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5-2 夢の浮橋 side B
2 不満の余地が悪い
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「……ところで、その、格好は置いといて、どんな人がオリカには見えてたの?」
「え? 結局気になるんですか?」
「待って、結局って何、結局って」
紳士だなあ、と思っていたところでそんな事を問われたので、つい本音が織歌の口からぽろりと落ちた。
「言っとくけど、ボクは、ボクの視界とオリカの視界の相違を確認したいだけだからね?」
「あ、ですよねー……先にケーキを頼んでもいいですか?」
ロビンが織歌のマイペースに呆れたように、どうぞ、と投げやりに言ったので、織歌は半分立ち上がって手を上げ、店員に声をかけた。
そしてすぐにやってきた店員に、チーズケーキを注文する。
「で、オリカが見た女性の人相は?」
「長い黒髪の、どこにでもいそうな清楚っぽい美人、て感じでした。ロビンさんは?」
「……一定じゃなかったよ、オリカが言ってるヒトみたいなのも見えたけど」
一定じゃない、と聞いて織歌は首を傾げた。
「ええと、私、とりあえず女性に憑かれたとしか聞いてないんですが、どういうことです?」
「うん、まあ依頼人の沽券と、ボクらとしては綱渡りの気持ちとがあったのを、さっき華麗にオリカはぶっちぎったからね、サキュバス発言で」
ため息をついて、ロビンは一度紅茶で口を潤した。
「うん、仕方ないから、本当の話、しようか。ボクとセンセイはアレをリャナン・シーとした。オリカは知ってる?」
――ロビンが説明のために真っ先に言い出したのが、ロビンと紀美が二人でそうであるとしたアレの正体なので、つまりそれ自体がその特性に紐づく。
そう考えて、織歌は回答と問いを口にした。
「いえ……ロビンさんが見る姿が一定じゃなかったのって、そのリャナン・シーのせいなんですか?」
「うん、リャナン・シーは魅入った者の理想の姿で現れる。ボクは別に魅入られたワケじゃないけど、ボクが見るにあたっては形がなければ見えないから、それが原因じゃないかな」
そう聞くと、ロビンには他にどんな風に見えていたのか、織歌としては気になるところである。
「ロビンさんには、他にどんな姿が見えたんですか?」
「……言いたくない」
この兄弟子に聞いたところで、それを教えてくれるかというと、たぶん教えてくれない気がする、とは思っていたので、視線を逸らされた上で出てきた回答に対し、予定調和的に織歌は納得した。
「別に誰に似てても言いつけたりしないですよ」
「いや、そうじゃ……うん、いいや、いいよ、そういうことで」
「それこそ、先生でも」
「今紅茶に口つけてなくて良かったって心底思った……オリカ? 遊んでるでしょ?」
「あ、バレました?」
悪びれずに言ってみせれば、ロビンはがりがりと頭を掻いて、そしてため息をついた。
「さっきのの意趣返し?」
「弘ちゃんがたまには思い知らせてやれ、なんて言ってましたが」
「……この案件で弾き出されてるのが気に食わないワケね、後で話すよ」
織歌とて、今回は紀美とロビンが互いに目配せしつつ、歯切れの悪い言葉で普段よりもずっと簡潔に内容を聞かされただけで引っ張り出された。
そこにほんの少しも不満がない、といえば、それは嘘である。
「え? 結局気になるんですか?」
「待って、結局って何、結局って」
紳士だなあ、と思っていたところでそんな事を問われたので、つい本音が織歌の口からぽろりと落ちた。
「言っとくけど、ボクは、ボクの視界とオリカの視界の相違を確認したいだけだからね?」
「あ、ですよねー……先にケーキを頼んでもいいですか?」
ロビンが織歌のマイペースに呆れたように、どうぞ、と投げやりに言ったので、織歌は半分立ち上がって手を上げ、店員に声をかけた。
そしてすぐにやってきた店員に、チーズケーキを注文する。
「で、オリカが見た女性の人相は?」
「長い黒髪の、どこにでもいそうな清楚っぽい美人、て感じでした。ロビンさんは?」
「……一定じゃなかったよ、オリカが言ってるヒトみたいなのも見えたけど」
一定じゃない、と聞いて織歌は首を傾げた。
「ええと、私、とりあえず女性に憑かれたとしか聞いてないんですが、どういうことです?」
「うん、まあ依頼人の沽券と、ボクらとしては綱渡りの気持ちとがあったのを、さっき華麗にオリカはぶっちぎったからね、サキュバス発言で」
ため息をついて、ロビンは一度紅茶で口を潤した。
「うん、仕方ないから、本当の話、しようか。ボクとセンセイはアレをリャナン・シーとした。オリカは知ってる?」
――ロビンが説明のために真っ先に言い出したのが、ロビンと紀美が二人でそうであるとしたアレの正体なので、つまりそれ自体がその特性に紐づく。
そう考えて、織歌は回答と問いを口にした。
「いえ……ロビンさんが見る姿が一定じゃなかったのって、そのリャナン・シーのせいなんですか?」
「うん、リャナン・シーは魅入った者の理想の姿で現れる。ボクは別に魅入られたワケじゃないけど、ボクが見るにあたっては形がなければ見えないから、それが原因じゃないかな」
そう聞くと、ロビンには他にどんな風に見えていたのか、織歌としては気になるところである。
「ロビンさんには、他にどんな姿が見えたんですか?」
「……言いたくない」
この兄弟子に聞いたところで、それを教えてくれるかというと、たぶん教えてくれない気がする、とは思っていたので、視線を逸らされた上で出てきた回答に対し、予定調和的に織歌は納得した。
「別に誰に似てても言いつけたりしないですよ」
「いや、そうじゃ……うん、いいや、いいよ、そういうことで」
「それこそ、先生でも」
「今紅茶に口つけてなくて良かったって心底思った……オリカ? 遊んでるでしょ?」
「あ、バレました?」
悪びれずに言ってみせれば、ロビンはがりがりと頭を掻いて、そしてため息をついた。
「さっきのの意趣返し?」
「弘ちゃんがたまには思い知らせてやれ、なんて言ってましたが」
「……この案件で弾き出されてるのが気に食わないワケね、後で話すよ」
織歌とて、今回は紀美とロビンが互いに目配せしつつ、歯切れの悪い言葉で普段よりもずっと簡潔に内容を聞かされただけで引っ張り出された。
そこにほんの少しも不満がない、といえば、それは嘘である。
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