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5-1 夢の浮橋 side A
序 待ち合わせ
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クラシックな外装に気後れしつつ、喫茶店の戸を開き、純也は外装に劣らずクラシックな内装の店内へと足を踏み入れる。
ドアに付けられたベルがちりんと甲高い音を立てて、すぐにこれまたクラシカルな制服姿の店員がやって来た。
「お一人様ですか?」
「あ、その、待ち合わせで、ええと、喫煙のボックス席に先に、二人、いると思うんです、けど」
しどろもどろと答えると、男性の店員は合点がいったような視線で一つ頷いて、口を開く。
「失礼ですが、お名前をお伺いしても?」
「高橋純也、です」
確認して参りますので、少々お待ちください、と店員は機敏に身を翻して奥に行ったかと思うと、すぐに戻ってきた。
「確認が取れましたので、ご案内致します。どうぞこちらへ」
「あ、はい」
雰囲気重視の薄暗い中、少し奥のボックス席まで店員の先導で案内されると、互いに認識したとわかる距離で先日出会った天然物の金髪の眼鏡の青年――ロビンがひらりと軽く片手を上げた。
それに軽く会釈を返してから、対面の席につく。
ロビンの隣には女性向け、それもフェミニンな服装やメイクなどの雑誌のモデルのような、少しふわふわとした印象を受ける美少女が座っている。
純也としては眩しいと感じるような少女だ。
「ご注文は如何されますか?」
「あ、ええとホットの紅茶を」
かしこまりました、と答えた店員が戻っていく。
その背を見送ってから、ロビンが口火を切った。
「で、どうでした……なんて、聞くよりも明らかですかね」
――嘘はつくなよ、絶対にバレるし、心象が悪くなるからな。
先日の顔合わせ前にそう言ったのは、ライター仲間の先輩で、到底そんな方向にパイプがあるなんて思えないほど堅実で現実的な記事や翻訳記事ばかりを書く、正木直人だ。
「数日はちょっと怖かったですけど……それでも夢に彼女は出てきませんでしたから」
対面のロビンが、それを聞いて口角を上げ、満足げに頷く。
その隣の少女は二人のやり取りをじっと聞いている。
「頂いたメモと鋏を枕元に置くだけで、ゆっくり眠れました」
「ああ、鋏の方も、結局併用したんだ……うん、問題はないですね」
そのやたらと鋭い目を細めてロビンはそう言った。
年の頃は、来年には三十になる純也よりは若いとは思うのだが、その目つきと視線を受けた時の感覚もあいまってか、場の支配権は純也よりロビンの手にあると言ってよかった。
いや、この前に顔を合わせた時から、あの中で一番権力が低いのは依頼人の純也だったのだが。
「そう萎縮しないでくださいよ。別にボクはそんなつもりないので」
そして、そういう考えも全て読まれているみたいなのだからたまったものじゃない。
「……ロビンさん、楽しんでません?」
紅茶のカップを持ち上げた少女がさらりとねじ込んできた。
それを言われたロビンは横目で彼女を見ながら、気まずそうに口を開く。
「半分は直さんへの腹いせ兼ねた八つ当たりで、もう半分はわかりやすいなーって思って遊んでますよね。弘ちゃんから、直さんへの腹いせは仕方ないが、遊び出したら適当に止めてやれって言われましたから」
にこにことしながらそう言った少女は唇を湿らせるように紅茶を少し口に含んでカップを置く。
というか、腹いせの部分は仕方ない、が関係者の共通認識なのか、と純也は思わずツッコミを入れたくなる。
ロビンはなんとも言えない表情で視線を逸らしながら、気を取り直すように一つ咳払いをした。
「……わかったよ。流石に内情吐露されながら止められるのは、流石に、流石に……」
なんというか、この間一緒だった師匠という人がいなくて大丈夫なのだろうか、いやこの少女がいるなら大丈夫なのかも、と一抹の不安と呼ぶには不純物の多い何かが純也の胸中を過ぎった。
ドアに付けられたベルがちりんと甲高い音を立てて、すぐにこれまたクラシカルな制服姿の店員がやって来た。
「お一人様ですか?」
「あ、その、待ち合わせで、ええと、喫煙のボックス席に先に、二人、いると思うんです、けど」
しどろもどろと答えると、男性の店員は合点がいったような視線で一つ頷いて、口を開く。
「失礼ですが、お名前をお伺いしても?」
「高橋純也、です」
確認して参りますので、少々お待ちください、と店員は機敏に身を翻して奥に行ったかと思うと、すぐに戻ってきた。
「確認が取れましたので、ご案内致します。どうぞこちらへ」
「あ、はい」
雰囲気重視の薄暗い中、少し奥のボックス席まで店員の先導で案内されると、互いに認識したとわかる距離で先日出会った天然物の金髪の眼鏡の青年――ロビンがひらりと軽く片手を上げた。
それに軽く会釈を返してから、対面の席につく。
ロビンの隣には女性向け、それもフェミニンな服装やメイクなどの雑誌のモデルのような、少しふわふわとした印象を受ける美少女が座っている。
純也としては眩しいと感じるような少女だ。
「ご注文は如何されますか?」
「あ、ええとホットの紅茶を」
かしこまりました、と答えた店員が戻っていく。
その背を見送ってから、ロビンが口火を切った。
「で、どうでした……なんて、聞くよりも明らかですかね」
――嘘はつくなよ、絶対にバレるし、心象が悪くなるからな。
先日の顔合わせ前にそう言ったのは、ライター仲間の先輩で、到底そんな方向にパイプがあるなんて思えないほど堅実で現実的な記事や翻訳記事ばかりを書く、正木直人だ。
「数日はちょっと怖かったですけど……それでも夢に彼女は出てきませんでしたから」
対面のロビンが、それを聞いて口角を上げ、満足げに頷く。
その隣の少女は二人のやり取りをじっと聞いている。
「頂いたメモと鋏を枕元に置くだけで、ゆっくり眠れました」
「ああ、鋏の方も、結局併用したんだ……うん、問題はないですね」
そのやたらと鋭い目を細めてロビンはそう言った。
年の頃は、来年には三十になる純也よりは若いとは思うのだが、その目つきと視線を受けた時の感覚もあいまってか、場の支配権は純也よりロビンの手にあると言ってよかった。
いや、この前に顔を合わせた時から、あの中で一番権力が低いのは依頼人の純也だったのだが。
「そう萎縮しないでくださいよ。別にボクはそんなつもりないので」
そして、そういう考えも全て読まれているみたいなのだからたまったものじゃない。
「……ロビンさん、楽しんでません?」
紅茶のカップを持ち上げた少女がさらりとねじ込んできた。
それを言われたロビンは横目で彼女を見ながら、気まずそうに口を開く。
「半分は直さんへの腹いせ兼ねた八つ当たりで、もう半分はわかりやすいなーって思って遊んでますよね。弘ちゃんから、直さんへの腹いせは仕方ないが、遊び出したら適当に止めてやれって言われましたから」
にこにことしながらそう言った少女は唇を湿らせるように紅茶を少し口に含んでカップを置く。
というか、腹いせの部分は仕方ない、が関係者の共通認識なのか、と純也は思わずツッコミを入れたくなる。
ロビンはなんとも言えない表情で視線を逸らしながら、気を取り直すように一つ咳払いをした。
「……わかったよ。流石に内情吐露されながら止められるのは、流石に、流石に……」
なんというか、この間一緒だった師匠という人がいなくて大丈夫なのだろうか、いやこの少女がいるなら大丈夫なのかも、と一抹の不安と呼ぶには不純物の多い何かが純也の胸中を過ぎった。
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