怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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6-1 竜馬と松浦の姫 side A

序 妻問い道中

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鈴の音がする。
日も沈んだ暗い山中に作られた回廊から一定間隔かんかくで鳴る鈴に合わせて、何かがこちらに向かってきている。
一言で言うなら、何かの行列。
先導する二人の子供がかかげた鈴の音が、全体の進むスピードを統一している。

――しゃん。

また一つ、鈴がなる。
二人の子供の後ろには、お正月の鏡餅を乗せるアレ――三宝さんぽうとか言ったはず――を持った女性たちが何人か続いている。
それぞれの三宝さんぽうの上には、もちだとか、さかずきだとかそうしたものが乗せられている。

――しゃん。

女性たちの後ろには、くすんだ水色の服をまとった男性二人が一頭の白馬を引いている。
その白馬にはただ一人、目が覚めるような、朱色というにはピンクに寄った色の服をまとった男性がまたがっている。
その後ろにはくすんだ紺色の服をまとった武装した男性達が控えている。
彼らの服は全てが全て、古めかしい、それこそ平安時代を思わせるようなものだった。

――しゃん。
――しゃん。

ゆっくり、けれど確実に、その行列はに向かって来ている。
そんな確信があった。
しかし、その歩みは明らかに遅く、といえど、到底たどり着かないだろう、と思えた。
やがて、空の端が白々と明け始めると、馬上の男が人間味のないつぶらな瞳を空に向け、口を開いた。

――たつのまも いまもえてしか きみつかた せんりのとみ いとうらめしき

その視線はぞっとするほど、ねっとりと重く、そして、この光景をただ夢として見ているはずの小夜せれなをしっかりととらえていると確信させるに足るもので――

悲鳴は上げないまでも、小夜せれなは汗だくで飛び起きて、そして枕元の目覚まし時計が、セットしている時間より一時間以上早い時間を指しているのを見て、またかと、ため息をついた。
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