馬
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画面を見た弘は一瞬だけ眉間にしわを寄せて、それから手元のノートにかりかりと加筆していく。
「その後ろには何人か、紺色っぽい服を着た男の人達が刀とか弓とか持って、つき従ってる。そんな感じです」
「なるほど……まあ、射らねばならない将はわかりましたか」
ちら、とノートを覗き込んだロビンが、また何やらスマホを操作してから、その画面を小夜に見せてくる。
「最初に言ってた鈴ってこれ?」
画面に表示されているのは、長いリボンが複数垂れ下がった持ち手に、三段、ピラミッドのように鈴を積み重ねたものだった。
「それ、です」
「神楽鈴だね、やっぱり」
やっぱりってことは想定してたのか、いや想定してなければピンポイント画像なんて出てこないな、と小夜は思う。
同時に、この人実は日本育ちで、所謂見た目外国人だけど日本語できないみたいな人なのでは、とちょっとだけ思う。
「小夜ちゃん、弘ちゃん、ロビンくん」
丁度そこに、ぱたぱたと小走りでファミレスの入り口の方から、蓬がやって来た。
「いやあ、遅れてすんまへんなあ」
「電車遅延は仕方ないですよ」
至極真っ当なことを弘が言って、蓬は小夜の隣に座った。
「今、どこまで喋ったん?」
「丁度、例の行列を精査してたんですけど……」
「ここまで予想通りだと、ね」
また互いに目配せし合う二人を見て、蓬が小さく、せやねえ、と呟いた。
「ああ、蓬さんのドリンクバー、先に頼んであるんで、取りに行っていいですよ」
「お、おおきに、走ってきたから喉乾いてしもてなー」
弘のその言葉に今座ったばかりなのに、蓬は立ち上がって、ドリンクバーコーナーに行ってしまった。
着いて早々忙しないことである。
「この行列、近付いて来てるって確信が、小夜さんにあるんですよね」
「あ、はい……あと、その」
本当は小夜は、あまり思い出したくもないのだが。
いつも最後に向けられる、じっとりと湿った重い視線と、首輪のように喉を締めてくるような声。
「最後に、必ず、私を、丸い目で見て、言うんです。えっと、たつのまも、とか、なんとか」
「……たつのまも いまもえてしか あをによし ならのみやこに ゆきてこむため?」
眉間に皺を寄せ、考え込むようにしながら反応したのは、ロビンだった。
「えと、後の方は違いますけど、最初の方は同じ、です」
「全部は思い出せる?」
眉間に皺を寄せたまま、ロビンがそう尋ねてくるので、小夜は必死に思い出そうとする。
「ええと、たつのまも いまもえてしか……」
「どしたん?」
丁度、オレンジジュースを手にした蓬が戻ってきた。
それに対して口を開いたのは、ノートにシャーペンを走らせる準備をしたままの弘だ。
「夢の中で、歌を詠みかけられてるみたいで」
「うげ、それは内容次第やな。小夜ちゃん、思い出せる?」
「まだ、本歌取りされてるから、わかりやすいよ。いまもえてしか、までは同じなんだね?」
ロビンの確認に小夜は頷いて、どうにか記憶から絞り出す。
「いまもえてしか……きみつかた……せんりの、とおみ……」
「ヒロ」
そこまで聞いたロビンが弘に声をかけた。
「流石にここはボクらの手に余りそうじゃない?」
「歌、となるとそうですよね」
そしてロビンがスマホを手にしたまま立ち上がる。
「アイツに聞くん?」
「うん、とりあえずは、方向性の予測はついたから」
「まー、こんな案件でそうじゃない方向性だったら困りますよ」
たまらずといった様子で弘が呟いた内容に、くすりと笑ってそのままロビンは一旦ファミレスの外に出てしまった。
「その後ろには何人か、紺色っぽい服を着た男の人達が刀とか弓とか持って、つき従ってる。そんな感じです」
「なるほど……まあ、射らねばならない将はわかりましたか」
ちら、とノートを覗き込んだロビンが、また何やらスマホを操作してから、その画面を小夜に見せてくる。
「最初に言ってた鈴ってこれ?」
画面に表示されているのは、長いリボンが複数垂れ下がった持ち手に、三段、ピラミッドのように鈴を積み重ねたものだった。
「それ、です」
「神楽鈴だね、やっぱり」
やっぱりってことは想定してたのか、いや想定してなければピンポイント画像なんて出てこないな、と小夜は思う。
同時に、この人実は日本育ちで、所謂見た目外国人だけど日本語できないみたいな人なのでは、とちょっとだけ思う。
「小夜ちゃん、弘ちゃん、ロビンくん」
丁度そこに、ぱたぱたと小走りでファミレスの入り口の方から、蓬がやって来た。
「いやあ、遅れてすんまへんなあ」
「電車遅延は仕方ないですよ」
至極真っ当なことを弘が言って、蓬は小夜の隣に座った。
「今、どこまで喋ったん?」
「丁度、例の行列を精査してたんですけど……」
「ここまで予想通りだと、ね」
また互いに目配せし合う二人を見て、蓬が小さく、せやねえ、と呟いた。
「ああ、蓬さんのドリンクバー、先に頼んであるんで、取りに行っていいですよ」
「お、おおきに、走ってきたから喉乾いてしもてなー」
弘のその言葉に今座ったばかりなのに、蓬は立ち上がって、ドリンクバーコーナーに行ってしまった。
着いて早々忙しないことである。
「この行列、近付いて来てるって確信が、小夜さんにあるんですよね」
「あ、はい……あと、その」
本当は小夜は、あまり思い出したくもないのだが。
いつも最後に向けられる、じっとりと湿った重い視線と、首輪のように喉を締めてくるような声。
「最後に、必ず、私を、丸い目で見て、言うんです。えっと、たつのまも、とか、なんとか」
「……たつのまも いまもえてしか あをによし ならのみやこに ゆきてこむため?」
眉間に皺を寄せ、考え込むようにしながら反応したのは、ロビンだった。
「えと、後の方は違いますけど、最初の方は同じ、です」
「全部は思い出せる?」
眉間に皺を寄せたまま、ロビンがそう尋ねてくるので、小夜は必死に思い出そうとする。
「ええと、たつのまも いまもえてしか……」
「どしたん?」
丁度、オレンジジュースを手にした蓬が戻ってきた。
それに対して口を開いたのは、ノートにシャーペンを走らせる準備をしたままの弘だ。
「夢の中で、歌を詠みかけられてるみたいで」
「うげ、それは内容次第やな。小夜ちゃん、思い出せる?」
「まだ、本歌取りされてるから、わかりやすいよ。いまもえてしか、までは同じなんだね?」
ロビンの確認に小夜は頷いて、どうにか記憶から絞り出す。
「いまもえてしか……きみつかた……せんりの、とおみ……」
「ヒロ」
そこまで聞いたロビンが弘に声をかけた。
「流石にここはボクらの手に余りそうじゃない?」
「歌、となるとそうですよね」
そしてロビンがスマホを手にしたまま立ち上がる。
「アイツに聞くん?」
「うん、とりあえずは、方向性の予測はついたから」
「まー、こんな案件でそうじゃない方向性だったら困りますよ」
たまらずといった様子で弘が呟いた内容に、くすりと笑ってそのままロビンは一旦ファミレスの外に出てしまった。
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