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5-1 夢の浮橋 side A
11 治療において時として傷は抉られる
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◆
事の始まりは向こうからの告白だった。
「――といっても、一般教養の授業で、ノートコピーさせてくれって言ってきたグループの中の一人、だったんです」
「それ、所謂チャラいタイプのグループなのでは……?」
なんとも言えない顔で砂肝を咀嚼しながら紀美が呟く。
純也はそれを否定できない。
「まあ、グループでコピーさせてくれなんて言い出すぐらいですから、チャラいグループですよ。彼女自身は、どちらかというと清楚な見た目ではありましたけど」
「……騙された?」
ロビンが口にしたド直球な単語にぐ、と言葉につまる。
「……いえ、純粋にハニートラップだった方が、まだ、良かった気すらします」
別にノートをコピーするくらいで、純也だって勘違いはしない。
頭でっかちで奥手でも、ぶっとんでるわけではない。その辺り妄想と現実をしっかり切り分けるだけの節度はある。
それが、ある時、その子から告白されたのだ。
「――俺は、小中学校ではいじめられこそしませんでしたが、所謂ガリ勉くん、という立ち位置でした。高校は私立の進学科……そうなると青春らしい青春なんて、それまでしたことなかったんです」
「あー……勉強漬けだなあ、それは」
「それは強制されて? それともキミ自身が?」
「俺自身ですね……変わった子供だった自覚はありますけど、図鑑とか読むの好きなタイプで、周りも褒めてくれるから、そのままガリ勉のレールに乗った、みたいな」
そんな中、大学で初めてできた彼女だったのだ。
舞い上がらないはずもないが、初心だからこそ、極めて、極めて節度は守った。
そうして、五回目のデート、クリスマスにそれは起きた。
「――その時、初めて、さり気なく手を繋ごうと、したんです」
それを、拒絶された。往来での出来事だったので、周りも驚いていた。
「痛いぐらいに手を叩かれて、調子に乗るなと怒鳴られました」
「……あー、見えてきたぞ。からかい、だな?」
直人が苦々しい顔をしているのが、少し救いだった。
ここまでなら、まだほろ苦いで済んだのかもしれない。
「最初から、そういうグループにいた子なんだから、類友なのは予想できるだろ、と言われれば耳が痛いですが……罰ゲーム、だったらしいです」
種明かしと共にげらげら笑いながら現れたグループのメンバーにも、彼女にも、怒りより悲しみが勝ってしまった辺り、相当ショックだった。
そもそも、その後の事を純也はあまり覚えていない。
気が付いたら当時の一人暮らしのアパートにいて、何をどうして広まったのかはやはり覚えてないが、数少ない友人達は励ましてくれたし、例のグループは鼻つまみ扱いになっていた。
「――暫くは、なかなか食欲とかもありませんでしたし、正直今でも当時の詳細なエピソードは覚えてません……ただ、勉強してると、落ち着いたので、とにかくいろんな講義を取って、取って、取りまくって……でも就活はあまり、うまくいかなくて、それでもいろいろ書いてると何故か落ち着くので……文芸サークルの伝手を辿って、ですね」
「それで直くんと同じ業界に、か……」
「……言葉もないな」
ぼそりとした呟きと共に、ロビンから直人経由で、何故かだし巻き卵が山と積まれた小皿が純也に渡された。
ロビンは自分の好物を相手に渡すタイプなのだろうか。
事の始まりは向こうからの告白だった。
「――といっても、一般教養の授業で、ノートコピーさせてくれって言ってきたグループの中の一人、だったんです」
「それ、所謂チャラいタイプのグループなのでは……?」
なんとも言えない顔で砂肝を咀嚼しながら紀美が呟く。
純也はそれを否定できない。
「まあ、グループでコピーさせてくれなんて言い出すぐらいですから、チャラいグループですよ。彼女自身は、どちらかというと清楚な見た目ではありましたけど」
「……騙された?」
ロビンが口にしたド直球な単語にぐ、と言葉につまる。
「……いえ、純粋にハニートラップだった方が、まだ、良かった気すらします」
別にノートをコピーするくらいで、純也だって勘違いはしない。
頭でっかちで奥手でも、ぶっとんでるわけではない。その辺り妄想と現実をしっかり切り分けるだけの節度はある。
それが、ある時、その子から告白されたのだ。
「――俺は、小中学校ではいじめられこそしませんでしたが、所謂ガリ勉くん、という立ち位置でした。高校は私立の進学科……そうなると青春らしい青春なんて、それまでしたことなかったんです」
「あー……勉強漬けだなあ、それは」
「それは強制されて? それともキミ自身が?」
「俺自身ですね……変わった子供だった自覚はありますけど、図鑑とか読むの好きなタイプで、周りも褒めてくれるから、そのままガリ勉のレールに乗った、みたいな」
そんな中、大学で初めてできた彼女だったのだ。
舞い上がらないはずもないが、初心だからこそ、極めて、極めて節度は守った。
そうして、五回目のデート、クリスマスにそれは起きた。
「――その時、初めて、さり気なく手を繋ごうと、したんです」
それを、拒絶された。往来での出来事だったので、周りも驚いていた。
「痛いぐらいに手を叩かれて、調子に乗るなと怒鳴られました」
「……あー、見えてきたぞ。からかい、だな?」
直人が苦々しい顔をしているのが、少し救いだった。
ここまでなら、まだほろ苦いで済んだのかもしれない。
「最初から、そういうグループにいた子なんだから、類友なのは予想できるだろ、と言われれば耳が痛いですが……罰ゲーム、だったらしいです」
種明かしと共にげらげら笑いながら現れたグループのメンバーにも、彼女にも、怒りより悲しみが勝ってしまった辺り、相当ショックだった。
そもそも、その後の事を純也はあまり覚えていない。
気が付いたら当時の一人暮らしのアパートにいて、何をどうして広まったのかはやはり覚えてないが、数少ない友人達は励ましてくれたし、例のグループは鼻つまみ扱いになっていた。
「――暫くは、なかなか食欲とかもありませんでしたし、正直今でも当時の詳細なエピソードは覚えてません……ただ、勉強してると、落ち着いたので、とにかくいろんな講義を取って、取って、取りまくって……でも就活はあまり、うまくいかなくて、それでもいろいろ書いてると何故か落ち着くので……文芸サークルの伝手を辿って、ですね」
「それで直くんと同じ業界に、か……」
「……言葉もないな」
ぼそりとした呟きと共に、ロビンから直人経由で、何故かだし巻き卵が山と積まれた小皿が純也に渡された。
ロビンは自分の好物を相手に渡すタイプなのだろうか。
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