怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

文字の大きさ
上 下
161 / 266
5-1 夢の浮橋 side A

11 治療において時として傷は抉られる

しおりを挟む


事の始まりは向こうからの告白だった。

「――といっても、一般教養の授業で、ノートコピーさせてくれって言ってきたグループの中の一人、だったんです」
「それ、所謂いわゆるチャラいタイプのグループなのでは……?」

なんとも言えない顔で砂肝を咀嚼そしゃくしながら紀美きみつぶやく。
純也じゅんやはそれを否定できない。

「まあ、グループでコピーさせてくれなんて言い出すぐらいですから、チャラいグループですよ。彼女自身は、どちらかというと清楚せいそな見た目ではありましたけど」
「……騙されたhoney-trapped?」

ロビンが口にしたド直球な単語にぐ、と言葉につまる。

「……いえ、純粋にハニートラップだった方が、まだ、良かった気すらします」

別にノートをコピーするくらいで、純也じゅんやだって勘違いはしない。
頭でっかちで奥手でも、ぶっとんでるわけではない。そのあたり妄想と現実をしっかり切り分けるだけの節度はある。
それが、ある時、その子から告白されたのだ。

「――俺は、小中学校ではいじめられこそしませんでしたが、所謂いわゆるガリ勉くん、という立ち位置でした。高校は私立の進学科……そうなると青春らしい青春なんて、それまでしたことなかったんです」
「あー……勉強漬けだなあ、それは」
「それは強制されて? それともキミ自身が?」
「俺自身ですね……変わった子供だった自覚はありますけど、図鑑とか読むの好きなタイプで、周りも褒めてくれるから、そのままガリ勉のレールに乗った、みたいな」

そんな中、大学で初めてできた彼女だったのだ。
舞い上がらないはずもないが、初心うぶだからこそ、極めて、極めて節度は守った。
そうして、五回目のデート、クリスマスにそれは起きた。

「――その時、初めて、さり気なく手を繋ごうと、したんです」

それを、拒絶された。往来での出来事だったので、周りも驚いていた。

「痛いぐらいに手を叩かれて、調子に乗るなと怒鳴られました」
「……あー、見えてきたぞ。からかい、だな?」

直人なおとが苦々しい顔をしているのが、少し救いだった。
ここまでなら、まだほろ苦いで済んだのかもしれない。

「最初から、そういうグループにいた子なんだから、類友るいともなのは予想できるだろ、と言われれば耳が痛いですが……罰ゲーム、だったらしいです」

種明かしと共にげらげら笑いながら現れたグループのメンバーにも、彼女にも、怒りより悲しみがまさってしまったあたり、相当ショックだった。
そもそも、その後の事を純也じゅんやはあまり覚えていない。
気が付いたら当時の一人暮らしのアパートにいて、何をどうして広まったのかはやはり覚えてないが、数少ない友人達ははげましてくれたし、例のグループは鼻つまみあつかいになっていた。

「――しばらくは、なかなか食欲とかもありませんでしたし、正直今でも当時の詳細なエピソードは覚えてません……ただ、勉強してると、落ち着いたので、とにかくいろんな講義を取って、取って、取りまくって……でも就活はあまり、うまくいかなくて、それでもいろいろ書いてると何故か落ち着くので……文芸サークルの伝手つて辿たどって、ですね」
「それでなおくんと同じ業界に、か……」
「……言葉もないなI'm speechless.

ぼそりとしたつぶやきと共に、ロビンから直人なおと経由で、何故かだし巻き卵が山と積まれた小皿が純也じゅんやに渡された。
ロビンは自分の好物を相手に渡すタイプなのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

怪異語り 〜世にも奇妙で怖い話〜

ズマ@怪異語り
ホラー
五分で読める、1話完結のホラー短編・怪談集! 信じようと信じまいと、誰かがどこかで体験した怪異。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

ツルバミ奇譚

織部浩子
ホラー
現代より少し昔。 ある屋敷に泊まり込んでいる主人公は、屋敷とその周辺で起きる様々な怪異に遭遇する。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

不動の焔

桜坂詠恋
ホラー
山中で発見された、内臓を食い破られた三体の遺体。 それが全ての始まりだった。 「警視庁刑事局捜査課特殊事件対策室」主任、高瀬が捜査に乗り出す中、東京の街にも伝説の鬼が現れ、その爪が、高瀬を執拗に追っていた女新聞記者・水野遠子へも向けられる。 しかし、それらは世界の破滅への序章に過ぎなかった。 今ある世界を打ち壊し、正義の名の下、新世界を作り上げようとする謎の男。 過去に過ちを犯し、死をもってそれを償う事も叶わず、赦しを請いながら生き続ける、闇の魂を持つ刑事・高瀬。 高瀬に命を救われ、彼を救いたいと願う光の魂を持つ高校生、大神千里。 千里は、男の企みを阻止する事が出来るのか。高瀬を、現世を救うことが出来るのか。   本当の敵は誰の心にもあり、そして、誰にも見えない ──手を伸ばせ。今度はオレが、その手を掴むから。

【語るな会の記録】鎖女の話をするな

鳥谷綾斗(とやあやと)
ホラー
語ってはいけない怪談を語る会 通称、語るな会 「怪談は金儲けの道具」だと思っている男子大学生・Kが参加したのは、禁忌の怪談会だった。 美貌の怪談師が語るのは、世にも恐ろしい〈鎖女(くさりおんな)〉の話―― 語ってはいけない怪談は、何故語ってはいけないのか? 語ってはいけない怪談が語られた時、何が起こるのか? そして語るな会が開催された目的とは……? 表紙イラスト……シルエットメーカーさま

二人称・短編ホラー小説集 『あなた』

シルヴァ・レイシオン
ホラー
普通の小説に読み飽きたそこの『あなた』 そんな『あなた』にオススメします、二人称と言う「没入感」+ホラーの旋律にて、是非、戦慄してみて下さい・・・・・・ ※このシリーズ、短編ホラー・二人称小説『あなた』は、色んな"視点"のホラーを書きます。  様々な「死」「痛み」「苦しみ」「悲しみ」「因果」などを描きますので本当に苦手な方、なんらかのトラウマ、偏見などがある人はご遠慮下さい。  小説としては珍しい「二人称」視点をベースにしていきますので、例えば洗脳されやすいような方もご観覧注意、願います。

処理中です...