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5-1 夢の浮橋 side A
15 そして事ここに至る
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と、その後追加で焼きおにぎりとデザートを頼んだり、今日この日の日程調整をしたりした後、解散と相成ったのである。
思い出すだに、あの居酒屋でのいろいろは純也にとって衝撃しかなかった。そして今思えば、だし巻き卵の山は胃に優しかった。
「お待たせいたしました。ホットの紅茶になります」
紅茶を運んできた店員に軽く会釈を返すと、店員は伝票を追加して去って行った。
「で、オリカ、行けそう?」
「大丈夫です」
そして、先日だし巻き卵の山を寄越したロビンは隣の少女と相談している。
少女の方は本人としてはきりっとした顔をしているつもりなのだろうが、そのふわふわとしたパステルカラーをさらに淡くしたような雰囲気とは少しちぐはぐな表情を浮かべている。
「というわけで、対処自体はこの妹弟子がする」
「賢木織歌と申します。よろしくお願いします。高橋さんのお話については先生とロビンさんから伺ってます」
にこやかに、穏やかに目の前の少女は軽く頭を下げてそう言った。
純也としてはどこまで話を詳細に聞いたのかが少し気にはかかるが、確認して藪から蛇を出すわけにもいかない。
「こちらこそ、お願い、します」
「はい。高橋さんは楽になさっててください。がんばります」
そのふわふわしつつもはきはきとした受け答えから、織歌と名乗った少女は見目に違わず、とてもいい子であることが窺える。
大人びたフェミニンな服装をしているが、どう考えても中高生といったところなので、純也としては少し申し訳なくも不甲斐なくもあるが。
「あれさくなだりのたぎつはやきせ、うつしきつみというつみのあらざれば、あれみましをもちいでん」
ぽつり、とこちらを見つめたまま、織歌が呟いた。
次の瞬間、肩に縋るように手が触れた感触がして、直後に耳を劈く絹を裂くような女の絶叫とともにそれが剥がれた。
ぎょっとして、振り返るよりも先に目の前の二人の様子を窺う。
ロビンは至って変わらない様子で紅茶を一口飲んでいたが、純也の視線の意味するところには気付いているのだろう。
こちらを見返しつつも沈黙している。要は気にするな、ということだろう。
一方、織歌の方は、微かに顔が引き攣っていた。
視線は純也を通り越している。
再度、苦痛に喘ぐ悲鳴がすると、純也と同じく、びくっと反応して、その表情の引き攣り具合が増した。
が、どちらかというと恐怖とかそういったものより、うわあ、とでも言いたげな引き気味の顔であることにその時気づいた。
純也の背後で怪獣大決戦でも行われているのだろうか。
怖いもの見たさに振り返ってみたくもあるが、居酒屋でのやり取りとか、純也に備わった教養と勘が振り返ると取り返しがつかない可能性に警鐘を鳴らしている。
「……鋭いね、オルフェウスとか、ロトの妻の塩柱を思い出してるでしょ? まあ、振り返らないのがいいのは確か。見えないだろうけど、見えたところで気分が良いものでもないからね、これ」
一人平常運転な表情のロビンが、そう言って肩を竦めた。
はあ、と曖昧な返事を返しつつ、純也も紅茶に口をつけた。
とりあえず、純也の背後で、十代の少女がドン引きして、うっかりすると気分が悪くなるような状況が発生しているらしい、ということだけ把握できた。
――やっぱり、怪獣大決戦(やさしい表現)なのでは?
と、その後追加で焼きおにぎりとデザートを頼んだり、今日この日の日程調整をしたりした後、解散と相成ったのである。
思い出すだに、あの居酒屋でのいろいろは純也にとって衝撃しかなかった。そして今思えば、だし巻き卵の山は胃に優しかった。
「お待たせいたしました。ホットの紅茶になります」
紅茶を運んできた店員に軽く会釈を返すと、店員は伝票を追加して去って行った。
「で、オリカ、行けそう?」
「大丈夫です」
そして、先日だし巻き卵の山を寄越したロビンは隣の少女と相談している。
少女の方は本人としてはきりっとした顔をしているつもりなのだろうが、そのふわふわとしたパステルカラーをさらに淡くしたような雰囲気とは少しちぐはぐな表情を浮かべている。
「というわけで、対処自体はこの妹弟子がする」
「賢木織歌と申します。よろしくお願いします。高橋さんのお話については先生とロビンさんから伺ってます」
にこやかに、穏やかに目の前の少女は軽く頭を下げてそう言った。
純也としてはどこまで話を詳細に聞いたのかが少し気にはかかるが、確認して藪から蛇を出すわけにもいかない。
「こちらこそ、お願い、します」
「はい。高橋さんは楽になさっててください。がんばります」
そのふわふわしつつもはきはきとした受け答えから、織歌と名乗った少女は見目に違わず、とてもいい子であることが窺える。
大人びたフェミニンな服装をしているが、どう考えても中高生といったところなので、純也としては少し申し訳なくも不甲斐なくもあるが。
「あれさくなだりのたぎつはやきせ、うつしきつみというつみのあらざれば、あれみましをもちいでん」
ぽつり、とこちらを見つめたまま、織歌が呟いた。
次の瞬間、肩に縋るように手が触れた感触がして、直後に耳を劈く絹を裂くような女の絶叫とともにそれが剥がれた。
ぎょっとして、振り返るよりも先に目の前の二人の様子を窺う。
ロビンは至って変わらない様子で紅茶を一口飲んでいたが、純也の視線の意味するところには気付いているのだろう。
こちらを見返しつつも沈黙している。要は気にするな、ということだろう。
一方、織歌の方は、微かに顔が引き攣っていた。
視線は純也を通り越している。
再度、苦痛に喘ぐ悲鳴がすると、純也と同じく、びくっと反応して、その表情の引き攣り具合が増した。
が、どちらかというと恐怖とかそういったものより、うわあ、とでも言いたげな引き気味の顔であることにその時気づいた。
純也の背後で怪獣大決戦でも行われているのだろうか。
怖いもの見たさに振り返ってみたくもあるが、居酒屋でのやり取りとか、純也に備わった教養と勘が振り返ると取り返しがつかない可能性に警鐘を鳴らしている。
「……鋭いね、オルフェウスとか、ロトの妻の塩柱を思い出してるでしょ? まあ、振り返らないのがいいのは確か。見えないだろうけど、見えたところで気分が良いものでもないからね、これ」
一人平常運転な表情のロビンが、そう言って肩を竦めた。
はあ、と曖昧な返事を返しつつ、純也も紅茶に口をつけた。
とりあえず、純也の背後で、十代の少女がドン引きして、うっかりすると気分が悪くなるような状況が発生しているらしい、ということだけ把握できた。
――やっぱり、怪獣大決戦(やさしい表現)なのでは?
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